静寂があたりをつつむなか、審判の声だけがはっきりと響いた。
しかし、それは私達氷帝の負け、を意味する声であり、私達の暑い夏の終りを告げる声でもあった。

沸く青学のメンバーとは相反し、氷帝側は静かな空気が流れる。レギュラーに囲まれている日吉を少し離れたところで見ながら、私は、あぁ、あの日吉でもなくことがあるのか、とまるで他人事のようにその光景に目をやっていた。





名前を呼ばれ横と見れば、そこには滝先輩が立っていた「日吉はよく頑張ったね」と言う滝先輩の声色はいつにもまして優しくて、私はその言葉に「はい」と言いながら頷いていた。



そして、気づいたときには頬を何かが流れていく感触。
そっと手をやれば、頬には水の雫がついていた。私は他人事のようなことで泣けるような女ではない。きっと、私は、氷帝が負けたと言うことを認めたくなくて、レギュラーに囲まれていた日吉を他人事かのように見ていたんだろう。そんな他人事なわけがないのに。


しい、しい。


もう、このメンバーでテニスをできなくなるわけではないけれど、それでも私の中では何かこみ上げるものがあった。

嫌々しながらマネージャーをやっていると自分でも思い込んでいたのに、こんな事を思うなんて。こちらに近づいてきた跡部部長が私のほうを見て、僅かに目を丸くした。
きっと私が泣いていることに気づいたんだろう。
しかし、私はその涙を拭うようなことはせずにただ泣いている日吉の姿を見た。

跡部部長が私の肩に手をおく。


「全国はお前らに任せたからな」


この一言で私は本当にこの夏が終わってしまったんだと感じることができた。その瞬間に零れだす涙は、私の中のさまざまな感情を含み、私の頬を落ちていく。
お前が泣くことはないだろ、と跡部部長に言われても私の涙はとまなかった。

青学もきっとたくさんの努力をしたことはわかっているつもりだ。でも、私が実際に見たのは氷帝メンバーの努力したところだけしかない。
だから、だから、何故あんなに努力をした氷帝が負けてしまったのかが納得できなかった。誰よりも努力をしたことを知っているだからこそ、私は悔しくて涙を止めることができない。



選手が一列に並ぶ。その様子をやっと涙が止まりだした視界の中で見ていた。

跡部部長の手が高く上がったと思えばいつもの様に、指がパチンッと音を立て、それをきに氷帝コールが会場を包み込んだ。私はその声を聞いて、また誰にも知られることなく涙を流した。
来年こそは、と言う思いを胸に抱きながら





(2008・11・01)

原作・関東大会その後