平凡な日々

〜氷帝とクリスマス〜











「なぁ、ちゃん、今日はクリスマスやな」







部活が終わり、部室で帰る仕度をしていたらいきなり忍足先輩が発した一言。

だから、どうしたんだ、と思わず言ってしまいそうになってしまったけれど、相手は一応、どんなに嫌な相手でも先輩。

さすがにそんなこと言えるわけもなく、私は「そうですね」と引きつった笑顔を忍足先輩に向けて言った






「なんや、つれへんなぁ。な、日吉もそう思わへん?」



「俺に話をふるのはやめてください。むしろ、俺に話しかけないで下さい



えっ、ちょっと、酷っ!そないな言い方せんでも、良いやろ?!」



「えー、でも、侑士相手だしな。日吉もこんな先輩と話したくないんじゃね?」




「向日さんにしては、珍しく大正解ですよ」




「クソクソッ、日吉!珍しくってどういうことだよ?!」



「そのままの意味ですよ」










岳人先輩と日吉のやりとりを、半ば呆れながら聞く。本当にいつも同じようなやりとりをしてこの人たちは飽きないのだろうか

むしろ、聞くがわの私が飽きたのでそろそろ新しいやり取りを開発して欲しい(って、私は岳人先輩と日吉に何を求めてんだよ!)

クリスマスなのになんで、私はこんな部活のマネージャーとして頑張って仕事をしているんだろう、と思えば悲しすぎて涙がでそうになった









・・・・・なんか、切なくなってきたんだけど!








グッと涙をこらえて、書き終わったばかりの日誌を閉じる。これで、今日のマネージャーとしての仕事は終わり。

未だにとなりで忍足先輩はうざいくらい私に話しかけてきているけど、私の仕事はこれで終わったのだ。これで、この人たちから解放されると思い、私はホッと息を吐いた







しかし、そう息を吐いたのもつかの間、ジロー先輩が元気よく起き上がると「じゃあ、行こっか!」といった








「・・・・一体、どこに行くんです?」




「そんなのあとべの家に決まってるCー!!」




「あぁ、ジロー先輩は今日は跡部部長の家に遊びに行くんですか」



「何言ってんだよ。も行くんだぜ?」








「はは、岳人先輩そんな面白くも無い冗談言わないで下さい」








「冗談じゃないよ。も跡部さんの家に行くんだよ」








にっこりと微笑む鳳。何故、お前が言うと一気に冗談に聞こえなくなってしまうんだろう。分かってる、その理由は分かってる

きっとそれは、鳳の笑顔がすごく黒いことに答えがあるんだという事は。だけど、今の言葉は冗談と捉えてもしょうがないんじゃない?

だって、いきなり跡部部長の家に行く事になってるんだよ。それも、私も。私の予定とか、この人たち本当に一切無視なわけ?








本当、最悪ですよね貴方達は!







しかし、そんな事口に出して言えるわけもなく私はただただ心の中で罵る事しかできなかった。いや、だけど注意しなければ

鳳とか滝先輩とか、何故か読心術ができるという凄い人たちなんだよね。本当、テニスするよりそっちの道に進んだ方がよいんじゃないかって毎日思ってるよ







「思われても、俺はテニスが好きだからね」





「た、た、滝先輩?!」






「ふふ、あんまりろくでもないこと考えない方が良いよ」





「・・・・・(身をもって感じました!)」









やはり、あまりここで色々考えるのはやめよう。私の命にも関わってきてしまう。私はクリスマスに命日を迎える事は絶対にしたくない

最悪だと思って跡部部長を見れば、跡部部長は嫌な笑いをうかべていた。本当、あの人殴ったりしたら駄目かな?

たくさんの女の子にどんな目にあっても、跡部部長を殴りたいと思ったのは、これが初めてだった(あぁぁ、ムカつくー!)










「フン、俺様の家に招いてやっても良いぜ?」









別に招かなくて結構ですよ。と私だけじゃなく、その場にいた日吉も同じことを考えていただろう。日吉の眉間にいつも以上に、深く皺が刻まれていた。

もちろん、私も眉間にもなのだけど。周りで楽しそうに笑っている、忍足先輩とか、鳳とか、忍足先輩とか、岳人先輩とか、忍足先輩とか、

ジロー先輩とか、跡部部長とか、やっぱり忍足先輩が憎くて憎くてたまらない気持ちになった








ちょっと、忍足先輩を今度しめないかを日吉と話し合ってみたいと思う。
多分、日吉の事だ乗ってくれることだろう

























跡部部長の家はやっぱり凄かった。何が、と聞かれても何が凄いかは答えることは出来ない。とりあえず、すべて、が凄かったのだ

しかし、私としては狭いほうが落ち着くようなタイプだからうらやましいとは感じることはなかった。いや、だって、狭い所って落ち着くじゃん?!

