平凡な日々

〜変わる日常に募る思い〜










氷帝学園の水曜日は他の曜日に比べて放課後がすごく静かだ。

なぜなら、氷帝学園に通っているものなら全員知っていると言っても過言ではない

男子テニス部の練習が休みだからである。


中には自主練をする人たちはいるけれど、いつもコートの周りを囲んでいる女の子達はさすがにいない









そして、もちろんマネージャーの仕事もないので、その日は唯一ゆっくりできる最高の日なのである。











「でさ、なんでせっかく早く帰れる日に私達はクラスに残って何やってんだろうね、日吉」




「日直の仕事だろ」










そう、私にとって最高の日である今日、運が悪いことに私と日吉は日直なのである。なんで今日に限って日直なんだと

私の運命は本当に呪われているのではないかと思ってしまうのもしょうがない

黒板を消しながら、はぁとため息が漏れる。窓からもれる光がだんだんとオレンジ色に染まっていくのがなんとも恨めしい










「日吉ー、こっちは全部消したよ」





「なら、先に日誌を書いててくれ」










少しだけチョークで汚れた手をはたきながら、日吉に言われたように教卓の上にあった日誌を手にとる

パラパラと日誌をめくりながら、私は一番後ろにある自分の席に座った。

今までの人たちの日誌の感想の欄を見れば女子の時だけおかしな感想が目立つ











今日も跡部様はかっこ良かった


跡部様をみてると日吉君以外のクラスの男子がかすんで見える









これは日誌に書くような感想じゃないだろう。って言うか、このクラスの女子は中々毒舌らしい。

日吉以外の男子がこれを見たとき、どう感じるだろうかと考えれば、そのページにはちょっとだけ涙の後がみえた

ページをすすめていけば、何回もレギュラー陣の名前があらわれる。そして、私の手はあるページでとまった













忍足先輩がかっこよすぎて死にそう









誰かこの女子に現実を見せてやって欲しい。



ふと日付を見れば昨日の日付だった。確か、昨日は昼休みに忍足先輩と岳人先輩がテニス部の連絡があるとか言って教室にやってきた

呼ばれた私はどれだけ居心地が悪かった事か。まだこのクラスの女子は良い人たちだから良かったけど、

廊下からの殺意のこもった目には正直焦った。




それでも、昨日呼び出されなかったのは鳳と滝先輩のおかげだろう(鳳と滝先輩が何をしたかなんて言うのは、愚問だ)







?」






日吉に名前を呼ばれて顔をあげれば、日吉は私の前の席についていた。この男のファンはどちらかと言えば大人しい子が多い

だからこそ、テニス部のマネージャーの前から仲は良かったけど呼び出されることはなかった。お前、本当いい奴だよな・・・










「急いで書くからちょっと、待ってて」





「分かった。それにしても女子って物好きな奴が多いんだな









日吉も前のページの女子の感想を見たんだろう。

仮にも先輩に向って酷いやつだと思ったけど、考えてみれば私も同じことを思っていたので何もつっこまないことにする

私はその間もペンを動かし、今日の出来事を書いていく。今日は比較的平和な一日だったと書いていて思った












「はぁ、部活がない日に日直なんてついてない」




「そうか?俺としては部活がある日に日直があるよりは良いと思うけどな。練習時間が減るのは困る」











このテニス馬鹿が、と心の中で呟く。確かに、なんだかんだいってこの部活の人たちは練習が好きだから

自分の練習の時間が減るのは許せないんだろう。それに、実力主義の氷帝だ。









少しの練習の差がレギュラーと平部員を区別する









「まぁ、日吉の目標は下克上だしねー。早く忍足先輩に下克上してよ」




俺はあんな人、下克上したくない








「あ、うん。それもそうだね」






少しだけげんなりした顔で言う日吉の言葉に納得しつつ、少しだけ笑った

しかし、よくよく考えれば忍足先輩は氷帝の中でもテニスは上手い。氷帝の天才は青学の天才にも引けをとらないぐらいだ

だから何だかんだ言いつつ本当は日吉も忍足先輩と戦いたいのではないのかと思う










「・・・なんだ部活がないと静かだよね」




「あぁ、先輩達とも会うことないからな」




「日吉」




「なんだ?」








顔をあげないまま、私は日吉の名前を呼んだ。

日吉の声の感じだと急に変わった私の様子に驚いているようにも聞こえる。









「本当は少しだけ部活がないと寂しいって感じている自分がいるんだ」





「・・・・」






「おかしいよね、あれだけ嫌々やっていた部活なのに」









顔を上げて、笑おうと思ったのに上手く笑えなかった。多分、今の私の顔は最高に不細工な事だろう

静かな教室の中で感じた気持ちは、テニス部のマネージャーになってしまったあの日にとっては考えられない感情だ










「・・・・あれだけ騒がしい人たちなんだ、そう思うのも仕方がない」





「日吉も、寂しいって思う?」







「それはない」






きっぱりと言い切った日吉の言葉に思わず笑みがこぼれる。いや、日吉の言葉と言うよりは日吉の顔にだ

さっきまで真面目な顔をしていたのに私が質問すれば一気に嫌そうな顔になっていた










「私もなんだかんだ言って、あの部活に毒されてるってことだね」




「毒されるって、お前テニス部を何だと思ってるんだ」




「変人の集まり?」







私が言えば日吉は納得したような顔をした。だけど気付けよ、その中にお前も入ってるんだぞ?(さすがに口に出しては言えないけど

今日の出来事や感想も書き終わった私は日誌を持って立ち上がる。










「じゃあ、日吉帰ろ」




「書き終わったのか?」




「うん、完璧」










私の言葉に日吉も私も鞄を持って教室をでる。まだまだ外は明るい。







しかし、廊下には誰一人いなくて二人の足音しか響く音しか聞こえてこない

外からはテニス部以外の部活の声が聞こえてくる。その中に女子の歓声は聞こえてこない










・・・なんだか、他の部活がうらやましいな。








そんな考えをなんとか振り払い、窓の外を見た。テニスコートを見れば数人、自主練をしているように見える

その中に、宍戸先輩と鳳が見つけ、ふと、思い出したように私は日吉に言った。










「日吉、今日は自主練するの?」




「いや、しない」







日吉が自主練をしないなんて珍しい事だ。まぁ、今さら行っても満足いく練習はできない事だと思うから

それは当たり前のことなのかも知れない。それを聞いた私はテニスコートから視線をはずし前を見る。










「そっか、じゃあ、この前古本屋見つけたんだけど一緒に行かない?」









私と日吉は本の趣味が似ていて学校の怪談やら恐い話の本を好んでよく読む。

だからこそ、日吉を誘ったのだけど日吉を見れば、少しだけ考えているように見えた。








「そうだな、行く」







日吉の言葉に私は頷き、日誌を先生に渡して私達は古本屋へとむかった

久しぶりに静かな時間を過ごせたことに、私は少なからず感動を覚えた












だけど、やっぱり部活をしている方が楽しいと思えたのは誰にも秘密だ















変わる日常
変わらない日常






























→月雫サマリクエストでほんのりほのぼの日常な感じを。と言う事で、日吉との日常を書いてみました。日吉しか出てません。えへへ(笑えない)とりあえず、こんなのですが苦情はこれまたいつもの様に拍手からどうぞ!!(土下座












こんな日常も良いなって思った方はココをクリックしてください(ワンドリランキング参加中)





(2007・08・25)