学校からの帰り道にふと立ち寄った公園で見た光景は、あまりにも可笑しなものだった。私と同じ年ぐらいの黒い髪のつり目な少年が、自分の体よりも何倍も大きい少年5人ぐらいにかこまれているのだ。いや、ここまでは全然可笑しなところはない(まぁ、少し可笑しいとは思うけどね・・・・!)可笑しいのは、本来なら自分より大きい少年達に囲まれたら怯えていそうな黒い髪の少年が、怯えるどころか少しだけ笑っているのだ。それも、その笑いの黒いこと、黒いこと。あんな笑い方ができる少年が、黒いランドセルを背負って学校に通っているなんて恐すぎて考えたくもない。
「(っていうか、なにしてんだろ・・・・?)」
そもそもあの人たちは何をしているんだろう。一見すれば、黒い少年が年上の少年にからまれているようにしか見えないのだけど、あの微笑を見た後では、黒い髪の少年の方が年上の少年にからんでいるようにしか見えない。少しだけ好奇心に負け、様子を見ていれば私が初めに思っていたとおり、年上の少年達が黒髪の少年に何かいちゃもんをつけていた。あぁ、あいつらやめておけば良いのに。普通なら黒い髪の少年の心配をするべきなんだろうが、私には黒い髪の少年よりもあの、今いちゃもんをつけている少年達の方が心配だ。あいつはヤバイと心の中で警報が鳴り響く。
「かみころす」
はは、面白い言葉を使う少年だな!なんて笑って見ていた自分が今となっては憎らしい。その言葉を発した黒い髪の少年はものの数分もしないうちに自分より体の大きい少年達を金属の棒・・・・確か名称はトンファーと言う武器だったのはずだが、それで容赦なくボコボコにしていたのだ。それは見ていて、素晴らしい動きだったのは言うまでもない。まぁ、私と変わらない年の少年がトンファーを巧みに使いこなしている事は可笑しいのではないかと思ったのだが。いやいや、私と同じ年の少年が使っていた事など関係なく、一般人が使っていたら可笑しいものだろう(トンファーなんて生で見たの初めて!・・・って感動してる場合じゃないから自分!!)
「うぅ・・・、クソッ」
「よわすぎてはなしにもならないよ」
あんたが強すぎるだけだろ。と言うツッコミは心の中でしておいた。さすがに口に出す勇気は、あの光景を見た後ではない。自分の好奇心に負けて、様子を見ていたけれどもしかして私はあのままちゃんと家に帰ったほうが良かったのではないのだろうか、と後悔していれば黒い髪の少年がチラリとこちらを見た。その瞬間に、合う視線に私は咄嗟に視線を逸らした(これって、や、や、やばくない?)ただ今心拍数上昇中。それもありえないくらいドクンドクンと心臓が動いている。
「・・・・(よ、よし。きょうのことはみなかったことにして、わすれてしまおう!!)」
ランドセルを気合を入れるようにもう一度かるいなおす。よし、。足の調子は大丈夫。深呼吸をし、私はグッと走り出そうと足に力をいれなおす。よし、逃げろ、私!!・・・・・・と、地面を蹴ろうとした瞬間に頬に何か冷たいものを感じた。ひんやりと、何か金属を触ったときと同じような感覚。まさか、と思い私は視線をずらせば、私の頬に当てられた金属の棒であるトンファーが見えた。あぁ、好奇心なんかに従うのではなかったと、私は肩を落とした。
「きみ、ぼくになにかようがあるわけ?」
「な、ないです!!あるわけがないです!!」
「ふーん、じゃあ、ついでだし、きみもかみころしておくことにしようか」
そ、そんなぁぁぁ!!と思っているのもつかの間、トンファーが私に向って勢いよくおろされた(だ、誰か助けてー!)誰が私を助けてはくれないだろうか、と期待して辺りを見渡すも人なんて誰一人いない。いや、いるのはいるんだけど、そいつらはさっきこの黒い髪の少年にボコボコにされたばっかりで起きる気配なんて到底しない。あぁ、私を助けてくれる人は誰一人いないらしい。最後の期待だとばかりに、神に助けをこうも、私に振り下ろされるトンファーのスピードは遅くなることは無かった。
「(もう、だめ、だ・・・!)」
ちくしょー、なんで私がこんな目にあわなくてはいけないんだ!と心底自分の運の無さを呪い、キッと目の前にいる人間を睨む。その瞬間、私に振り下ろされたトンファーがとまった。顔の前にはトンファー。距離にして1センチメートルもない(センチって算数で習ったばっかりだもんね!)私はホッとして、息を吐いた。
「ねぇ、」
「・・・・は、はい?(はやくトンファーどけてくれないかな・・・・)」
「きみ、なんねんせい?」
未だトンファーが顔の前のある状態で、少年は質問をした(って言うか、なんでトンファーを止めたんだろう?)私は質問の意味が分からなかったけど、答えないと殺されるような気が目の前の少年からひしひしと伝わってきて、不本意ながら「いちねんです」と答えた。そして、少年は僅かに口端をあげる(あぁぁ、この笑顔はさっきの真っ黒な笑顔だよ・・・!恐っ!)
