平凡な日々
〜青学とクリスマス〜
家のテレビを見ながら、自分がゆっくりとこんな時間を過ごせる事に心の底から神様に感謝した。
いや、今日はクリスマスなのだからもしかしたら神様に感謝するよりもサンタに感謝した方が良いのかもしれない。
「(サンタさん、素敵なプレゼントをありがとう)」
こんなゆっくりとした時間なんて、私にとっては最高のプレゼントだ。
いつもなら、氷帝の人たちの雑用としてこき使われたりして、こんなゆっくりとした時間を過ごす事もできない
最も、氷帝の人たちの雑用としてこき使われるより、兄である吾郎の世話の方が大変なんだけども
それでも、今日は吾郎は部活もあるみたいだし、吾郎が帰ってくるまでは私はゆっくりとこの時間を楽しむことが出来る
本当にありがとう、サンタさん。と思いながら、目の前の紅茶を飲もうとした瞬間に、私の携帯が鳴りだした
―――プルル
静かな家の中でその音はテレビの音に負けないくらいの大きさに感じられた。現に私は携帯が鳴りだした瞬間にテレビの音が耳に入ってこなくなった
一体、こんな時に誰から。それも、メールではなく電話というのは、更に私の中の嫌な予感というものが大きくなる
そして、私は恐る恐る着信を見た。
吾郎
と言う携帯の画面に映し出された2文字を見て、私は携帯を手に取ることをやめた。吾郎のことだ、どうせ下らない用事だろう
今日はクリスマスなのだから、ちょっと無視したくらいじゃバチはあたらないはずだ。よし、そうだ、とまるで自分に言い聞かせるように言いながら
私は携帯が鳴り止むのを待った。少し立てば吾郎も諦めたのか、携帯が鳴り止んだ
「(ったく、一体なんの用事だったんだよ)」
心の中で悪態をつく。しかし、あの諦めの悪い吾郎がここで諦めてくれるのだろうか、という疑問が私の頭の中にうかんだ
いや、ここは吾郎があきらめたことにしようと、半ば無理やり自分を納得させて私は再びテレビに神経を集中させる
―――プルル
再び鳴り出す携帯。きっと、吾郎だろうとおもったのだけど、もしかしたら違う人物かもしれないと思い私は携帯の画面を確かめた
そこにうつりだされた名前に、私は背中に嫌な汗がつたうのを感じた。なんで、どうしてこのお方から?理由も分からないまま私は通話ボタンを押す
押さなければ殺される。きっと、笑顔で殺される。それだけはどうしてもさけたかった
「はい、もしもし」
『あぁ、ちゃん?』
「(・・・・・)不二先輩、どうしたんですか?」
そう、私に電話をかけてきたのはあの不二先輩だったのだ。吾郎の電話ならとらないでも、どうでも良いけど
不二先輩の場合はそうは言ってられない。むしろ、急いで電話を取らなければいけない。そうしなければ、私は殺されてしまうのだ
この、魔王から
『さっき、吾郎がかけても出ないから僕がかけたんだよ』
『なんで、俺の電話じゃ出ないのに、不二からかかってきた電話はとるんだよー!』
『クス、それは吾郎だからじゃない?って言うか、煩いからちょっと黙っててくれるかな?』
『・・・恐っ!』
『ちょっと、吾郎本当黙らないと殺すよ?・・・・・・あぁ、それでちゃん今日何か用事ある?』
「あ、あります!あります!!すんごい用事が『へぇ、そっかないんだ。分かった、じゃあ、今からクリスマスパーティーするから待っててね』
えっ、ちょっとどういうことですか!?」
『じゃあ、あとでね』
ツーツーと電話の向こうで、電話が切れたことを告げる音が聞こえてきた。一体、これはどういうことなのか。
そして、私の意見など始めから聞いてもらえなかったのか。なんとも悲しすぎて涙がでそうだ。とりあえず、どうにかしなければならないと分かってはいるものの
私には不二先輩がこの家に来るのを止める力なんてない。このさい裕太に電話してどうにか不二先輩を止めてもらおうかと思ったりもしたけど
さすがに裕太が可哀想になってそれはやめた(そんな事一瞬でも思ってしまった私を、許してくれ)
どうしようか。
時間は刻一刻と過ぎていき、私はどうすることもなく、ため息を吐く事しかできなかった
ピンポーンと不幸の鐘が鳴り響く。玄関に向う私の足はとてつもなく重いものだ(あぁぁ、玄関のドア開けたくないよ!!)
