いきなり応接室に入ってきたと思ったら、彼女が言った言葉は一字一句間違いなくこの言葉だった。まったく中学生のくせにビジネスの話なんてまた馬鹿なことを言い出したか。まだ中学生なのだから、中学生らしい・・・・・そう部活の話やはたまた恋の話でもすればよいものを、と思ったりもしたが、はっきり言って僕にいえた事ではないのは確かだ。さすがに、僕自身がそんな事を言えた身ではないことは分かっているので言葉にするのはやめた。それに、彼女が僕の話に耳を傾けた事は無い。小さい頃からそうだ。そして、小さい頃からいつも突然意味が分からない事を言い出す。学校の成績は悪いほうでもない。しかし、どうやら僕とは頭のつくりが違うらしい。まぁ、彼女の話が面白くないというわけではない。いや、彼女の話は僕にとっては面白いと感じられる話が多い。多分、他の人にしたら何が面白いと感じるような話ばかりだと思うだろう。しかし、彼女の話はいつだって、確かに、と頷けるような話ばかりなのだ。さて、今回はどんな話をしてくれるのか。期待をしているわけはないが、僕は動いていた手をとめて、勝手に応接室にある紅茶を入れ優雅にソファーにたたずむ彼女を見た。彼女は、そんな僕の姿を見て、話をし始める。話を聞いてやる僕の紅茶を入れる気はさらさらないらしい。彼女らしいと言えば彼女らしい。そして、あえて紅茶を入れて欲しいとは頼まない僕も、僕らしいといえば僕らしいと言える。
「さぁ、恭弥くん、私の話を聞いても驚くんじゃないよ?」
「分かったから早く話を始めなよ」
「ははっ、まてまて焦るな。では、始めに恭弥くんに携帯と言うものは何と思う?」
まるで人を小馬鹿にしたような態度もいつものことなので気にしない。そして、僕はの質問を考えた。携帯電話とはすなわち通話媒体。人と人とを繋ぐものだと思う。しかし、にとってはあまり持っていても意味がないものだと言えるだろう。彼女はこの性格なのであまり人との付き合いはないみたいだし、連絡を取り合うこともあまり好まない。なら、何故が携帯を持っているかと言われれば、彼女の親は彼女とはまったくもって違う思考を持った、普通の親だからだ。放浪癖のある、と言う言い方よりも気になったら追求しなくてはとことん気がすすまない彼女はよくふらふらと夜まで帰って来ないことが多い。その度に僕のところに連絡をしてこられるのは困ったものだが、彼女が携帯電話を持ってからというものそれはなくなった。そんな彼女の携帯に登録されている人達は限られている。僕はもちろんのことだが、他には沢田綱吉や、山本武、獄寺隼人、そして何処で知り合ったのか六道骸の携帯の番号を知っているらしい。一体、どこで六道骸なんかとしりあったのだろうか。彼女の事だから、廃墟となった黒曜ランドが気になって調べに行った時にでも知り合ったのだろう。さて、彼女の質問に戻るとするが、携帯と聞かれても一言に答えられるものじゃない。そして、厄介な事に彼女が僕の答えで納得しなければ、彼女は自分勝手に話を止めてしまう事もある。先日の、人間が時計に求めるものとは、と言う話が良い例である。はっきり言って、この話の続きが気になって仕方がない。しかし、彼女は一度途中で止めてしまえば、その先一切同じ話は持ち出してこない。僕としても、話して欲しいと頼むのは癪なので頼むこともしない。
「ほら、早く携帯とは何か言ってごらんって!」
「人と人とを繋ぐものじゃないの?」
「・・・・・」
