ハーイ、なんで今私はここをものすごい速さで走りぬけているんでしょうか?答えは簡単、なんだか知らない少年に追われているからです!!(テンション高くしておかないと、この理不尽さに泣きそうだよ・・・・!)一体なんでこんなことになったんだろう。いつものように学校帰りにちょっと寄り道をしようと思って入った裏道で知らない少年に話しかけられたと思ったらいきなり、何ていうか、多分ナイフみたいなものが顔の横をスッと通っていったんだよね!後ろの壁を見た瞬間、壁にめりこむナイフに私は思わずびっくりして、いや、あそこで恐怖に打ち勝って走り出した私は偉いと思うよ。普通なら怖くて足なんて動かないと思うしね!
「ちょっと、まてよー」
「まつわけないじゃないですかぁぁぁぁ!!」
後ろから追ってくる金髪の多分外国人だと思われる少年。この状況で待てなんて、無理に決まってるじゃないか。そもそも逃げてるのはあんたが原因だよ!お前が追ってこなかったら別に逃げないから!と心の中で思いながらも背負ったランドセルの重みが邪魔をしてスピードはそこまででない(あぁぁ、ランドセルがなかったらもっと早く走れるのに!)乱れる息に若干死にそうな思いをしながら、私は狭い路地を抜けていく。ま、まだ死にたくねぇ!と思っていた瞬間に、もつれる足。最悪だ!と思った時には既に勢いよく私は地面に激突していた。
「(いた、い・・・・・)」
あまりの痛さに声も出ずに起き上がることもできない。なんで、私がこんな目に合わないといけないんだろう。あぁ、私はこんな所で死んでしまうんだろうか、と自分の人生のあまりの短さに嘆いていれば上から声が聞こえる「うしし」その笑い声に私は顔をあげ、その場に座り込む体勢をとった。見上げる少年の目は見えない。長い金色の髪の毛で隠されている。ただ、口元とその笑い声から私を笑っている事だけは分かった。
「うしし、おまえどんくせぇな」
どんくさいわけじゃない、と言いたいけどあまりの膝の痛さに私は声をだすことができなかった。膝を見れば、かなり勢いよくこけたせいか血がダラダラと流れていて、ズキズキと痛んだ。他にもところどころ傷を負っているせいか、その傷だけじゃなくて体中がズキズキと痛んでいる気がした「へぇ、ちでてんじゃん」と口笛を吹きながら言う少年に軽く殺意が芽生えるも私は何も出来ずに、あまりの痛さと、少年に対する悔しさから涙がでた。ポロポロと流れてくる涙をとめることもできずに、私はキッと少年をにらみつけた。少年は一瞬驚いて、息を飲んだような気がした(表情が全然わかんないから、本当に驚いているかはわかんないけどね!)
「わたしがこけたのはあなたのせいなのに、なんでそんなふうにいわれないといけないんですか!」
「・・・・・」
「こっちだってこけたくてこけたんじゃないんですよ!おっかけられたらふつうにげるにきまってるじゃないですか!」
流れてくる涙をぬぐうこともせず、私は必死に目の前の少年に向って怒鳴った「おうじにむかって、いいどきょうしてんじゃん」・・・・・・・あ、やばい。もしかしなくても、これって怒らせたみたい?あぁぁぁぁ、私ったら怒りに身を任せてなにやってんだよ!と思っても、その時には既にもう遅く私の目の前で少年はかがんだ。少しだけ少年の顔が近いところにくる。コートの中に銀色に輝くナイフが見えて、今度は私が息を飲んだ。うっぐ、と可愛くもない嗚咽がでる。もうどうにでもなれだ、と思って少年を見ていれば、ちらっと金色の髪の僅かな隙間から少年の瞳が見えた。
「おまえ、なまえは?」
「・・・・、ひっく」
「じゃあ、もうなきやめ。これ、おうじめいれいな」
何が王子命令だと思いながらも、私の目から流れる涙は少しずつ減っていった。まだ痛む足を見て、少年は「ほら」と言って私にハンカチを差し出してきた。さすがに人様のハンカチを自分の血で汚してしまうのは、と思った私は差し出されたハンカチを目の前に頭を横に振りながら、「だ、だいじょうぶです」と言うことしかできない。その何がムカついたのか自称王子少年はそのハンカチを私の血の出ている膝に勢いよくあてた。バシッと言う音が聞こえて、私は声にならない声をあげる。痛い、これは痛い!まだ、血も出ているなかで叩かれた時の激痛は、凄い傷がある時にお風呂に入った時の痛みよりもはるかにしのぐものがあった(こいつ、なきやめっていったくせに・・・・・!)(そんなふうにたたかれたらもっとなみだでてくるから!)
