平凡な日々
〜日吉とクリスマス〜
クリスマスにたった一人で本屋に学校の怪談シリーズを探しに来ているなんてどんなに寂しい女なんだろう
なんて、別に私は寂しい女でもかまわない。だって、今日はゆっくりと休日にエンジョイするんだもの・・・・!
昨日、跡部部長の計らいで今日は休みになった。サンタからのプレゼントならぬ、跡部部長からのプレゼントは、私にとっては最高のプレゼントだ。
いや、私だけじゃない。きっと、グッジョブ、跡部部長!と思った部員は少なくないはずだ。
・・・・・・まぁ、きっとその大半が彼女持ちの部員だと思うんだけど
なんだか、そんな風に思うと自分って寂しい女だとあらためて実感してしまうよね。クリスマスに、女一人で本屋に来て
それもさがしている本が学校の怪談なんてさ、寂しすぎるにもほどがあるよね。
「・・・・(私、何してんだろ)」
いや、でも、こうやって自分のしたいことができるってことは素晴らしいことだ。いつもなら吾郎とか、氷帝のホスト部・・・・おっと間違えた。
テニス部(レギュラーだけ)に邪魔をされてろくに本屋に行く時間さえできない。それを考えれば、回りから見たら寂しい女であっても
ゆっくりとこうした時間を過ごせる事ができるのは、私にとって最高のことだ(そうだ、絶対そうだ!)
「(あっ、この前日吉から借りた本の新刊がでてる)」
ふと見れば先日、日吉から借りた本の続編がでていた。これって、結構面白かったんだよなぁと手を伸ばした瞬間、ポンッと肩に置かれる手
サァッと血の気が引いてしまうのは、この手があきらかに男の手だったから。私に男の知り合いの中でまともな人間は限りなく少ない。
しかし、かけられた声に私はホッと肩をなでおろいた
「?何やってんだ、こんなところで?」
「ひ、日吉かぁ・・・・・」
「なんだよ、俺じゃいけなかったのか?」
ムッと眉をよせる日吉。そんな肩を叩いたのが日吉でいけなかったわけがない。むしろ、神に感謝したいくらいの運の良さだよ
もしこれが、跡部部長とか、忍足先輩とか、宍戸先輩・・・・・は別に良いか!えっと、あと、立海の人たちだったりしたら、私ショックでここで泣き出せた自信があるよ
ありがとう、日吉。お前でよかったと思っていれば、日吉にキッと睨まれた。えっ、私、そんな日吉の悪口とか言ってないのに!!ちくしょー、被害妄想かよ!
「ちょっと、別にいけなかったわけじゃないから!!ただ、ビックリしただけ!」
「・・・・・それは、悪かったな」
「それに、他の人たちだったらどうしようかなって、さ、思っただけだから」
「あぁ」
なんとも同情した声。日吉も同じ苦労を分かち合える仲間だ。きっと、私が何を言いたかったのか分かったんだろう。
そうだよね、日吉には分かるよね。クリスマスに他のテニス部のレギュラーの人と会ったりしたら、その後どうなるか分かるよね!
本当、私の気苦労を減らす為にもあの人たちもさっさと彼女か何かを作ってくれれば良いのに。変人だけど顔だけは良いんだから
「(だけど、なぁ)」
彼女ができたらできたでそれは寂しいのかもしれないな。だって、彼女ができたらみんなで遊びに行く事もなくなっちゃうし、
きっと、その彼女から「他の女の子とは話さないで!」なんて言われたら私ともあまり話してくれなくなりそうだし。・・・・・まぁ、それは考えすぎだとは思うけど、
それに日吉に彼女なんてできたら、学校の怪談で語れる友達が減ってしまう!それだけは何とか、さけたい
だって、この話題で盛り上がれるのって悲しい事に日吉しかいないんだよね・・・・・!!
なんて、日吉のことだから今は、彼女なんか作るよりもテニス一筋だとは思うけど。テニスが彼女みたいな感じかな?
