小学校を入学して一ヶ月ちょっと。黄色い帽子も体の割には大きいランドセルにもなれて、私は家へと一人で帰っていた(寂しいとか思うなよ!)別に友達がいないわけではないけど、今日はみんなで放課後残って遊んで帰るらしい。もちろん誘われたけど、そんな気分でもなくて私は断って、いつもなら友達と帰る道を今日は一人で帰っている。まだまだ空は明るいけれど住宅街の為か、人はいない。
「ぴえーん!!たーすけーてー!」
どこからともなく聞こえてきた声。ぴえーんって、悲鳴なのかと少しだけ疑問に思いながらも好奇心一杯の私はその声のほうへと向った。重いランドセルを背負って走るのは少し大変だったけど、ガタンガタンと鞄の中身を揺らしながら私は走る(小学校一年生にこんな重いもん持たせるなよな・・・!)
「うわーん!!」
「わっ!」
声のした場所についたと思えばそこにいたのは茶色の髪の若干、重力を無視しているのではないかとも思ってしまうぐらい髪の毛が立った少年が犬(種類はチワワと思われる)に襲われているところだった。大きな丸い瞳からは涙が溜まっていて今にもその少年の目からは涙が溢れそうになっていた。
「だ、だいじょうぶ?!(って、チワワにこんなに怯えるなんて・・!)」
「えっ?!」
「キャン!」
チワワにとったら、ただその少年にじゃれあいたかったみたいで私が近付けばチワワは私の方にむかってきた。とりあえずあまりに可愛いチワワだったので、しゃがみこんで少しだけ撫ぜてあげればチワワはすぐにどこかへ行ってしまった。少年はその間、私のほうをただただ不思議そうに見ていた(私としてはチワワに恐がっていた少年の方が不思議だがな!)チワワが去ってしまったあと、もう一度立ち上がり少年に近付けばその瞳にはまだ涙が一杯たまっていた。
「だいじょうぶ?けがはない?」
「う、うん」
「はい。これでなみだ、ふきなよ」
ポケットからハンカチを取り出して少年に手渡せば、少年は少しだけ躊躇した様子でハンカチを手に取った。涙を私のハンカチで拭く目の前の少年をもう一度良く見てみれば、その少年も私と同じように黄色い帽子(は近くに落ちてたんだけど)と真っ黒なランドセル。同じ学校では見たことがないから、違う学校に通っている少年なんだろう。「あ、あの!」少年の声に、私は再び真っ直ぐ少年を見た。少年の瞳から今にも溢れそうだった涙はなくなっていて、少しだけ鼻が赤くなっていた。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
にっこりと目の前の笑う少年に、心が暖かくなったような気がした。まさか。ありがとう、って言われる事がこんなに嬉しいことだったなんて今まで思ったことはなくて、少しだけ照れくさくなってしまった。
「ぼくね、さわだつなよしって言うんだ。みんなからはツナってよばれてるんだよ」
「わたしは、。っていうの。ツナよろしくね!」
「うん!」
入学してから今までツナを見たことはなかったから、多分他の学校なんだろうと思った。だけど、他の学校に友達ができたのは初めてで何だか嬉しくなって私とツナはその後、公園に行って少しだけお話した。ツナの優しいお母さんや、お父さんの話だったり、一回会った事あるお父さんの友達のおじいさんの話までしてくれた。話を聞いていると、ツナの周りにいる人は全員優しい人なんだって言う事が分かって、だから、ツナの笑顔もあんなに優しいんだなって思えた
「もうくらくなってきたね」
「そうだね、そろそろかえろっか」
「とあそべてすごくたのしかったよ!、・・・・っ!?」
「どうしたの、ツナ?!」
空も段々と暗くなってきて私とツナが公園から出て話しているとツナがいきなり怯えた顔になった。その視線をたどれば、そこには大きな首輪をしていない犬がいて、ヴゥーとこちらに向って唸っていた。さすがの私も少しだけ恐くなったけど、横のツナはすごく怯えていて、さっきチワワに襲われていたときの様にその目には涙が一杯に溜まっていた。そんなツナを見てしまえば、目の前の犬がとても憎たらしいものに思えてきて、ツナへととびつこうとしている犬からツナを庇って犬の鼻先をけりあげた(犬に襲われたときはこうしろって、お母さん言ってたし!)
「キャイン!」
「わっ(なんか、いぬごめんね!!)」
鼻先を蹴り上げれば犬は走って逃げていった。私はホッと息をはいて、ツナの顔を見る。だけど、ツナの瞳にはまだ一杯の涙が溢れそうになっていて驚いた様子で私の手を見ていた。私も気になってツナの視線の先にある自分の手を見てみれば、そこには先ほどツナをかばったときにできた傷ができていて少しだけ血がでてきていた。
「?!おれのせいでごめんね!!いたいよね!いたいよね」
「えっ、ツナちょっとおちついて!」
ポロポロと犬に襲われて溢れそうになっても溢れることはなかった涙が、ツナの瞳から次々に出てくる。自分が危ない時はでなかった涙が、私の怪我なんかで出てくれることがすごく嬉しくて、まだ会って間もないのに人の為に涙を流すことのできるツナを純粋に凄いと思えた(私じゃ無理だろうな・・・・)自分のことばかりで人のことなんて考えられるなんて、ツナはやっぱり優しい。
「、これでふいて!」
目の前に突き出されたのは、ツナがポケットから出したハンカチだった。どうやらツナは自分のハンカチを持っていたらしい。何だか、ツナのハンカチが汚れてしまうのが嫌で私は中々ハンカチを手に取ることができなかったけど、ツナはそんな私に痺れをきらしたのか、私の怪我をした方の腕を持ち上げて、ハンカチを押しつけた。
「ツナ、よごれちゃうよ?」
「べつにいいよ。はんかちなんかより、のほうがたいせつなんだから!!」
「・・・・ありが、とう。ツナ」
私はその日、ツナのハンカチを自分の怪我に押し付けたまま帰路へと着いた。私のハンカチはツナが持っている。これはいつかまた会った時に、それぞれ交換しようというツナとの約束で、同じ学校じゃないからツナとまた会える確証なんてどこにもないけど(家はそんなに遠いわけじゃないと思うけど)それでもツナとはまたどこかで会えるような気がした。それがいつになるかは分からないけど、この約束はいつまでも覚えておきたいと思う。
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