跡部部長に案内された部屋にはそこにはしっかりとクリスマスツリーがあった。こんな大きいものを部屋の中に置くなんて、と思うぐらい






大きなクリスマスツリーに私は跡部部長の財力の凄さをあらためて思い知った気がした











「(クッソ、人間って平等なものじゃないの?!)」











世の中には、不細工で頭も悪く、きっとお金も無いひとがいるだろうに、跡部部長みたいな人がいて良いのだろうか。

お願いだから、サンタさんもこの人のところにはこないで、そちらの方々の方に行っていただきたい。まぁ、跡部部長はサンタなんて信じていないとは思うけども







「アーン、?どうした、さっさと飯食わねぇと冷めるぞ」



「あ、はい。いやぁ、凄いなぁと思って(色々な意味でだけど)



「フン。俺様の凄さを思い知ったか!」



「えぇ、
あんまり知りたくなかったんですけどねー






「お前、今、
「ほらほら、二人とも本当に早く食べないと冷めちゃうよ」」











またもや、いつもの様に始まりそうになった跡部部長と私のバトルを滝先輩がいつもの様に笑顔で止めに入る

私も実は御飯は楽しみにしていたから、冷めたものを食べたくもなく、ここは素直に滝先輩の言う事を聞いておく事にした







いや、私が滝先輩に逆らった事なんて今まで一度もない。そんな恐ろしい事、したくても出来るわけが無い。







「宍戸さん、こっちにチーズサンドありますよ!」




「おう。サンキュー長太郎。どうだ、も食べるか?」



「あ、頂きます。うん、やっぱり、美味しいですね!」









ちゃん、ちゃん」



「なんですか、忍足先輩?」



「ほら、こっちにもおいしそうなもんがあるで。お食べ
「いりません。」



「えぇ?!なんでや?!宍戸からは普通に貰って食べてたやん!」



「忍足先輩から頂いたものなんて、
忍足先輩自体胡散臭いのに胡散臭くて食べれませんよ」




えっ、そんな酷くない?それも、今、ボソッとなんか聞こえたんやけど」







「勘違いだと思いますよ」






「・・・・・、笑顔が逆に怪しいぞ」



「まぁ、侑士が胡散臭いのはみんな分かってる事だけどな」



「がっくんも酷っ!俺、泣くで・・・・・?」










「やめてよ、忍足。忍足が泣いたりしたら気持ち悪いじゃないか」










「「「「「(とどめの一撃はいったー!)」」」」」










滝先輩の素敵な笑顔での一言は大きく忍足先輩の心をえぐったらしい。いつも忍足先輩をないがしろに扱っている私でさえ、同情を覚えるものがあった

他の人たちも少し忍足先輩を可哀想な人を見るような目で見ている。あぁ、忍足先輩も何もしゃべらなければ普通にかっこ良いのに

しかし、ここでこんな扱いされている忍足先輩も女の子にはかなりモテるんだよなぁ。本当、世の中ってわからない。









いやさ、その女の子の気持ちなんて分かりたくもないんだけどね







「ねぇー、あとべー」



「・・・・・・なんだ、慈郎」



「おれ、雪が見たい」







「(そんな無茶苦茶な)」








ジロー先輩の一言に私は、ハァと息を吐いた。この人はどれだけ自由な人なんだろうか。雪なんて、跡部部長にどうこう言ってどうにかなる問題じゃないのに

確かに、クリスマスなのに雪が降っていないのもどこか寂しいような気がしないこともないけれど、別に雪なんていつでも見れると言ったらみれるもの

だから、あえて跡部部長に頼むって言うもの、跡部部長にさ、どんな力があるって、













・・・・・・・跡部部長には財力があったか











チラリと跡部部長の方を見れば、ジロー先輩の言葉に困った顔をしているわけでもなく、むしろ「アーン、やっと言ったのか?」という顔をしていた

きっと、この男は、自分の財力で雪さえも降らしてみせるのだろう。だけど、ジロー先輩も跡部部長じゃなくて鳳か、滝先輩に頼めば良いのに

あの二人なら天候さえも思いのままに扱ってしまいそうだ。はは、洒落にならねぇ・・・・・・!