それに日吉のタイプの女の子みたいな清楚な女の子なんて氷帝じゃ中々見つからないと思う。テニスコートの周りにいる女子を見るたびにそれは、すごく感じるんだよ
「(だけど言っておく事にこしたことはないよね)・・・・・日吉は当分、彼女作らないでね」
「はぁ?いきなり何言ってんだ?」
「私、日吉に彼女できたら多分泣いちゃうから・・・・・!」
流石に彼女できたら、愚痴を聞いてもらう時間も減ってしまうだろうし。私そんなんじゃ、ストレスで絶対どうにかなっちゃう(あの部活本当に無駄にストレス溜まるから!)
お願いだよ、日吉、当分彼女は作らないでくれよ、と言う視線を目の前の日吉に送れば、日吉は「お前頭大丈夫か」と真剣に聞いてきた
えっ、何これ。もしかして喧嘩売られてるのかな?
頭なら全然大丈夫に決まっている。私のどこに、頭を心配される要素があると言うのだ。
それに、そもそも女の子に対して頭大丈夫かなんて普通聞くわけ無い。本当、日吉って良いやつだけど、失礼だよね!!
少し日吉を睨みつければ、日吉は何故かハァ、と呆れたかのようにため息をついた
「・・・・・(酷ぇ!)」
「今はテニスの方が大切だから、彼女なんて作る予定はない」
「そ、それなら良かったよ!(今は、って言ったのが気になるけどね!)」
今は作る予定はないってことは、いずれ彼女を作るつもりなんだろうか。はは、日吉に彼女なんてちょっと面白いかもな!
だけど、何だかんだ言って優しいし、彼女の事も大切にすることは間違いないと言ってもよいだろう。少しだけ日吉の彼女になる人がうらやましいな・・・・
顔も良くて、まともな人間なんて本当貴重なんだよ?滅多にいないんだからね!!国が認める天然記念物ぐらい珍しいんだよ?!
「ところで、お前これから予定はあるのか?」
「ううん、可哀想なことにクリスマスに本屋に学校の怪談シリーズを探しに来ている寂しい女に予定なんてあるわけないじゃん」
「なんで、そう喧嘩ごしなんだ・・・・・だったら、気をつけたほうが良いぞ」
「何を?」
日吉の言葉に私は、少しだけ眉をひそめた。一体、何を気をつけたら良いんだ?と思えば、日吉はおもむろに携帯をとりだして
少し何か操作して画面を私の方へと向けた。携帯の画面を覗き込めば、そこには見るのも恐ろしいメールが
「・・・・・また、あの人たちが何かしでかすつもりらしい」
「(えぇぇぇぇ?!)」
日吉の携帯に送られてきたメールは忍足先輩からで、内容は「今、どこにおるんや」という一言。私もハッとして、自分の携帯を確認する
あぁぁ、なんでサイレントモードなんかしてたんだよ!と自分の馬鹿さに失念しながらメールを確かめれば、メールが1通だけ来ていた
そこにはジロー先輩からで、内容はほぼ日吉と同じだった。私の顔つきが一瞬で変わる
あいつら、私の弱点使いやがって・・・・・!
どうせ、ジロー先輩なら私がメールを返して来るんだと思ってのことなんだろう。そうさ、大正解さ!ジロー先輩なら私も素直に自分の居場所教えてたさ!!
