大分暗くなった道をお目当ての家を目指して歩いていた。既に時刻は夜と言っても良い時間帯になっていた。暗い夜道の中、自分の吐く息だけは白く、首に巻いたマフラーがあったとしても、寒くかんじるのはまだ2月と言う季節のせいだろう。少しだけ足早になりながら、私は静かな道を一人で歩いていれば、すぐにお目当ての家へと着いた。チャイムを鳴らせば、中から聞こえてくる騒がしい声に思わず頬が緩むのを感じるのはきっと中から聞こえてくる声が、暖かいものだからだろうと思う(あぁ、今日もツナ頑張ってるな・・・・・)








「はーい、どちらさま・・・・・・って、?!」




「うん、ツナやっほー」







あぁ、そういえば今日ツナの家に行くと伝えるのを忘れていた気がする。突然訪問してしまったせいかツナはとても驚いた顔をしていた(ちょ、これじゃあ、私獄寺と同レベルじゃん・・・・・!)いや、私としたことが、なんて事を!と思いながら「ごめんね。急におしかけて、迷惑だったよね」と言えば、ツナは焦ったように「いや、全然迷惑じゃないって!今だって、ちび達とゲームしてただけだし、」と言った。やっぱり、ツナは優しい。いや、本当あまりの優しさに涙がでそうなぐらいだよ。いつも連絡もいれずに突然家に来る獄寺には今度私から言ってあげるからね!と新たな決意を誓っていれば、ツナが口を開いた。









「それで、こんな時間にどうしたんだよ?」





「あー、えっと、これを届けに」







そういいながら、私は鞄とは別に持っていた白い紙袋をツナに見せた。私の行動にツナは首をかしげる仕草を見せる(うわー、すっごい、普通に可愛いよね!)(いや、だけお男の子に可愛いは失礼だろ!)白い紙袋の中には今日の為に準備したチョコレートがいつくも入っている。私はその中の一つをとりだして、ツナへと渡す。ツナは未だにこのプレゼントが何か分からないのか意味が分からないと言った顔をしている・・・・・・ツナは今日がバレンタインだという事を知っているんだろうか。とても、知っているとは思えない態度だが、京子ちゃんやハルちゃんにはチョコレートを受け取っているような気がするのに










「(もしかして、私がバレンタインにチョコレートを準備するキャラに思えないとか?!)」









確かに、口も悪いし、京子ちゃんやハルちゃんみたいに可愛い女の子ではないからツナにとっては、私は男に近い存在なのかもしれない(これでも、一応女の子なのに!)その事に多少のショックを覚えながらも、普段自分と獄寺の言い合いを思い出し、そう思われても仕方がないと無理やりに自分を納得させた。先に言っておくが、無理やり納得させただけであって、心のそこでは納得はしてない。どんなに獄寺と言い合いをしていようとも、私は正真正銘の女の子なの、だ。バレンタインにチョコレートを準備する、純情な乙女・・・・・と言う言い方は自分でも鳥肌がたってきそうなので、普通の女の子だ、ということにしておく。













「・・・・・・・(だけど、さすがに男って思われるのはなくない?ツナ、酷くない?私、女の子なんだけど?いや、本当、酷いな・・・・!)」






?」






「(ある意味ツナにとったら、男からバレンタインのチョコレートを貰うような感じになっちゃうのかな?!うわ、それってツナにとったら迷惑この上なくない?)」






!!」





「あ、何?!」







「まったく、何じゃないだろ。それで、何だよ、これ?」





「・・・・・・えっと、うん、チョコレートで、す」





「え?!」






「いや、ツナにはいつもお世話になってるからチョコレートを、ね。うん、まぁ、そういうことだから、はい」










しどろもどろに話す私を見て、ツナは少しだけ頬を赤らめながら「ありがとう」と言った。その言葉に私は良かったと、息を吐いた(いや、本当、受け取って貰えてよかったよ)私はまだ箱の中に入っている箱を取り出しながら、今だ嬉しそうに微笑んでいるツナに声をかける。











「それで、こっちは山本にこっちは獄寺に渡しといて」




「あ、うん」




「あぁ、だけど獄寺がいらないって言ったら、ツナ食べて良いから。」








獄寺のことだ私からのチョコレートなんてきっと素直に受け取らないことが存分に考えられる。なんとも、ムカつく奴だが今までに何回か助けて貰ったこともあるし、チョコレートを準備しないわけにはいかなかった。それに、何だかんだ言いつつ獄寺は私のチョコレートを受け取ってくれると信じている。奴は雲雀さん同様とても分かりづらいけど、中々優しい奴なのだ。まぁ、最も獄寺の場合口が悪いからとても分かりにくいにこしたことはないのだけど。だけど、その分かりづらい優しさであっても助かっている部分があるのは認めたくないが、事実なのだ(いや、まぁ、ムカつくにこしたことはないんだけどね!)











