にぎわう昼休みの時間に、その喧騒から離れるかのように屋上で山本と獄寺くんといつものように三人で昼食を食べていた。母さんの作った弁当をつまみながら、山本と獄寺くんとの会話を楽しんでいれば、ついこの前まで、彼らに嫉妬していた自分が馬鹿らしく思えた。友達に嫉妬して、俺はどうするつもりだったんだろう。それに、結局彼らがいなければ、俺はきっと、にこの思いを伝える事なんてできなかっただろうに。だけど、友達に嫉妬してしまうぐらい、と付き合うまでの俺は必死だったんだとも思う(まさか、付き合えるなんて思ってもなかったしな)
、と名前で呼ぶことのできる山本が羨ましくて、と仲が良い持田先輩が羨ましくて、と隣の席の獄寺くんが羨ましくて、いつの間にか俺は彼女の周りのすべての人がうらやましいと感じるようになっていた。多分、あせっていたんだろう。折角仲良くなれたのに、俺から離れていこうとするに気付いてしまったから。だから、俺はこんな大切な友達にまで嫉妬してしまったんだ。
「なー、ツナ。お前、いつからのことが好きなんだよ?」
「えっ?」
「ば、馬鹿!山本、10代目に何聞いてやがるんだよ」
いきなりの山本の質問に俺は目を見開く。あー、この二人にはいつからのことが好きなのか言ってなかったっけ?いや、まぁ、確か誰にも話したことはないんだけど「いい加減にしろよ、山本!」と山本を怒鳴りつける獄寺くんに「いいよ。別に答えられない質問じゃないし、」と言えば、獄寺くんは大人しくなった。だけど、さすがに、こんな話をするのは恥ずかしいような気がするんだけど、な「それで、ツナ、いつからのことが好きだったんだ?」と遠慮なしに聞いてくる山本に俺は苦笑しながら、のことをいつから好きなのか、を思い出していた。
中学三年の時。俺は何の為に学校に行ってるんだろう、と考えた事があった。以前なら、並中のアイドルである京子ちゃんを一目見るために来ていた、と答えられたけど、だけど、いつからか俺はそんな風に考えながら学校には通わなくなっていた。山本や、獄寺くんがいて、たくさんのことを学校で経験して、ほかにもたくさんの理由があるからこそ、俺は学校に通っていた。しかし、やっぱり俺はまだまだ駄目ツナで嫌になることもたくさんあった。と話したのも、そんな嫌になった日の学校からの帰り道。同じクラスとは言ってもなんら関係のなかった俺はその日までと話をしたことなんて一回もなかった。
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今日は、朝から不運続きだったのか、体育でもサッカーボールを顔面でキャッチするし、数学であてられても俺は分からずにクラスメイトからは笑われて、一日恥をかきっぱなしだった。リボーンと一緒にいるようになって、確実に駄目ツナと呼ばれることは少なくなったと思っていたのに、俺はリボーンがいても何も変わらないまま、ただの駄目ツナ。それが悔しくて、なんとなくリボーンに怒られるとは分かっていても、真っ直ぐに家へと帰る気が起こらずに呆然と何も考えずに歩いていた。そして、たまたま寄った公園に入った。遊具で遊ぶ子供もいない。少しずつ夕日は沈み、暗くなる空。静かな公園に俺の気分はまた低くなる。もうため息さえ、でやしない。もう帰ろう、と思い踵を返せばそこには一匹の犬がいた。
「ワンッ!」
「うわっ」
飛びついてくる犬に俺は思わず、尻餅をついた。犬はまだあまり好きじゃないと言うか、正直恐い。そりゃ、チワワとかなら大分平気になったけどこれだけ大きい犬に飛びつかれて、平気なわけがない(あぁ、こんなところも駄目ツナだよ・・・・・)倒れたまま腕を前に出して、目を閉じてくるであろう衝撃を待つ。だけど、いつまで経っても犬は飛び掛ってこずに、その代わりに「だ、大丈夫ですか?!」と言う女の子の声がふって来た。恐る恐る目をあけて、確かめてみればそこにいたのは、同じクラスのさんだった。話したことがないけど、山本と仲良く話している所は数回見たことがある。それぐらいの認識しかしていない女の子に、こんな失態を見せるなんて、絶対笑われる、と思っていればさんは俺のほうへとスッと手を差し出してきた。俺はそれをわけも分からずに見つめる。
「ごめんね、うちの犬人懐っこくて・・・・・えっと、怪我はない、沢田くん?」
「あ、うん。ありが、とう」
俺は躊躇いながらも差し出されたさんの手をとる。ハルとかはよく手を握ってくるけど、そこまで仲が良くない女の子の手を握るのは少し緊張した。初めて握るさんの手は暖かくて、俺の手よりも大分小さく感じた。立ち上がり砂をはらえば、落としていた鞄をさんが鞄についた砂をはらって俺のほうへと渡してくれた。それにしても、さんは俺の名前を知っていたのか。まぁ、駄目ツナで有名(と言って良いのか分からないけど)だから、きっと、さんが俺を知っているのも俺があまりに駄目で有名だからなんだろう。少し、そう思うとまた気分が沈んだ。
