あまいチョコレートの香りが学校中でしたような気分が今日一日した。そんな今だ放課後になっても甘い香りを漂わす学校を後して、私は校門へと急ぐ。鞄の中にはお世話になっている人たちに配る為の義理チョコ(本命チョコなんてあってたまるか!)と友達から貰った友チョコで鞄の中はパンパンだった。少しだけ、紙袋を準備すればよかったと、後悔したところでもう遅いのだけど。そんな事を考えながら校門を出れば、また見かけてしまった女の子の山。その光景に私は思わず、持っていたチョコレートの沢山入った鞄を落としそうになった。あー、神様、私のこと本気で嫌いでしょ!
この光景を見るのは正直、三度目だ。何故、この光景を目にすることを思いつきもしなかったんだろう。いや、まさか、とは思っていた。だけど、今日はバレンタインだし、どんなに変態、いや、変な彼であっても、ね、顔だけはかっこよいから沢山の女の子にチョコレート貰うと思って、きっと忙しくなるであろうと思って正直ここまで来ると思ってなかったん、だ!って言うか、思いたくも無かったんだ!あぁぁ、どうする私?!また知らない人大作戦で行っちゃうのか?!だけど、この作戦が失敗して捕まったときの骸さん、笑顔だったのにめっちゃ恐かったもんな・・・・・!目、目が笑ってなかったもんな・・・・・!!しかし、ここで問題なのは今、彼を囲んでいる女の子達も激しく恐いということだ。それも彼女達は同じ学校。骸さんより性質が悪い。
「(これは、もう見なかったことにしよう・・・・)」
前回の作戦も失敗してしまったし、それが一番良い作戦に違いないと思った。えっと、名づけて見なかった大作戦!(・・・・・自分のネーミングセンスに泣きそうかも)それでは、隊員!作戦を実行せよ!先日の、知らない人大作戦のような失敗は許されないぞ、と思いながら鞄を抱え込む形でじわりじわりと女の子の軍団から離れた。帰る道とはまったく正反対になってしまうが、まぁ、自分の今後の生活の事を考えればしょうがない事だろう。うん、今日ぐらい遠回りしたって良いよね!むしろ、ダイエットとでも思おうぜ、私!
少しだけ離れてホッと息を吐き、私は踵を返して勢いよく走り出した。
あの様子だときっと、骸さんは私の存在に気付くことはないだろう。なんか、ずっと、あそこで私がでてくるのを待っているのか、と思うと心が痛むのだけど、そもそもあんな所で待つ骸さんのほうが悪い。あの人、私を女の子の嫉妬で殺したいんだろうか。本当、自分が黙っていればモテるってこと知ってるだろうに、さ!!バレンタインの甘ったるい町並みを歩く。ふふん、と思わず言ってしまいそうなぐらい、骸さんと言う名の変態から逃げ切れた事は私にとって喜ばしい事だっ「クフフ」あー、もう、なんでいるのかな?!いや、いるかは分かんないよ。実際いるかは分からないけど、この笑い声、私のすぐ後ろから聞こえたんだよね。いや、本当可笑しくない?後ろ、見たくないんだけど。ポンッあれ、なんだか、肩に手おかれたんですけどー!に、逃げれねぇ!
「おや、こんなところで偶然ですね」
「そ、そうですねー!!」
まるでお昼の長者番組の司会者が着席に話題を振ったときの様に答える自分。た、タモさん・・・・・!あなたのような心優しい方になら私も満面の笑みでこの言葉をかえすことができたでしょう。だけど、今回は相手が悪いです。相手はあの骸さんなのです。満面の笑みで「そうですねー」なんて答えられるわけがないのです。私も人生ここで終わりですか!獄寺で言う所のジ・エンド・オブ・私なのですか!!教えてください、タモさん!!と内心冷や汗ダラダラの状態で振り返れば、素敵な笑顔で微笑む骸さんがいた。
「また、逃げました、ね?」
「(ひぃぃぃぃ!!)」
またもや目が笑ってない骸さん。どうやら先ほどの私の行動はすべてお見通しだったらしい。いやいや、だけど、骸さん。あそこで骸さんから逃げ切らないと私は命の危機に瀕していたいたんですよ。ま、今は骸さんの手によって命の危機ですがね・・・・!