「まぁ、これでだいじょうぶだろ。あ、いいわすれてたけど、おれ、ベルフェゴールっていうんだ」
「ベ、ルフェゴールさん・・・・・・・?(ながいなまえだな、オイ)」
「うわ、さんづけとかありえねぇ。ベルでよいよ、ベルで」
「ベルさ「ベルってよべよ」」
チラッとナイフを見せながら言うベルさ・・・・・ベルに私は何も言えずただ頭を上下に激しくうごかした(こ、ころされる!)だけど、あきらかにわたしより年上の人を呼び捨てにするのも、と思っていればベルが今度は背中を見せた。一体何がしたいんだ、こいつと思いながらも、私はただじーとその光景を見る。この足で私家まで無事に帰り着くことができるんだろうか。いやいや、この足じゃきついよな。ランドセルと言う小学生にとっては魔物もいるし。はぁ、とため息を思わず零しそうになっていれば背中を向けていたベルが顔だけをこちらに向けて「なにやってんだよ。ほら、はやくのれ」と言った。
「へ、な、にをいって?!」
「だーかーら、おうじがおくっていってやるっていってんだよ。そのあしじゃいえまでかえるのたいへんだろ」
「(そんなこと、ひとこともいってませんが!)」
「さっさのらねぇと、」
と言いながらチラッとみせる銀色ナイフ(はむかえないんですけど・・・・・・・!)もうこれは腹を括ってのるしかないと思いつつ、私はゆっくりとベルの背中におんぶされる形でのった。ベルは私と、別名魔物のランドセルを背負い「よっと」と言って立ち上がった。多分、私とランドセルの重みで重いにも関わらずベルの足取りはかるい。私はこっち、とかあっち、とかベルの背中でおんぶされたままベルに教えた。
「おうじがこんなことするってほんとうにめずらしいんだけど」
「・・・・(おうじって、このひともでんぱけい、なのかな?)」
「そもそも、なんでにげたんだよ」
「だれだって、ナイフをなげられたらにげる、とおもう」
「でも、あててないじゃん」
悪びれた様子もなく言うベルにこいつ大丈夫かよ、と思った。確かにあたってはいないけど、誰だってナイフを投げられたら逃げるに決まっている「そういうもんだいじゃない」と言えば、ベルは興味なさ下にふーんとしか返さなかった。それほど家まで距離がなかったおかげか私の家まではすぐについた。家の前でおろされて、一応お礼を言えば、ベルの口端は大きく上がった。キラキラと夕日の光をあびて、ベルのつけているティアラが光る(ティアラをつけてる男の子って珍しい)(王子って言ってたのももしかして嘘じゃないのかな?)そのティアラに少しだけ視線を奪われていれば、ベルがその事に気付いたのか、うしし、とまた彼独特の笑い方をしながら笑った。
「なんだよ、。このティアラがほしいのかよ」
「ただ、きれいだからみてただけ・・・・です」
「けいごもいらねぇし・・・・・うしし、」
と、また笑う。ベルは何か考え込む仕草を見せて、こちらをみた。そして彼は言葉を紡ぐ。彼の言葉は私の予想にとても反した言葉だった。
「じゃあ、、ひめになる?おれ、おうじだからひめにしてやってもいいぜ?」
「・・・・は?」
「そしたら、ティアラだってじゅんびしてやるよ」
いやいや、この人は何を言ってるんだろうか。やはり、電波系だったということなのだろうか。私が姫?いやいやいやいやいや、ありえない。ありえない。とてもありえなさすぎて笑ってしまいそうなかんじだよ。目の前のベルはそんな私の気持ちに気付く事もなく、口端を大きくつり上げて笑っていた(最近、電波系な人多くない?!もしかして私の周りだけとか?!)
「いや、えっとえんりょする、よ」
「はぁ?おうじがせっかくいってやってんのになにいってんだよ」
「だって、わたしがひめとかかんがえただけでもとりはだだし・・・・・それに、わたし、ひめなんかじゃなくてふつうがいちばんだから」
私がそういえば、ベルは「ふつー、おんなってひめとかになりたいとかおもってんじゃねぇのかよ」とぼやいた。そりゃ、おひめさまに憧れる気持ちも分からなくないけど、自分がなると言うのとはまた別の話だろう。私は姫なんかになるよりもふつーに暮らせればそれで十分。ティアラだってそれをつけて似合う子がつければ良い「うしし、やっぱりおまえおもしろいやつ」と私としては嬉しくない褒め言葉を頂戴してしまった。
「ま、ひめになりたくなったらいつでもおれにいえよ。じゃあな、」
「え、あっ」
このハンカチどうすれば良いんだよ、と思いながら下がっていた視線をあげればそこには既にベルはいなかった。って言うかさ、ひめになりたくなったらいつでも言えっていわれてもさ、私ベルのこと何にもしらないんだけど!まぁ、ベルの事だから突然ふらっと現れそうな気がしないこともない(何てたって電波系だし!)(・・・・・どうやら、私の中で既にベルは電波系の位置にあるらしい)ズキズキと痛む足に、今日のお風呂がとても心配だ。絶対に、痛い。きっと痛い。それにしても、あんな少年がナイフをあんなに常備しているなんてこの世の中大丈夫なんだろうかと、日本の治安が心配になった。
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