「えぇ、喜んで」
「骸さん、骸さん」
「どうしたんですか、?」
「私は骸さんのこと好きじゃないんです」
「へぇ、それがどうしたんですか」
「だから、毎日、ここで待たれても困るんです」
「別に僕は困りませんよ」
そんなこと言わないで下さい。貴方を好きなってはいけないと、本能が告げているんです。だけど、だけど、このままじゃ私は貴方のことを好きなってしまいそうで恐いんです。もう自分が傷つく恋はしたくないんです。あんな恋、まっぴらごめんなんです。だから、だから、もう私にはかまわないで下さい。そう何回言っても骸さんは、聞いてくれなずに私を待ち続ける。
「もう僕はどこにも行きませんよ」
「あの時もそう言いました。だけど、やっぱり貴方はいなくなってしまったじゃないですか」
そうだ。もうずっと前、生まれるずっとずっと前にも同じ事を言ったんですよ、骸さん。貴方は忘れてしまったかもしれませんけど、私はしっかりと覚えているんです。貴方はあの時も「僕はどこにも行きません」と言っていたのに、私の前から姿を消してから戻ってくる事なんてなかったじゃないですか。私はずっと、ずっと涙が枯れるまで待ち続けたのに、結局貴方は現れなかった。なのに、今さら、現れてそんな事言われても困るんです。信じてしまって、悲しむ自分をもう見たくは無いんです。
「僕もの悲しむ姿を見たくありません」
「なら、もう私の前に現れないで下さい」
「けれど、他の男に取られるのはもっと嫌なんですよ」
そう言って骸さんはニッコリと微笑んだ。あぁ、なんてわがままな男なんでしょう。そう言って、また、私を待たせるつもりなんですか。帰ってこないくせに、どこにも行かないと平気で嘘をつくつもりなんですか。そんな嘘に騙されてあげるほど、私もあの時のように無知な馬鹿な女じゃないんです。あのときの私とは変わってしまったんですよ、骸さん。それに私は、もう待ち続けるのは嫌なんです。どうせなら、
「もうどこにも行かないなんて嘘、つかないで下さい」
「嘘じゃありませんよ」
ほら、また平気で嘘をつく。
「もしも、どこが行くところが出来たなら、私も連れて行ってください」
待ち続けるのにはもう疲れ果ててしまったんです。だから、遠くに行くのなら私も一緒に連れて行ってください。行き着く場所がどんなところでも、地獄でも天国でも貴方といられるなら、どんな場所にだってかまわないんですよ、骸さん。
(2007・06・17)