急に黙りこむ。これは彼女の望んでいた答えを言えなかったのだろうか。これでは、また彼女はこの話をすることをやめてしまう。と思えば、彼女は思いっきり噴出して笑い出した。まったくもって意味が分からない。ついに頭がおかしくなったかと考えれば、彼女の頭が可笑しいのはもとからであった。そして、彼女は何を言い出すかと思えば「恭弥くんから、人と人とを繋ぐなんて言葉がでてくるなんて思いもしなかったよ!!」こいつ、咬み殺してもかまわないだろうか。いや、ここはガマンする事にしよう。どうやら、彼女の納得する答えは言えたみたいだし、ここで咬み殺してしまっては彼女はこの話の続きを話してはくれない。しかし、未だ笑い続けるを見ていれば、咬み殺してもかまわないのかもしれない、と思った。
「クッ、あまりに面白い解答をしてくれた恭弥くんには話の続きを話してあげよう」
「(・・・本当に、咬み殺してしまおうか)」
「携帯電話とは、そう恭弥くんの言うとおり人と人とを繋ぐものだ」
「それと、ビジネスがどう関係があるのさ」
「大いに関係があるよ。携帯電話の産業は今や、ものすごく発達した。分かるかい、この意味が?私たちの生活では携帯なしの生活なんてとても考えられないものだ」
「それで?」
「そんな携帯電話の産業および、ビジネスにおいて成功以外考えれない」
キラキラとした顔で語る彼女。しかし、話している内容は普通の女子中学生がするような話ではない。普通の女子中学生が携帯でのビジネスを考えているだろうか。まったく、この子もどこで道を間違ったのだろうと、思ってしまう。だけど、それは言う事はできない。なぜなら僕も普通の男子中学生とは言う事が出来ないからだ「それで、は何が言いたいわけ」と聞く。だって、そんな成功しか考えられない業界であっても、はどれだけ大人びている、悪い言い方をすれば女子中学生に思えないとしても彼女の見た目は普通の女子中学生。小娘といわれても良い年代だ。そんな彼女がその成功しか考えられない業界あったとしても、ビジネスをするというのは無理な話ではないだろうか。いや、無理に決まっている。彼女の家はごくごく普通の一般家庭。もし、彼女の親が資産家だとしたら、彼女もその産業に名乗りをあげることはできたかもしれないが、ごくごく普通の彼女の家庭では無理な話だ「恭弥くん、私は別にこんな小娘が携帯のビジネスにおいて成功できるとは思ってはいないよ」少しだけ彼女らしくない弱気の発言に僕は驚いた。ワオ、君も謙虚と言う言葉を知っていたんだね!と声をかけそうになる。だって、彼女はいつだって強気で、人の意見を聞かないような人間だ。自己中心的と言う言葉は彼女の為にある言葉だといっても過言ではない。もちろん、僕の為にある言葉といっても過言が無いと思うが。
「始めと言っている事が違うんじゃないのかい?はさっき、」
「まぁまぁ、私の話は別にここで終わったわけじゃない。むしろ、私の話はここからなのだよ。恭弥くん」
自信ありげに言う彼女。さぁ、聞かせてもらおう。君のとびっきりのビジネスの話というものを。そして、僕を退屈させないでくれ。
「私の携帯の中のアドレスを恭弥くんも知っているだろう?私の携帯の中には恭弥くんのアドレスや、もちろんそれだけじゃなく、山本くんや獄寺くん、六道くんのアドレスがある。これらの人物にある共通点と言うものが君に分かる?」
「僕と、六道骸の共通点なんてあるわけがない」
「いやいや、それがあるんだよ恭弥くん。君は認めたくもないかもしれないけど、私が今名前を出した人には共通点があるんだ。山本くんは野球部の天才ルーキー。獄寺くんは帰国子女。六道くんは紳士。恭弥くんは泣く子も黙る風紀委員長様。別にこれだけ言っては共通点なんてもの、見つからないかもしれないが全員にいえることは顔が良いと言うことなのだよ。もちろん、顔が良いからなのかは分からないが女子にもモテる。恭弥くんだって、告白する勇気のある女の子が中々現れないから女子からモテるとは分かりにくいが、バレンタインに自分の下足箱を見て、自分がモテているということは自覚しているだろう?山本くんもモテる。獄寺くんも、モテる。六道くんは学校が違うからよくわからないけれど、先日偶然告白されているところを見た。要するに全員、モテるのだ。そして、そんなモテる人たちのアドレスが私の携帯の中にある。ここでは、名前を挙げなかったが沢田くんだって今は駄目ツナなんて言われているが最近の活躍ぶりといい、あの顔立ちといい、将来有望だ。きっと、彼は将来かなりモテる人物になることは間違いないだろう。」
