あるひ、であったしょうねんは


とてもやきゅうがすきなしょうねんでした
















特にすることもない日曜日。子供は外で遊んできなさいとお母さんから外に追い出されたものの、運の良い事に友達に会うことも出来ずに私は一人で公園へと向っていた。公園に行けば誰か友達が一人ぐらいいるだろうと期待しつつも、まぁ、公園のベンチでゆっくり昼寝という手もありだろう(そもそも子供は外で遊べって言うなら、遊園地とかに連れて行ってくれても良いじゃんか!)だけど最近、子供の誘拐事件とか多発してるし昼寝はなしかなぁ。いやいや、誘拐するならもっと可愛い子を誘拐するか!













「(わー、みごとにだれもいない)」











しかし、到着した公園には私の予想とは反して公園には子供だけじゃなく、人が誰一人いなかった。日曜日のお昼と言う時間いつもならたくさんの子供が遊びにきてそうなのに何故、今日は誰もいないのか。これはもうお昼寝しかないかなぁなんて考えていれば「あぶねぇ!」と人の声が聞こえてきた。あぁ、いないと思ったけど本当は人がいたんだななんて思って声のした方を振り向けば、野球のユニフォームを着た少年がこちらに向って走ってきていた。・・・・・もしかして、危ないのって私のこと?だけど、何が危ないのかが全然分からなくて、私は何もできずにうろたえながらその場に立ちつくすことしかできなかった。











バシッ












「ギャッ!」












私の真横のとても近い場所に落ちてきたボール。その威力は半端ないものでよっぽど高いところから落ちてきたのか、ボールの落ちた場所は少しだけへこんでいたヒィィィ!!もしも、このボールが私に当たっていたらどうなっていたことだろう。多分、頭蓋骨陥没は避けられない事態になっていたと思う。頭蓋骨陥没なんてなっていたら、私の今後はとても口じゃ言えないことになっていたんじゃないだろうか。折角、最近算数の2ケタの足し算、引き算ができるようになったばっかりだったのに・・・・!!よかった、このボールが私に当たらなくて!!












「(こ、こえぇぇぇ!!なんででわたしがこんなめにあわなくちゃならないんだ・・・?!)」












とりあえず、私の横に転がっていたボールを手に取る。それはどうやら野球ボールのようで(野球のユニフォームを着ている少年がこちらに来ているのに落ちたボールがサッカーボールとかだったらおかしい話だけど)私の手にはまだ少しだけ大きく感じた。












「だいじょうぶか?」






「あ、うん」










ユニフォームを着た少年はいつの間にか私の目の前まで来ていて焦ったように私に話しかけてきた。私は持っていた野球ボールを少年に手渡し、ハァと息を吐いた。









「わるいな。おれ、やまもとたけしっていうんだ。おまえは?」







だけど」







「はは、にけががなくてほんとうによかった!」












爽やかな笑顔に少しだけ眩しさを感じて、私は思わず目を細めた(まるで太陽みたいな笑顔だ・・!)どうやらこの少年の話によると公園に誰もいなかったから一人で野球の自主練をしていて、ボールが変な方向に行ってしまったらしい。そして、運が悪いことに丁度そこに私がやってきてボールが当たりそうになってしまったんだと話してくれた。こんな広い公園であれだけ小さなボールが当たりそうになるなんて私ってどれだけ運が悪い女の子なんだろうか。とことん運が悪い女の子と言うのは、間違いないだろう(あはは、もう笑うしかないよ・・・・)












「ねぇ、やまもとはひとりでれんしゅうしてたの?」








「あぁ!じしゅれんしないとつよくなれねぇからな!!」







「へぇ、やきゅうすきなんだね」








「あたりまえだろ!」













山本のユニフォームはどんな練習をしたのか、泥だらけになっていて山本が一生懸命に野球の練習をしていることがすぐに分かった。私には、こんなに好きなものがなかったから少しだけうらやましく思えて、だけど、好きだと言う理由だけでこんなに泥だらけになるまで努力できる山本が凄いと思えた。だって、いくら好きだと言っても私には山本のように努力できる自信なんてまったくない。だから、好きなものにこれだけ一生懸命になれて夢中になれる山本はとても凄い人間なんだろう(私には、何一つないのに)











はなにしてたんだ?」











「わたしは、」













山本みたいに大好きな野球の練習をしにきたなんてこともなく、ただ暇だったから公園にきただけ。やることもなく、自分のやりたいこともなく。お母さんに外に追い出されたから、外にでるしか私にはできることがなくて、公園にいれば私と同じような人がいると期待してきただけ。実際、公園には一生懸命に泥だらけになるまで練習している私とは全然違う山本がいるだけだったんだけど。











「・・・・じゃあさ、もやきゅうやらねぇ?」







「えっ?!わたし、やきゅうなんてやったことないよ!!」






「だいじょうぶだって!おれがおしえるからさ!」












ふたたび満面の笑みで私に話しかける山本。だけど、私本当に野球なんてやったことないのに・・・!少しだけアタフタしていると、目の前の山本はフッと噴出してわらった(ちくしょー、馬鹿にしやがって!!










「あはは、っておもしろいのな!」







(カチン!)おもしろくないから!」







「よし、じゃあ、こんどあったときはぜったいにおれがやきゅうおしえてやるからな!」












何故かはりきったような声をだす山本。そこまで自分のことじゃないんだから、はりきらなくても良いのになんて思いつつ、少しだけ野球を山本に教えてもらいたいなぁなんて思う自分もいた。だけど、私なんかに教えてたら山本が野球をする時間が減ってしまうかもしれないのに良いかななんて思って山本の方をチラリと見てみれば、必死に「はじめはあれかな」とか「まぁ、なら大丈夫だな!」なんて言っている山本がいて、安心した。でも、待て、山本。私なら大丈夫ってどういうこと?君は私にどんな練習をさせるつもりなの?(すっごい、不安になってきたんですけど・・・!!)










「なら、やくそくな!」







「うん」
















異様にはりきっている山本に多少の不安を抱きながら、その日は山本とさよならをした。いつ山本に野球を教えてもらえるのかなんて分からないけど、教えてもらう時には山本のように自分も何か好きなものができて一生懸命に取り組めることができていればよいのになんて思えた。それで、今度は私の好きなものを山本にも教えてあげれるようになりたい。何か一生懸命に取り組める日がいつか来ますように。何だか輝いて見えた山本みたいにこれが好きだと胸をはっていえることができれば良いなぁ。















あるひ、であったしょうねんはとてもやきゅうがすきなしょうねんでした。だけど、




どりょくをしっているしょうねんでもありました

















(2007・11・21)