「へぇ、そのとしにしてはなかなかどきょうがあるんだね」
「は、はぁ(すいません、はなしのいとがぜんぜんつかめないんですけど)」
「ぼくがトンファーをふりおろしているにもかかわらず、にらんでくるなんておもしろい」
「(こっちはおもしろくなーい!!)」
「たいていのにんげんは、おもしろくないことにおびえるだけなんだ」
どうやら、この目の前の少年は私が怯えなかった事が面白かったらしい(そ、そ、そんなこと面白いとか思うなよな!)なんとも不思議な少年というか、戦い好きな少年と言うか、私には到底理解できそうに無い思考をもった少年らしい。そして、私はそんな少年に気に入られたと、これは自惚れでは無く、感じた。ただし、気に入られたといっても珍しい人間として。私だって、いきなりトンファーで殴られそうになったら恐いと感じる。しかし、それよりも目の前のこの少年がただムカついたから睨んだだけのことだったのに。
「いちねんで、それだとこのさき、もっときたいできるね」
「え?!(なんのきたいですか?!なんの・・・・!!)」
「ここでころすのはもったいない。きみはいかしといてあげる」
ランドセルを背負ってる小学生の言葉じゃねぇ!と言う、ツッコミは私には出来なかった。そう、良く考えれば私はここで殺されることはないのだ。それに、この先この少年と会う確証なんてない。だって、私は生まれてこのかたずっとここにいるのにこの少年には今日初めてあったし、私の学校でも一度も見たことは無い。なら、この先も会うことはないかもしれないという希望が私の中でできた。よし、と気合を入れなおして私は目の前の少年を見据える。少年の真っ黒な瞳と私の目があった。少しだけ、その瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚える。それだけ、この少年の瞳は綺麗だった。
「で、きみのなまえは?」
「は、はい?」
「はやくいわないとかみこ「っていいます!!」」
少年の言葉を遮るように言えば少年はそれに満足したのか少しだけ、また口端をあげた笑った。その顔には先ほどの真っ黒さはなかった・・・・・(と、思いたい)しかしながら、やはり綺麗な顔をしているだけあって笑った顔は綺麗だ。いつの間にか目の前にあったトンファーは無くて、私は良かったと心の中で呟いた。しかし、この少年は私の名前を聞いてどうするつもりなんだろうか。私はこのさき、君とはあうつもりはないから聞かれても困るんだけど。本当に、殺されたくないから聞かないで貰いたんだけど・・・・!(だけど、もう私は自分の名前をこの少年に教えてしまった。後戻りなんて、できやしない)
「ぼくのなまえは、ひばりきょうやだから」
「ひばり、さん(さすがによびすてにはできない!)」
「・・・・・うん、わるくない」
「(な、なにがだ?!)」
「あぁ、もうこんなじかんだ。ぼくはまだようじがあるからいくよ」
そう言うと、ひばりさんは踵を返し、近くにあった黒いランドセルを背負う。まったくもって、ランドセルが似合わなすぎて私は少し噴出しそうになった(大丈夫、笑ってはいないよ。まだ死にたくないし!)安心感と言ってよいのかは分からないけれど、私も大分緊張していたんだろう。一気に肩の力が抜けたような気がした。しかし、ひばりさんが再びこちらを振り返る。また私の肩に力が入った。
「またね、」
微笑むひばりさんに、私は苦笑いでしか返せなかった。確かに、今の優しく微笑んでいるひばりさんにならまた会いたいとおもっただろう。だけど、また会ってしまったら私はかみころされてしまうかもしれないのだ(そもそも、かみころすって何?)ひばりさんの背中を夕日のなか、見つめる。会いたい、会いたくない、私を覚えていて欲しい、覚えて欲しくない、今の心情はとても複雑だ。
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