だけど、今は日吉のメールを見た後。自分の居場所を教えるのがどれだけ危険な事か分かる。
そんな事が分かりきっているのに、メールを送り返すようなことはするわけがない。どんなに可愛いジロー先輩からのメールであってもだ
「早くここから出たほうが良さそうだな」
「えっ、なんで?!」
「あの人たちが俺たちの行く場所を予想できないとでも思っているのか?」
本が好きな私達が、家にもいないとなれば確かに本屋にいるんじゃないかと予測できるかもしれない
なんて、暇な奴らなんだ。クリスマスぐらい私の好きな事をさせて過ごさせて欲しいのに、なんて思ってももう遅い
私と日吉はひっそりと、本屋から出て行くことにした。本屋から出れば、そろそろ辺りも夕暮れにそまってくるような時間帯になっていた
「・・・・なんで、私こんな逃げるようなことしてるんだろ」
「まったくだ。俺も少し、いや、かなりテニス部に入った事を後悔している。それにあの人たちがレギュラーだと本気で認めたくなくなってきた」
「(なんか、可哀想だな・・・)」
日吉の目がなにやらすべてを悟りきった目になっていて、同情心が芽生えた。まぁ、自分だってそんな部活のマネージャーをしてるんだけどさ、
付き合いの差って言うか、日吉はあんな人たち相手に今まで頑張ってきたんだよね。ごめんね、その愚痴もろくに聞かないでいて
あの時はまさか自分がこんな目にあうなんて思ってもなかったし、テニス部の連中に関わると思ってなかったんだよ
「それで、これから、・・・・・!」
「えっ、何?!どうしたの、日吉?!」
目を見開く日吉。私も、日吉の視線を辿り、日吉が驚いている理由をさがる。見えたのは、銀色の髪の毛。
たくさんの人からすぐに見つけられたのは、鳳の身長が高い為か。そして、他のレギュラー陣の姿も、見つけてしまった(あぁ、できることなら見つけたくなかった)
そして、跡部部長と目があう。
「チッ、逃げるぞ!」
「う、うん!」
後ろからはレギュラー陣の声がする。「ちゃーん、待ちぃや!」すいません、絶対に嫌です。忍足先輩気持ち悪いです
日吉が私の腕を捕まえて、人ごみを走り抜けていく。私もそれに追いていかれないように必死について行った
段々と後ろから聞こえてくる声は小さくなってくる。全速力で走って息が苦しくなった頃、日吉が足をとめた
「どうやらまいたらしいな。大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫(し、死にそう・・・・!)」
「(・・・・・)そうか、あの人たちも本当に暇だ、な」
遠い目をして言う日吉に私は何も言えなかった。まさにそのとおりだよ。あの人たち、暇をもてあましているよ
しかし、どんなに暇でも、私や日吉を巻き込むのは辞めて欲しい。そりゃ、私達だって暇じゃない事も無いけど
暇な時こそゆっくりと過ごしたいと思う。これは、日吉も絶対に思っていることだろう。
「折角のクリスマスなのに。恋人達のクリスマスなのに」
「恋人達のクリスマスってお前が言うと少し気味が悪い「う、うるさい!!そんな事言われなくても分かってるよ!」」
ムッとして言えば、日吉は微笑みながら「冗談に決まってるだろ」と、言った。お前が、冗談なんて言うなんて思ってもねぇよ!
それに確かに日吉の言うとおり、私が恋人達のクリスマスなんて言ったら本当に気持ちが悪いと思う
・・・・・だけど、冗談をいう日吉も気持ち悪いと思うよ?
なんて、さすがにいえるわけもなく、私も日吉につられるように笑った。あぁ、やっぱり日吉といるときが一番ゆっくりできるなぁ
日吉ってもしかしたら何気に癒し系なのかも。と思いながら見ていれば、少しだけ胸が高まった気がした
きっとこれは滅多に見ることができない日吉の笑った顔を見たせいだと思う(嫌な笑い方しか見たことがないからねー)
「い、いたぞ!」
「ゲッ、宍戸先輩!あの人いつの間に向こう側の人間に?!わ、私、信じてたのに・・・・・!」
「、そんな事言ってる場合じゃない!」
またも、日吉が腕を引っぱって走り出す。だけど、そんな事言ったって、宍戸先輩が私達のことを裏切ったんだよ?!悲しくもなるよ!
ちくしょーと嘆きながら、私は必死に足を動かす。日吉につかまれた腕が、暖かいと感じたのは、私の勘違いじゃないんだろう。
多分私達はあの人たちから逃げ切る事はできない(あの人たち、本当男のくせにしつこいからね!)
だからこそ、もっと日吉との時間を楽しみたかったなんて、私は思ってしまうんだと、自分に言い聞かせた。
まるで、駆け落ちみたいだなんて思ったことがバレたら日吉に怒られてしまうだろうか。
(2007・12・25)
日吉とクリスマス。平凡ヒロインで甘は難しい
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