「まったく、僕がわざわざ会いに来たのにそれを無下に扱うなんて君ぐらいですよ」
「何回も嫌がらせの様に学校で待つのも骸さんぐらいですよ」
「僕は嫌がらせなんかしてません」
「自分がどれだけ女の子の視線を集めるのかはご存知で?」
「えぇ、そりゃもちろん」
「(うっぜぇぇぇ!相手にできない!)」
もうね、うざったいよね!この人!自分がどれだけモテるか分かってあんな嫌がらせしてくるんだから!と思いながら骸さんを見れば、骸さんは鞄も持たずに手ぶらだった。私の予想としては紙袋にいっぱいのチョコレートを持っていると思っていたのに・・・・・あぁ、だけど、もしかしたらチョコレートが嫌いで、断ったのかな。そうだとしたらなんと罪深い男なんだろう!って、いや、まぁ、チョコレート貰うか貰わないかは本人の自由だしね。私には何も言うべき資格はない(あー、だけど骸さんだったらたくさんのチョコレート貰えるんだろうな)(う、羨ましい・・・・・!私だって男に生まれて沢山チョコレート貰いたかった!あ、でも、私が男になっても、かっこ良くはないと思うからチョコレートは貰えないかも)
「それで、骸さんは「何しに来たかなんて、まさかそんな野暮なこと聞きませんよね?」」
「う゛っ!(今まさに聞こうと思ってたんですけど!)」
「。今日はバレンタインですよ?もちろん、にチョコレートを貰いに来たにきまってるじゃないですか」
「(別に決まってないんですけどー!)」
にっこりと微笑む骸さんに私は何もいえなかった。この人、チョコレート苦手じゃないのかよ・・・・・!私はもう、諦めるしかないと思い少々重たい鞄の中をさぐってチョコレートをとりだす。目の前の骸さんに突き出せば骸さんは驚いた顔でそれを見ていた「はい、チョコレートですよ」と言えば、「まさか、本当にもらえるとは思ってませんでした」の一言。その一言私にとても失礼じゃない?それに、そう思っていたのなら、最初からチョコレートを貰いに来たとか言うなよな!!さすがに、千種くんと犬くんだけでに渡すのは悪いかなって思って骸さんのも作ったんですよ、不本意ながら!(それに、千種くんと犬くんが後でなんか骸さんからされたら可哀想だしね!)
「クフフ、ありがとうございます」
「別にお礼なんて良いですよ。そのチョコレート、パイナップル味ですから」
「えぇぇ?!パイナップル味って、どういう・・・・・?!」
「そのままの意味ですよ」
私が笑いながら言えば骸さんは真っ青になって(骸さんのこんな顔は珍しい)なにやらブツブツと呟きだした。え、いや、骸さんがパイナップル嫌いってしってたから、こんな事言ったまでで、本当にパイナップル味のチョコレートを渡したわけじゃないんですけど。
「パイナップル味とは・・・・・・パイナップルは苦手ですが、の作ったものですし、食べないわけには。あぁ、これはきっと神様が作った試練なんですね!!愛の試練!」
「いや、すみません。普通のチョコレートです。普通のチョコレートですからそこまで想像力を豊かにしないでください(なんだよ、愛の試練って!)」
「あ、そうなんですか。それはそれで残念ですね。まぁ、あとで美味しく頂きますね」
途中、骸さんが呟いた一言は聞かなかった事にした。私は鞄の中から、千種くんと犬くんの為に準備したチョコレートを取り出して、骸さんに渡して貰えるように頼んだ(これが、一番効率の良い配り方だとおもう)骸さんは「えぇ、分かりました。二人も喜びますよ」と微笑を深くした。やっぱり、美形。笑った顔は骸さんの性格を知っている私でも、見惚れてしまいそうなものがある。ま、性格知ってるから見惚れるといっても一瞬ぐらいだけなんだけど(だけど、自分が作ったチョコレートでそんな風に笑ってくれていると思うと、すごく嬉しい)
「さて、じゃあ、行きましょうか」
「は、何言ってるんですか・・・・・?」
「僕は実はチョコレート大好きなんですよ」
「へぇ・・・・(どうでも良い情報だなー)」
骸さんはチョコレートが好きらしい。意外、と言えば意外かもしれない。男の子の中にはチョコレートが苦手な子もいるのに、チョコレートが好きだなんて。それに骸さんの仕草や話し方からはとてもチョコレートのような甘いものが好きとは想像もできない(なんだか、大人らしいものの方が似合う気がする)・・・・・・って、いや、待て待て。ここで流されてるんじゃないよ、自分。何故、「行きましょうか」で、「チョコレート大好き」に繋がるのかが全然分からないんですけど。だって、チョコレート好きだからって、どこに行こうと言うんだ。私は骸さんにチョコレートを渡したんだから、今日の骸さんの私に対する用事は終わったはず。なら、私にもうかまう必要はないだろうと思い骸さんを見れば、骸さんはにっこりと微笑んだ。
「バレンタイン中はいろいろチョコレートの商品が出回っているんですよ」
「それが、」
「もちろん、の好きなケーキ屋でも、バレンタインと言う事でチョコレートケーキの新作がでてましたが」
新作ケーキ・・・・・・!そ、それは、とても食べたいんですけど!いや、うん、ほら、私ってケーキって単語に弱いじゃん!ちらり、と骸さんに視線をうつせば、骸さんは微笑んだまま「早く行かないと売り切れてしまうかもしれませんよ?」と、言った。そ、それは困る!私は渋々、本当に本当に不本意ながら骸さんとケーキ屋さんに行く事に決めた。骸さんがいつの間にか私の手を取り出して歩き出す。その事に驚きながら骸さんを見れば、骸さんは意地悪く微笑みながら「まぁ、どんなチョコレートであっても、の作ったチョコレートには敵いませんが」と言った・・・・・クソッ、誰かこの一言で少しだけときめいてしまった私を殴ってやってください!!(骸さんごときにときめくなんて!)(僕ごときって、酷くないですか?!)
その微笑にいつも騙される
(2008・02・15)
パイナップル味のチョコレートは美味
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