Mukuro
神様。と彼女が呟く声が聞こえた。その言葉に僕は思わず眉をひそめる。だって、僕は神様なんて信じていないのだから。だから神様に願うことなんてしない。したこともない。そんなの弱い者がするものだとも思っている。
そう、だから彼女は弱い。僕がいなければなにもできない。だけど、僕はそんな彼女を愛している。何とも矛盾したような考えかもしれないが、愛と言うものはそうものなのだ。
だって、そうでしょう?
神様を信じる彼女は、神様を信じていない僕を愛する。何とも面白い愛の形だ。2人の共通点なんて一つも存在しない。だからこそ、僕は彼女を愛しているのだ。僕とは違い穢れなんて知らない彼女を。神様を信じていない僕でも、願って良いと言うのなら僕は彼女がこれからも穢れを知らないままでいて欲しいと願ってしまう。
「神様がどうかしたのですか」
「神様が、いるなんて信じている私は馬鹿なんでしょうか骸さん」
えぇ、馬鹿ですよ。なんて言葉を僕は飲み込む。こう言えば、彼女はきっと傷つくだろう。だけど、彼女は気付いていない。そんな馬鹿な貴方でも僕は愛していると言う事を。
傷つく彼女の顔も悪くは無いと僕は思っているが、今はその時ではない。その時がいつかくるかも分からないけれど。今は彼女の笑っている顔を見ていたい。
なぜなら、僕が君の顔を見てるのはこれが最後なのだから
「かみ、さまはいますよ。君が信じている限り」
「だけど、神様にお願いしても、骸さ、んの血がとま、ら・・な、い」
最後なんて言葉になってないじゃないですか。僕の顔に少しだけ、笑みがこぼれる。お願いですから、泣かないで下さい。と、僕らしくもなく神様に願っても彼女は笑顔になることもなく、彼女の瞳からは美しい涙が。彼女の口からは嗚咽が、どちらも止まらない。
あぁ、本当神様なんてきっとこの世にはいないんでしょうね。彼女を笑わせて欲しいと願っても、この思いは届きそうにも無いんですから。だけど、本当にお願いだからこれだけはかなえて下さい、神様。僕は今、この瞬間だけは神と言う存在を信じよう。だから、
どうか神様、彼女に幸せを
僕の願いはこれだけだ
Squalo
「・・・っ!」
最近、夜は眠れない。あの、雨のリングの戦いの日から私は目を瞑る事が恐くなってしまった。目を瞑れば、あの映像がしっかりと目に張り付いていて思い出したくもないのに、私にあの時の事を思い出させる。あぁ、だけどそれと同時に目を瞑れば、彼との思い出も一緒によみがえってくるのだ。
「・・・好きだぜぇ」
恥ずかしがり屋な彼が唯一、私に言ってくれた愛の言葉。目を瞑ればその時の映像が鮮明によみがえってくるのだ。まるで、矛盾している。私は目を瞑りたいと思うけれど、瞑ることができない。一体、私はどうすればよいんだろうか。大好きだった、彼。私は再び眠りにつこうと目を瞑る(そして、一筋の涙がこぼれた)暗闇の向こうに、彼の姿がうつる。
その姿は、どちらなのか?
いや、どちらでも彼であることは変わりがないのなら、私は瞳を閉じて彼の姿をずっと胸に焼き付ける事にしよう。それが、彼の死ぬ時に姿でも、私にとっては大好きなあの人なのだから。
目を瞑り、祈る
Dino
彼のいない世界での私なんてただのゴミに過ぎない。なのに、神様はそれでも私を生かそうとする。ねぇ、どうして?どうして私を生かそうとするの?そんな質問口にすることなく、私はただただ涙を流す事だけしかできなかった。
もう、この世で、私が生きる価値なんてあるはずが無いのに。お願いだから、私を殺してくださいと神様に願うも神様は結局私を殺してくれない。
じゃあ、自分で命を断てば良いじゃないか
どこかでそんな声が聞こえた気がした。だけど、そんな事できるわけが無い。だって、この命は彼が自分の命を投げ出してまで助けてくれた命なのだから。だから私は、結局この世で、生きき続けてしまうのだ。
どうせなら、あの時、私を殺してくれれば良かったのに。そう言ったら彼は微笑んで最後にこう言ったのだ。
「お前がいなくなったら、俺がこの世で生きていけない」
馬鹿な貴方。じゃあ、貴方がいないこの世の中で生きている私はどうすれば良いのよ。貴方の言うとおり、私も貴方がいなかったらこの世で生きていけないのに。どうしてそんな簡単なことに気付いてくれないの。神様、私にはあの人が自分の命を投げ出して助けてくれた命を自分から絶つことなんてできません。
だから、早く、私をあの人の場所まで連れて行ってください。もしも、それが出来ないというのなら、どうか、神様が私を殺して。
貴方のいないこの世界で
(2008・11・01)
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