目の前の机の上にはたくさんの書類の山。

あまりに片付きそうにない、その仕事たちに俺はため息をついた。この様子じゃ、とても今日は寝れそうにないだろう、と思うと仕事なんて投げ出してどこかに逃げたくなってしまう。



だけど、俺はボスだから、そんな事許されるはずもなく、ただ仕事をこなすことが役目だ。それでもたまに嫌になることもある(まぁ、10年前の俺だったらきっと逃げ出していたことは間違いないだろうから、その時に比べたら俺も成長したんだろう、な)背伸びをして、机の上においていた万年筆をもう一度持ち直す。


さて、なんとか明日の朝までには終わらせないと、と思いつついざ書類に書き込もうとした瞬間にドアがいきなり開いた。咄嗟の事に思わず俺の手が止まり、大切な書類には万年筆のインクがジワリと滲んでいく。





「綱吉さん!」




入ってきたのは俺の大切な女の子でまだ幼さが少し残る顔は、とてもマフィアなんかには見えない。いや、まぁ、実際はマフィアと言うよりはお手伝いさんと言ったほうが適切な表現なのかもしれないけど、それでもファミリーの仲間には変わりがない。


そして、俺が守ってあげないといけない、大切な女の子。




・・・・・・」



「ご休憩にと思いまして、紅茶を持ってきました!」


「そう、ありがとう」




から笑顔で紅茶を受け取って、紅茶を飲む。その間、ずっとは俺の顔をニコニコしながら見ていて少しだけ気恥ずかしかった。だけど、そんなことを自分より年下のには知られたくないに決まってて俺はサッとから視線をずらした。

喉を通っていくが淹れてくれた紅茶は俺が淹れる紅茶よりも何倍も美味しく感じられた(いや、実際に俺が入れる紅茶の何倍も美味しいんだけど、ね)少し飲んだ紅茶のカップを机の上に置き、視線をあげを見れば、は未だニコニコとした笑顔を俺に向けて、笑っていた。




「美味しかったよ」



ニッコリと微笑んで言えば、の顔が少しだけ赤くなった。あぁ、本当俺にはもったいないぐらい可愛い子だ。



「本当ですか!!良かったです。綱吉さんの為に淹れた紅茶だったんです!」

「俺の為に?」

「はい!仕事で疲れていると思って、淹れてきたんです!!」




嬉しそうに話す。俺の為に、と言う言葉がとてつもなく嬉しかった。





「そうだったんだ。だけど、俺はが俺に会いに来てくれただけで疲れなんてなくなるよ」




その言葉には真っ赤になる(10年前の俺だったらこんな事恥ずかしくてきっと言えなかっただろうな・・・・・・)だけど、この言葉には嘘なんてない。確かにの淹れてくれた紅茶は美味しくて仕事の合間にはもってこいだ。だけど、それよりもが顔を見せに来てくれるだけでも俺の疲れなんてなくなる。



がいてくれるだけで俺はどんなボスの仕事も頑張ろうと思える「綱吉さんはズルイです」顔を真っ赤にさせて、こっちを見てくるに俺の心臓もドクンとはねた。本当に、顔が真っ赤になるなんて恥ずかしくて何だかかっこ悪いからには見られたくないのに。


そんな顔をされたら、思わず抱きつきたくなってしまうじゃんか。俺なんかよりも、のほうがよっぽどズルイよ。





「そうかな?のほうがズルイと思うけど?」


「そ、そんなことないですよ!!綱吉さんはいつも余裕たっぷりで、私で遊んでるじゃないですか!」





まさか、そんな風に思われていたなんて、少しだけ心外だ。


ただ俺は、自分はよりも大人だから、年下のにかっこ悪いところを見せたくないだけだったのに。遊んでいるなんて、とんだ勘違いをしてくれたものだ、この子も。なんて、まぁ、ちょっと嬉しいと言われれば嬉しいかも、な。俺も余裕たっぷりに行動できるようになったってことみたいだし(10年前の俺は本当に分かりやすかったから、)目の前でキッと真っ赤な顔で睨みつけてつけてくる


そんな顔、可愛いだけだよ、なんて言ったらどうなるかな・・・・・・・きっと、もっと怒られるに決まってるよね






「遊んでなんかないよ。ただが可愛すぎるんだ」


「・・・・・・・」






「それに、余裕なんて本当はないから。俺はが好きすぎていつも困る」





本当はもっと男の大人らしく行動したいけどさ、と言えればは「十分綱吉さんは大人っぽいですよ。私があまりに子供っぽいのが嫌になるくらい、」と小さい声で言った。




だけど俺はがうらやましいよ。



子供らしいって言う事は素直に行動できるってことだろ?マフィアとして、素直に行動できなくなった俺にはそのの素直さが眩しいし、とてもうらやましい。まぁ、の前じゃ俺はいつだって素直なんだと思うけど。




「愛してる、


「愛してるって簡単に言えるのが、大人っぽいって言ってるんですよ!」






「そんなことないよ。俺は自分の気持ちを素直に言っただけなんだから、むしろこの素直さは子供らしいと思うけど?」



ほら、俺はいつだって君の前じゃ素直なんだよ(だけど、愛してるなんて10年前の俺だったら絶対に言えなかったな。その点じゃ、もしかしたら大人だから言えるのかもしれない)真っ赤になるから「私も愛してますよ、綱吉さん」と言う言葉が聞こえてきて、思わず恥ずかしくて笑ってごまかしてしまった。










君の笑顔で、俺は頑張れる




マフィアの世界で、ボスとして俺が守らなければならないものはたくさんあるけど、一番俺が守りたいのはだってことを忘れないでくれよ。












(2008・01・23)

短い文ですみません。

勝手に、黒沢さまに捧げます。