「それで、とびっきりのビジネスは?君の携帯のアドレスなんて僕は興味がないのだけど」
「じゃあ、恭弥くんに再び質問しよう。この携帯の中にあるアドレスを売ったらいくらになると思う」
彼女は笑顔をうかべていった。僕は彼女の言葉に呆れた。とびっきりのビジネスとは、つまり個人情報の流出だったのか、と彼女に聞きたくなった。の携帯を売ったら、多分高額になることは間違いないだろう。僕のアドレスだって、知っている人なんて風紀委員と彼女くらい。山本武は人付き合いが良いから、分からないが、獄寺隼人のアドレスもそれほど知っている人物なんて少ないことだろう。六道骸のことだって本当なら考えたくもないが、奴の事だ。自分の情報は必要最低限の人にしか教えていないだろう。なぜ、その中にがいるのかは謎なんだけど。そんな貴重なアドレスたちの入ったの携帯電話。僕の自惚れではないが、馬鹿な女子達はいくらだしても買うといいだすかもしれない。そして、彼女なら売ってしまいかねない。目の前で微笑む彼女はそういう人間なのだ。まったく、自分は厄介な奴を幼馴染としてしまったようだ。だが、自分で幼馴染を選べないのだからしょうがない。
「しかし、」
「まだ、何かあるの?」
「このビジネスの話はなしだ」
彼女が言い出したことを実行に移さないなんて珍しい。僕なんて、新しい携帯を今すぐにでも買いにいこうと思っていたぐらいなのに。まぁ、彼女は一つの事をずっと追いかけることはしないし、携帯のビジネスの話も飽きてしまったのだろう。そう思った僕は彼女を見た。彼女は顔をあげて僕の顔を見る。君の携帯のビジネスの話。呆れはしたけど、面白くない話ではなかったかもしれない。退屈しない程度には楽しめたようだ。が、少し驚いた顔をしながら言葉をつむいだ。
「他の人たちに、みんなのアドレスを知ってほしくない。どうやら、私は思ったより独占力の強い人間らしい」
前言撤回。面白くない話ではなかったかもしれない、と言うのはなしにして、面白い話だったと言う事にしておこう。十分に楽しめた話だった。幼馴染である君に新たな一面を見る事が出来たうえに、その独占したい人物の中に僕が含まれているなんて。人と違う感性を持つ彼女。次にこの応接室に入ってくるときは一体、どんな面白い話をしてくれるんだろうか。きっと、また面白い話をしてくれることは間違いないことだろう。さて、君が次に興味を持つのは、と考える。多分、他の人が考え付かないものを考えてくるんだろうね。いつの日か、こんな彼女が恋の話でもするようになったときの事を考えて笑えて来た。その相手は、誰なのか。想像もつかないが、普通じゃない彼女が惚れるような男も普通じゃないとだけは思った。彼女を見れば、もう何も話すことはないのか黙っていた。これで今日の携帯のビジネスについての話は終わりらしい。面白い話を、聞かせてくれてありがとう。しかしながら、他の男の名前を出すのはひかえてもらえないだろうか。僕もどうやら、自分が思ったより独占力が強いらしいから。
(2007・12・26)
素敵企画「本当にあった論作文」様に提出させて頂きました。臥野サマ、企画参加させていただきありがとうございました!
ちなみに、書くの、凄く楽しかったです・・・・・!
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