玄関に着けば、向こうから騒がしい、聞きたくもない声が聞こえてくるのが分かった。ドアをはさんであの人たちがいる。最悪だ
だけど、このドアを開けなければ更に最悪な事が起こることは分かりきっている
「(本当は開けたくないよ・・・・)」
しかし、覚悟を決めなければならないと思い、私はドアノブをグッと握る。よし、頑張れ私。負けるな、負けるな
自分を励ましながらゆっくりとドアを開ける。少しだけ見える、黒い学ランの集団。あぁ、なんか泣きそうだ
「ちゃん、メリークリスマス!」
「菊丸先輩、」
「よぉ、!今日はお邪魔するぜ!」
いや、お邪魔しないでくれよ、桃城くん。と思わず言ってしまいそうになるのを飲み込む。さすがに、桃城くんにはこんな事言える訳がない
彼は、馬鹿だけど常識はない方じゃない。貴重な人物だ。そして、桃城くんと菊丸先輩の後ろの人物を見すえた
お馴染の(本当はお馴染みなんてなって欲しくはなかったけど)青学メンバー。手塚先輩の眉間には深い皺
「(手塚先輩もお疲れ様です・・・・!)」
分かります、分かりますよ手塚先輩のお気持ちは!えへへ、と嬉しそうに笑う吾郎を殴りたくてたまらないことでしょう!
私も今まさにその気持ちですから!と思いながら私は、目の前にいる人たちを家の中に招きこんだ。
それぞれ、テニスバック以外にも荷物を持っているらしい
「あ、ちゃん、こんにちは」
「どうもです、大石先輩!」
「これ、ケーキ。みんなで食べようと思って買ってきたんだ」
「あ、ありがとうございます・・・・・!(私が大好きなお店のケーキだ!)」
「そこのケーキ、ちゃんが好きだって吾郎が言ってたから。」
そう言って微笑む大石先輩が私にとっては神に近い存在の様に思えた。いや、むしろ神だといっても過言ではない。
あれ、なんだか大石先輩の後ろに光が見えてきたや。って、これじゃ神様じゃなくて菩薩様になっちゃうのかな?
「・・・・ッス」
「あぁ、リョーマくんもこんにちは。昨日は誕生日おめでとう」
「うん。先輩からのメール、もう少しで今日の日付になりそうだったけどね」
「あはは、いや、さ、まさか、ね、昨日が君の誕生日とか知らなくて、吾郎から聞いて、メール送ったからさ!まぁ、間に合ったから良しとしようじゃない!!」
「それもそうっすね。ありがと、せんぱ「今日はよろしくね、ちゃん」・・・・」
「不二先輩もこんにちは」
「世話になるな」
「あっ、海堂くんだ。海堂くんも、大変だね」
「・・・・それは言うな」
「やぁ、。今日は何か良いデータをよろしく頼むよ」
「乾先輩、よろしく頼まれても困りますから。むしろ、私の家にいるときはそのノート絶対に開かないで下さい」
「それは無理なお願いだな」
「いやいや、無理じゃないですし、それデスノートより性質悪いですから。乾ノートはデスノートより、絶対危ないノートですから」
私が言えば、静かに乾先輩はノートをしめて家の中へと入っていった。キランと光った眼鏡。あの人を家に上げるのは危険だったんじゃないかと本気で思う
とりあえず、データは絶対に取らせないように気をつけよう。と思いながら最後の一人に顔を上げる。
眼鏡をかけて、いささか年の割には落ち着きすぎている気がしないこともなく、眉間の皺が深く深く刻まれている、手塚先輩だ
「・・・・・悪いな」
「あはは、手塚先輩が悪いわけじゃないですし、むしろうちのあの馬鹿のせいですから」
「いや、止められなかったのには俺にも責任があるからな」
そんなことないのに。どうして、この人はこんなに良い人なんだろう。どこかの、ナルシストな部長とは大違いだ