「それで、こっちはランボくんにイーピンちゃんね」




「えっ、あいつらの分まで準備したの?!」





「そりゃ、ね。それに準備しないと折角ツナの為にあげたチョコレートを食べられそうな気がしたし」





「はは・・・・・(確かに十分考えられる・・・!)」











ツナの笑いに私はツナも私の言葉に同じ考えなんだろうと思った。つい先日だって、ツナの朝ごはんランボくんが食べたとか言ってなんだかツナが可哀想なときがあったし(その時は私が持ってたお菓子をツナにあげたけど、)ランボくんに食べられてしまうことはもう分かりきった事だ。それにランボくんだけ用意してイーピンちゃんに用意しないのもイーピンちゃんに悪い気がしてならないし、それならもういっその事二人の分を準備した方が良いに決まっている。確かに、バレンタインとは好きな男の子にチョコレートをあげる日かもしれないけど、所詮はチョコレート会社の策略。それに乗っかる事もないだろう。







「で、これはリボーンに献上しておいて」






け、献上っ?!






「うん。ほら、これで少しは私にも優しくなってくれないかなー、なんてね・・・・・





「・・・・・」











まぁ、たかがチョコレートを献上したぐらいでリボーンが特訓をやめてくれるとは微塵もおもっていないんだけど、それでもそう願わずにはいられないのがこの年代の女の子なんだと思う(いや、年代とか全然関係ないとは思うけど)リボーンに献上してくれと言った時のツナの顔はとても、私を哀れむような瞳だった。多分、ツナも私も気持ちが痛いほど分かるんだろう。ツナぐらいだ。リボーンとの特訓という名の嫌がらせを、マフィアごっこの遊びとか、本物の特訓とか思っていないのは。ま、そう思えないからこそ、私達は苦労しているんだろうけど、ね(なんか、泣きたくなっちゃった)













「だけど、こんなに準備して大変だっただろ?」






「あー、まぁ、だけど、皆には感謝してるところもあるしね。それに、私があげたかっただけだから」











もちろん、ツナにもたくさん感謝してるよ、と笑いながら言えばツナは
「俺もには感謝してるよ」と笑いながら言ってくれた。暗い夜の闇の中、ツナの家から聞こえてくるランボくんやイーピンちゃんの少し騒がしいとも思える声や、その優しいツナの微笑が、寒いはずなのに、私の気持ちを暖かくしてくれる(ランボくん、また泣いちゃってるみたいだし・・・・・)少しだけその暖かい余韻に浸りながら、私は目の前にいるツナを見た。











「ツナ知ってた?疲れた時には甘いものなんだよ」






「あ、そうなんだ」





「だから、それ食べて明日から頑張って、ね」











私の言葉の真意にツナは気付いたんだろう「そうだね。はぁ、明日からも大変なんだろうな」と少し遠くを見ながら言った。ツナの口からでている息も私の息のように白く、なっていることに気付き、私はツナの格好を見た。私がチャイムを鳴らしてからすぐに出てきたんだろうと思えるようなツナの格好。それはとても、この2月の季節の中ではあまりに寒々しい格好だった。僅かに見えた指先も赤い。きっと、寒いのを我慢して私と話してくれているんだろう。









「じゃあ、ツナ。私、帰るからそれよろしくね」








ツナに渡したチョコレートの箱の山を指差しながら言えば、ツナは焦ったような声をだした。その声に私は歩き出していた足をとめて、ツナの方へと体を向ける「ちょっと、待ってて!」と、私の言葉も待たずにツナは家の中へと走って入っていった。私は何事だろうと思いながらツナの言葉に素直にしたがい、大人しくそこで待つ。見上げた空の星は、とても綺麗に輝きながらその小さな存在を私に教えてくれた「」名前を呼ばれ、そちらを向けばツナが先ほどよりも暖かそうな格好をして、玄関から出てきた。







「もう暗いし、送っていくよ」




「え、いや、さすがにそれは、」





「気にしなくて良いよ。それに、リボーンにも送っていけって言われたし、」










その言葉に見上げてツナの部屋を見れば、窓の向こうからリボーンがこちらを見下ろしているのが分かった。ニヤッと分かりにくい微笑をうかべている。手には銃と、私があげたチョコレート。どうやら、私のチョコレートは献上品として上手くやっているらしい(頑張れ、チョコレート!!この調子でリボーンが特訓が止めるようにしてくれ!)ツナの方を見れば、こちらを見て微笑んでいて、私は観念してツナに送って貰う事にした。










「ツナ、ありがとうね」








ただ送って貰う事に対してだけじゃなくて、いつもツナには助けられている、その事を含めてお礼を言えば、ツナもその事に気付いたのか「こちらこそ、いつもありがとう、」と微笑を返しながら言ってくれた(まさか、気付くとは。これも彼の持つ超直感の力なんだろうか)寒いはずなのに、暖かいと感じることができるのは隣で優しく微笑んでくれるツナのおかげなんだろう。ツナ達といるときにはいつも感じられるこの暖かさを、私は大切にしたい、と満天の星空に思った。いつまでも、この星空の下で、ツナ達と一緒にいられれば良いのに、と、普段の私なら思わないようなことを思った。それが、例え、自分がマフィアというものにならなければいけないとしても、私は君たちと一緒にいたいのかもしれない。








その気持ちに嘘はない



















(2008・02・15)