ある雨の日に、
平凡な日々
〜ある雨の日に〜
部室の外からは激しい雨が聞こえてきていた。しかし、そんな事さほど気にせず
まぁ、煩い先輩達の声がしないだけ十分かと思い私は部誌の続きを書いていっていた。
ふと、少しだけ視線をずらせば、跡部部長が難しそうな本を読んでいる。今、この部室には私と跡部部長と二人きりだ。
いつもなら部活が終わった後は、他のメンバーがくだらない話をしながら残っていたりもするのに、今日は急にふってきた雨が
強くならないうちにと言って、全員帰ってしまった。私はと言えば、部誌も書かないといけないし、折りたたみ傘もあるから
こうして残って書いているわけなんだけど、
「跡部部長は帰らないんですか?」
顔をあげ、跡部部長を見ながら言う。これと言ってすることがないなら帰れば良いのにと思う。
まぁ、別に帰る帰らないは跡部部長の自由だし、跡部部長の場合は車でお迎えが来ると思うから心配なんてない
「いつ帰ろうが俺の自由だろうが」
「そうですね」
跡部部長の言葉に少しだけ、いや、実際はカナリだけどイラつきをおぼえた私は再び部誌に視線をうつす
今日も一日、大変だったなぁ・・・ジロー先輩を捜しに行くわ、鳳の黒魔術に耐えるわ(あれ、急に背中が寒くなってきたかも)
ハァ、とため息を吐けばガサゴソと言う音がして、音のしたほうを見れば跡部部長が鞄の中をあさっていた。
そして何かを取り出したと思えば、私の前に差し出す
「・・・?何ですか、これ?」
「お前がこの間、疲れたときは甘いものだって言ってただろうが」
あぁ、そう言えばそんな事もあったような。あの時は確か、部活中に忍足先輩がくれたアメを食べていたことを跡部部長にばれてしまって
怒られた時についつい叫んじゃったんだよね。いや、だってこの部活すごく疲れがたまるんだよ?
部活中に飴くらい舐めたってバチはあたらないはずだと思うんです。
「それとこの箱が何か関係あるんですか?」
「だから、それがお前が言う甘いものだ」
「・・・食べていいんですか?」
「お前のために用意させたんだよ」
跡部部長が初めて良い人に見えました。
私はその言葉を聞き、目の前の綺麗に包装された箱をあける。
中からはおいしそうなチョコレートが、いくつも入っているが、明らかに高そうに見えるんだけど
本当にこんなもの貰っても良いのだろうかと思い、私は跡部部長を見る。
「あの、これ高そうなんですけど」
「気にしないで良い」
いや、さすがに気になりますよね。うん、ほら私、庶民じゃないですか
だからあまり高いもの貰ってもお返しできないと言うか、本当に出来るわけがないって言うか
私が本当に貰ってよいのか唸っていると、跡部部長が口をひらいた
「お前、俺様からって言ったら他の女だったら喜んで貰ってるぜ?」
「・・・(うぜ)」
確かに跡部部長から何か貰ったら他の女の子だったら喜ぶだろうな、と言う事が考えなくても分かる
じゃあ、これを私が貰ったって言う事がばれたら・・・考えるだけで恐ろしい。
「お言葉に甘えていただきます」
「あぁ」
中のチョコレートを一つだけ取り出し、口の中に放り込めば、チョコレート独特の甘さが口いっぱいに広がる
あぁ、やっぱり疲れたときには甘いものだと改めて感じる。跡部部長、感謝いたします、と心の中で跡部部長に感謝しつつ
再び跡部部長に視線を戻せば、跡部部長が微笑んでいた。跡部部長が笑うなんて、本当に珍しい
忍足先輩いわくのチャームポイントである眉間のしわは今はない
「お前、本当に美味しいそうに喰うんだな」
「だって、このチョコレート本当に美味しいんですからしょうがないじゃないですか」
「そうか。まぁ、俺様が用意したものだ。まずいわけがねぇ」
「はいはい、そうですね」
私は跡部部長の言葉を右から左へと流しつつ、もう一口チョコレートを口にいれた
それにしても、まさか跡部部長がこんなものくれるなんてなぁ・・・あぁ、だから今日雨なんだ
「跡部部長、ありがとうございます」
「・・・・部員の体調管理も部長の仕事だ」
こんな事は仕事にならないと思うんだけど、とは思いつつも口には出さなかった
実際、跡部部長は何だかんだ言いつつ部員のことを良く思っている。時たま、忍足先輩の扱い酷かったりするけど
跡部部長の場合は口が悪いからあまり分かりづらいけれど、レギュラーは全員知っている事だと思う。
だけど、どうやらマネージャーである私も部員に含まれているらしい。
少しだけ、本当に少しだけど私も跡部部長からこの部活の部員として認められていることに嬉しい気持ちになった。
「跡部部長は本当に部員思いなんですね」
「アーン?何言ってるんだ?」
「そのままの意味ですよ。私、跡部部長じゃないとこの氷帝テニス部は成り立っていなかったと思います」
「・・・ったく、当たり前だろ」
そう言いつつも跡部部長は少し照れたのか、顔を背けた
跡部部長が照れるなんてないんじゃないかと思う。この前だって女の子に告白されていたのに、少しも顔が赤くなってなかった
そんな珍しい跡部部長を見れるなんて、私はなかなか運が良いのかもしれない
「で、部誌は書いたのか?」
「あ、はい、どうぞ」
跡部部長に言われ、書き終わった部誌を跡部部長に手渡す。
私は鞄の中から折りたたみ傘を取り出し、帰る準備をしつつチョコレートの箱を鞄の中に直した
「では、チョコレート本当にありがとうございました」
立ち上がり、ドアの方へと向う。跡部部長も帰るのか、立ち上がり鞄を持つ
ドアを開ければ未だに雨が降り続いていて、真っ暗だった。別に暗いのなんて恐くはないのだけど
濡れるのはさけたいと思いつつ、折りたたみ傘をひろげる。いつの間にか隣に跡部部長が立っていた。
「跡部部長は車で帰るんですか?」
「あぁ、もう迎えが来てるからな」
「へぇ、それでは私は失礼しますね」
私は一歩、雨の中に足を踏み入れる。
「待て」
跡部部長の静止の声が聞こえてきたと思ったら腕を掴まれいた。何事かと思って、跡部部長を見あげる。
雨音が煩く耳に聞こえてくる中、跡部部長が口を開く。
「今日は特別に送っていってやる」
「ありがとうございます」
私は素直に跡部部長の言葉に頷いた。本当に今日の跡部部長は珍しい。
分かりにくい優しさが
→水城サマリクエストで甘です。もうね、私に甘いなんて無理だっていうことで、チョコレートで甘さ補充です。あ、すいません、自分でも言ってる意味がわからなくなりました(激汗)平凡ヒロインで甘いのは難しいかったです。どうしてもギャグに行ってしまう自分が嫌でいやでたまりません・・・!!水城サマのリクとはかけ離れていると思いますが許してやってください(土下座
(2007・08・18)