今度、部長のトレードができないかどうか聞いてみようかな。きっと日吉だって、手塚先輩の方が良いと言うに違いない。
青学は氷帝に比べれば、まともな人が多い。しかし、吾郎があまりに強烈すぎて青学に行きたいと思ったことはあまりない
どうせ行くなら、今ならルドルフが良いと思える。立海は、範囲外だ。絶対に行きたくない
「まぁ、なったものはしょうがないですし、十分クリスマスを楽しみたいと思いますよ」
「それも、そうだな」
微笑む手塚先輩はそれは、それは素敵なものだった。普段、眉間に皺ばかり寄せているからあまり気付かないけど
笑うと、とても素敵だ(いや、笑わなくても素敵だと言う事は分かってるよ?)なんだか、いつも眉間に皺を寄せている理由が吾郎ではないかと思うと
とても申し訳ない気持ちになった。きっと吾郎がいるせいで手塚先輩の魅力が半減してるよ
「おい、手塚!!お前、いつまでとイチャイチャしてるつもりだ!!」
「ご、吾郎・・・・(あの馬鹿。何を勘違いしてるんだよ・・・・・!)」
「イチャイチャなどしていない。そんな風に見える、お前の頭が可笑しいじゃないか」
「(手塚先輩、意外ときつい一言きたー!)」
「そんな事いっての可愛さに、キュンときてたんだろ!はまだ誰にもやらないんだか「もう、お前本当に黙れ」」
一体、何様なんだこいつは。私だって普通の彼氏をつくりたいんだ。だから私が彼氏を作るときには、テニス部の彼氏は絶対に作らない
テニス部はどこのテニス部であっても、変人で美形な人が多い(美形な人が私を相手にするとは考えにくいんだけどさ!)
「ほら、!!早くケーキ食べるぞ!」
「吾郎、最初は普通、ご飯からでしょ」
「チキンならこっちあるぜ!ほら、も食えよ」
「ありがと、桃城くん。って、吾郎ぉぉぉぉ!!お前なんて格好してるのー?!」
「えっ、クリスマスと言ったらサンタコスじゃね?」
「そんな訳ないから!」
「じゃあ、が着「ねぇよ!」」
「えー、ちゃん着ないのー?!絶対似合うから着ちゃいなにゃ!」
「菊丸先輩、どんなに可愛く言ったって着ませんから」
「クス、本当に着ないの?」
「クッ(不二先輩に言われると逆らえないような気がしてくる・・・・!)」
「まだまだだね」
「コラッ、英二も不二も、ちゃんが困ってるだろ!」
「大石先輩・・・・!(もう、この人神だ!神!)」
「はは、残念。良いデータが取れると思ったのにな」
「乾先輩・・・・・(変態っぽいッス)」
「海堂が俺を変態だと思った確立100パーセントだな」
「・・・・っ!」
「ごめーん、みんな遅れちゃって!お寿司持ってきたよ」
その言葉に、私は声のした方を向いた。あぁ、ラケットを持っていないときは癒しの天使(と書いてエンジェルと読む)のタカさんだ!
それもお寿司をもってきてくれたなんて、この人も大石先輩と同じ神なのかもしれないと、と思った。
こうして、私達のクリスマスはふけていく。誰か、暴走した吾郎をとめて・・・・・!
「すまない、俺では力不足だ」
「て、手塚先輩!」
手塚先輩に止められないのなら、誰にもきっと吾郎はとめられないだろう。一人だけ、吾郎を止めれる人がいるにはいるけど
あの人は面白がってきっと止めてくれない「それって誰の事?」って、貴方に決まってるじゃないですか、不二先輩。
お願いですから、心で会話をするのはやめてくださいよ。
(2007・12・25)
青学とクリスマス。吾郎のコスプレはミニスカサンタ
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