「いや、。流石にそれは俺でも無理だと思うよ」



「お、鳳?(私、声に出していないはずなのに)」



「俺が出来るのは、読心術くらいだけだよ」







だけ、じゃないというツッコミをしたくてうずうずしてはいるけれど、ここでこのツッコミをしてしまっては駄目だと本能が悟った

きっとここでこのツッコミをしてしまっては私の今後が危ない。鳳に殺される可能性もでてくる。だって、今微笑んでいる顔も黒くて、ちょっと泣きそうなんだよ、私!







「おい、お前ら外に出て見やがれ」




「跡部の奴偉そうな、言い方」



「まぁまぁ、がっくん。本当は馬鹿なんやけ、そないなこと言ってやらんの」






「(忍足先輩も、さほど跡部部長と違いは無いと思うけどなー)」











跡部部長のいつものような偉そうな言い方にそれほど、カチンとくることもなく(自分もきっと諦めがついたんだろう。跡部部長がこんな言い方をすることに)

跡部部長に言われた通りに窓をあけて外へと出てみる。少し肌寒い風が私の横を通り抜けていき、私の吐く息は真っ白になっていた

そして、目の前には降ってもいないはずの雪がつもりっていた。空は綺麗に澄んで晴れている。星がここからでも良く見えるくらいに







「(綺麗、確かにきれいなんだけど、)」






凍え死ぬ・・・・・・!








外は今まで暖かい所にいたせいか異様に寒かった。なんだ、この寒さは!と悪態をつきたくなってくる

それに、何故ここに雪が積もっているんだろう。今日は一日雪が降った様子なんてなかったのに、と思っていれば完全防備をしたジロー先輩が

いつの間にか私の横へと立っていた。なんで、あんたはいつの間にその帽子とか、手袋とか準備してるんですか






「へへ、これぜーんぶ、跡部が用意したんだCー!」



「用意したって?」




「これ人工雪なんだよ。綺麗でしょ!」




「(跡部部長、本当に貴方は何者なんですか)」











私が抱える疑問はきっと、殆どの人が抱える疑問だと思う。向こうのほうで岳人先輩が雪の中跳ね回っているのが見えた

あぁ、若いって良いな、と思い少し絶望。自分より先輩のほうが若く見えるなんて、最悪だ。私は一体、いくつなんだよ








ー、ジロー!遊ぼうぜ!」




「分かったぁ!も、行こう!」




「・・・・・私は後で行きますから、先に行ってください」




「分かったCー。がっくーん!」












そう叫ぶとジロー先輩は岳人先輩や忍足先輩がいるほうへと走り出した。なんとも、元気の良い先輩だ(その元気、少し分けてくれないかな・・・・)

そして、走り去ってしまったジロー先輩に代わるように跡部部長が私の横へと並ぶ。その笑顔はなんとも腹立たしいものだった









「アーン、どうだ。俺様がこの雪用意したんだぜ?」




「人工ってところが、嫌ですね」







「・・・・・・(こ、この女!)」






「私としては、こういうのは人工よりも天然の方が好きですし」









はっきりと告げれば、跡部先輩の米神には青筋が立っていた。やっば、怒らせちゃったのかと思いながらそのまま跡部部長を見ていれば、フッと笑った

ついに頭のねじがとれてしまったのではないかと不安に思い、私は眉間に皺を寄せる。笑う跡部部長なんて気味が悪い







しかし、実際にそんな事口に出せるはずもなく私は跡部部長の言葉を待った








「フン、来年はのお望みどおり天然の雪を用意してやる」





「来年も跡部部長の家でクリスマスパーティーするつもりなんですか?」




「当たり前だ。アーン、楽しみにしとけよ」







はは、来年も私の苦労も続くのかと思うと楽しみになんか出来る訳がないじゃないですか。それに、来年ちゃんと雪が降ったらどうするつもりなのか、と言う言葉は飲み込んだ

来年も、このメンバーでパーティーができると楽しみにしている自分がいる。それは、なんともかなしいことだけど変わりのない事実。

遠くで遊んでいるジロー先輩や岳人先輩を見ながら、私は、言った








「えぇ、楽しみにしていますよ」







この言葉に嘘偽りは一つもなかった。




















(2007・12・25)

氷帝とクリスマス。とりあえず跡部の家の財力は凄まじい

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