T.前日
ねぇ、、デートしようか。と綱吉くんに言われたのは付き合い始めて2ヶ月ほどたった昨日のことだった。まさかの綱吉くんからの言葉に私はただただ頷くことしかできなかった(あの時の私きっと変な顔してたんだろうな……!)でも、だって、付き合い始めて家まで綱吉くんが送ってくれることはあったけど、デートなんて初めてのことで、さらっとその言葉を紡いだ綱吉くんには思わず凄いなー、と思ってしまった。
そんなこんなで明日はついにデートの日。着ていく服をベッドの上にならべるなんて、まるで少女マンガのような部屋の状況に私は恥ずかしくてたまらなくなった。
初めてのデートに胸がドキドキするのは相手が綱吉くんだから。一体どこに行くんだろうと期待と少しだけの不安がある。デートなんて初めてで、どうすれば良いかなんて分からない。
綱吉くんのことだから、きっとデートなんて初めてなんかじゃないんだろうけど、失敗してしまったらどうしようと思うと胸が痛くなる。
綱吉くんに思いが伝わった時は恐いものなんてなくなったと思ったけど、そんなことは全然なくて幸せの中にたまに不安が一瞬よぎる。
この時が永遠には続かないのではないかと思ってしまうときがある。それも、綱吉くんのあの笑顔を見ればそんな不安なんてふきとんでしまう。でも、やっぱり私は常に怯えてる。
綱吉くんが好き、だからこそ、恐い。
目の前の洋服の山から、なんとか服を選び出した私はその服を壁にかけて電気を消した。楽しみ、で眠れないかもしれない、なんてあまりに自分が乙女みたいなことを考えているのに気づいてハァとため息を零しながら私は眠りについた。
綱吉くんに会ってから、綱吉くんを好きになってから、私は大分変わってしまったみたいだ。
U.当日(朝)
約束の時間の5分前にしっかり私は駅前とついていた。何度も服装を確認してしまうのは仕方がない話で、ドキドキしながら辺りをうかがえば、すぐに私の視界には綱吉くんの姿が飛び込んできた。綱吉くんも私の視線に気づいてか、視線が合うといつものように私の名前を呼んだ。
「」
「あっ、えっと、お、おはよう!」
「うん、おはよう」
私の不自然な挨拶にも綱吉くんは笑顔で返してくれる。やっぱり、ドキドキしてるのは私だけみたいだ。そんなことを考えれば少しだけ昨夜の気持ちがよみがえってきてしまい、私はハッとして笑顔をつくった。こんな顔綱吉くんに見せるわけにはいかない。こんな不安を綱吉くんに悟らせるわけにはいかない。
今はこの一瞬を楽しみたい。
微笑みながら手を差し出してきた綱吉くんの手を私はためらいながらも握った。この前暖かくない、なんていっていた綱吉くんの手はしっかりと暖かくて綱吉くんが私のとなりにいて、私の手を握ってくれているんだと言うのを改めて確かめることができた。
この手がいつか、私を離れてしまう?
そう思うと一気に恐くなって、私は縋りつく気持ちでいつもよりしっかりと綱吉くんの手を握り返していた。そのことに気づいた綱吉くんがチラリとこちらを伺う。それを誤魔化すかのように私は言葉を紡いでいた。
「ねぇ、今日はどこ行くの?」
「駅の地下商店街に行こうと思ってたんだけど、いや?」
「そんなことないから!」
綱吉くんの言葉に頭を左右に振り私は否定する。そんなまさかいやなわけがない。
「えっと、その……私綱吉くんと一緒だったらどこでも良い……、です」
恥ずかしさのあまり敬語になってしまったのはご愛嬌ということで許してもらいたい。思わずでてしまった言葉に綱吉くんは僅かに目を丸めて、嬉しそうに笑ってくれた。お願いだから、そんな笑い方しないで欲しい。私の心臓が今日一日もちそうにないから。
「俺も」
と一緒だったらどこでも良いや、と言って私の手を握る力を強めると歩き出した。そんな事言われたらさらに私の顔は真っ赤になってしまう。恥ずかしい、嬉しいという気持ちがこみ上げてきて、私は何も言えなくなってしまった。
V.当日(夕方)
ショッピングモールの中にはたくさんの人がいると言うのに、綱吉くんの姿しか視界に入らなかった私はかなり重症なのかもしれない。あまりの自分の重症っぷりに僅かに頭が痛くなる。
夕焼けの中を歩きながら、となりを歩く綱吉くんの姿を横目に自分のあまりの乙女ぶりに昨日と同様心の中でため息を零した。近づいたら近づいただけ、話したら話しただけ、好きになっていく。
好き、という気持ちにはどうやら上限なんてないらしい。好きの気持ちがどんどん溢れていて、自分でもどうしたら良いのか分からない。そして、その気持ちが溢れてくるたびに、不安も同じように大きくなっていく。
だから、恐い。
好きという気持ちだけが大きくなってくれれば良いのに、と思っても、不安もどんどん大きくなってたまに、好きよりも、不安のほうが大きくなってしまう。そんな時は何を考えても気持ちはマイナスな方にしかいかなくて、幸せなはずなのに何だか泣きたくなってしまう。特に一人のときは、もう駄目。この不安を拭えるのは、綱吉くんだけ。
「、今日は楽しかった?」
「もっちろん!ショッピングモールの人の多さには参ったけど、でも凄い楽しかったよ」
「そっか、良かった」
ホッと息を吐いて、綱吉くんが笑う。あぁ、幸せだなぁ、って凄く思う反面、この笑顔がいつか見られなくなってしまうんじゃないかと思ってしまう。付き合いだして何ヶ月しかたっていないにも関わらず別れたときのことを考えてしまうのは、なんでだろう。
こんな不安になるのは、なんで?
「」
家の目の前について綱吉くんが私の名前を呼んだ。それに向かい合えば、いつもの帰り道のお決まりパターンだ。ここで綱吉くんが笑いながら手をふって、私はその後ろ姿を見送る。でも、今日は違った。綱吉くんがこちらを真っ直ぐに見ていて、私もその視線を外すことができない。
近づいてきた綱吉くんの顔に、思わずえ、と声を零せば綱吉くんの柔らかい髪があたってこそばゆく、そしていつの間にか綱吉くんの顔は離れていた。私は呆然としながらも、手を頬にあてる。
今、私の頬に、綱吉くんの唇があたったような。
いや、そんな、まさか、と思いながら綱吉くんを見上げれば、綱吉くんの顔が思ったよりも近くにあって驚いた。
「ありがとう、」
「あー、えー、と」
きっと、それはいつか綱吉くんが私から離れていってしまうような気がするからだ。
どうしてそう思うのかは分からない。だけど、私は感じているんだ。いつか綱吉くんがどこか遠くに行ってしまうんじゃないかと。だから、私は恐い。
どんどん好きになっているからこそ、離れるのがもっと嫌になる。ありがとう、と綱吉くんが私に囁くたびにそれがいつか離れていくときのカウントになっているんじゃないかと思ってしまう。これはただの私の考えすぎなのかもしれない。でも、私にありがとうと言う時には絶対に寂しそうに笑う綱吉くんの表情は、いつもどこか遠くを見ていてその顔は私の胸を締め付ける。そんな寂しそうな顔するくらいならありがとうなんていらないのに。
「離れていかないで」
静かに呟いたその言葉はもう見えなくなってしまった綱吉くんには届くわけがなかった。
(2008・11・08)
久々すぎる更新です。すいません……!第二部準備中ですので、お待ちいただけると嬉しいです!
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