「それにしても、沢田くんこんなところで何してるの?」
さんに聞かれて思わず答えにつまる「ちょっと、用事があって」と言えばさんは笑顔をうかべて、そうなんだ、と言った。その笑顔に俺は何故か、心臓がドクンとはねた気がした(俺が好きなのは京子ちゃんなのに)
「そう言えば、沢田くん。今日、数学当たってたよね」
「えっ」
さんの言葉に俺は、崖から突き落とされたような感覚に陥った。あぁ、さんも俺のことを駄目だと、笑うんだろうか。駄目ツナといって、俺のことを周りの奴らのように笑うんだろうか、と思った。だけど、予想とは違ってさんは優しく微笑んで(馬鹿にされると思っていたのに、)「沢田くん」と俺の名前を呼んだ。こんなに優しく名前を呼ばれたのは、初めてかもしれないと思えるぐらいさんの声色は優しかった。
「あの問題難しかったよね。先生は簡単だ!とか言ってたけど、私も解けなかったんだよ。数学は得意なほうって思ってたのに」
あの問題が難しかったわけがない。あの問題は中学2年で習う問題で、俺達は今中学3年。それに山本がさんに数学を教えて貰って、その後の補習で俺なんかとはとても比べものにならないぐらい良い点数を取ったことを俺は知っている。だから、それだけ数学が得意なさんが、あの問題を難しいと感じるわけが無い。だけど、さんは依然として優しく微笑みながら「だから、解けなかったのも気にしなくて良いと思うよ。回りの人たちだって笑ってたけど、絶対解けてなかったに決まってるから!」と言った。きっと、さんは俺がこの問題を解けなくて、周りの奴らや、先生に笑われて恥ずかしい思いをしている間も笑わずに、いてくれたんだろう、と思う。きっと、俺があんな風に笑われているのを見て、俺の心配をしてくれていたんだろう、と。そう思うと、さっきまで気分が沈んでいたはずなのに、少しだけ嬉しくて、今日が良い日のように思えてきた。
「(自分のことながら単純かも、な)」
ただ駄目ツナと笑わないでいてくれる人を見つけただけで、その日一日が駄目ライフだったとしても、良い日だと思えるようになるなんて自分の単純さに笑いがこみ上げてきそうだ。だけど、以前なら駄目ライフを送ったとしてもこんなに考えることもなかった(むしろ駄目ライフじゃない方が珍しい事だったし)俺は俺で精神的にリボーンのおかげで成長したのかもしれない。
「それに、沢田くんって色々凄いしね」
「凄いって、俺が?」
「うん。だって、あの雲雀さんと普通に話してたり、とか他の人じゃ絶対にできないし、」
「・・・・・(あれは話してると言って良いのかな)」
「とにかく、私は沢田くんは凄いと思ってるから!」
満面の笑みで言うさん。俺なんかが凄いわけないのに。俺なんか駄目ツナなのに。それなのに、さんは俺を凄いと思ってくれると言ってくれた。ただのクラスメイトと思っていた人が、俺の欲しいと思っていた言葉を、誰も俺なんかには言ってくれないと思っていた言葉をくれた「ありがとう、さん」と言えば、さんは「何が?」と首をかしげた。その仕草が可愛くて、愛おしいものに感じた。そんな自分の感情に俺自身も戸惑った。俺って、その京子ちゃんのこと好きなはずなのに、なのに、まだ話して間もない子にそんな感情を抱くなんて。だけど、少しだけ考えて納得した。憧れと、恋は違う、と。
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「その日からかな?のことを好きだと思い始めたのは。なんだか、一目惚れに近いかもね。それまでほとんど話したこともなかったし」
すべてを話し終わる頃には、もう弁当の中身はなくなっていた。山本も獄寺くんも買ってきたパンをすべて食べ終わっていて、時間を確認すればそろそろ5時間目が始まる時間だ「へぇ、そうだったんだな!」と楽しそうに言う山本に、獄寺くんは「まさか10代目がそんな事を考えていたとは・・・・・右腕として力になれずにすみません!」と謝ってきた(いや、謝られても困るんだけど、)弁当を片付けて立ち上がり、俺達はまたくだらない事を話しながら屋上を後にする。そういえば、はついこの前も俺のことを「凄い」と言ってきたっけ。だけど、本当は俺なんかより全然のほうが凄い、と思う。俺が欲しいと思う言葉をずばりと言い当てて、俺に言ってくれる。そして、いつも俺に優しく微笑んでくれて、が俺を好きでいてくれているなんて、未だ夢だったんじゃないかと思ってしまうこともある。だけど、が俺の隣にいて、俺に笑いかけてくれるたびに、俺は君がいて良かったと、思うんだ。ありがとう、。俺の隣にいてくれて。
そんな君が大好きだよ
(だから、これからも俺の隣にいて欲しいんだ)
(2008・02・17)
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