夜の闇に紛れて、私は死体が転がるその場を後にしようとした。ズキズキと痛む右腕を触れば、少しだけ触った左手に真っ赤な血が付いていた。どうしてだろう、自分の血のはずなのにとても汚く感じるのは。周りの死体から流れるどんな血よりも自分の血のほうが汚い。転がっている死体なんてほとんどが中年のおじさんで、血にはコレステロールがたっぷり入ってそうなのに、それでも自分の血のほうが汚く感じるのだ。どんなに逃れようと思っても、人を殺さなければならないこの血。だからこそ、私の血はどんな人の血よりも汚く感じてしまうんだろう。
「(帰って治療しよう)」
コツン、コツンと靴の音を鳴らしながら狭い路地を進む。右腕からはどんどん血が流れているが、家に帰るまではどうしようもできない。私はただ左手でこれ以上、右腕から流れる血を止めるしか出来ないのだ。ふと、神経を研ぎ澄ませると人の気配を感じた。この気配からいくと、僅かに殺気を感じるから私と同じように人を殺すのを仕事とする人のものらしい。しかし、今の私にとってそんな人、相手にする元気なんてほとんど残っていない。もしも、私がここにいる事がばれてしまったら私は殺されてしまうだろう。私が住んでいる世界は、見逃してもらえるほど甘いものではない。だからこそ、私はさっき人を一人残さず殺していたのだから。はぁ、と息を吐き、私は足に力を入れて走り出す。右腕から流れ出る血がポタリとアスファルトの地面に落ちるがそんな事は気にしていられない。私は、こんなところで死ねない。その思いだけが、今の私を突き動かす。
「・・・ッ!!」
しかし、私の顔の横を何か刃物のようなものが通り過ぎた。その瞬間に、またもや私の体からは汚い血が流れでる。思わず避けたおかげかそこまで傷は深くないらしい。私は闇に溶け込んだ、目の前にいるやつを睨みつける。いまだ、私の顔の横には剣が突き刺さっていて、少しでも動かせば、私の血はもっと流れ出る事になるだろう。
「・・・かぁ?」
「え?」
聞き覚えのある声に変わらない口調。とは言っても彼とはマフィアの学校を出てから、何年もあっていない。だけど夜の闇から、うっすらと顔があらわになった目の前の人は確かに、あの時よりずっと髪が伸びた彼だった。いつか、ヴァリアーに入ると言ってどこかに行ってしまった親友でもある彼。
「もしかして、スクアーロ?」
「あぁ。お前こんな所で何やってるんだぁ?」
「仕事の帰り」
私の言葉に、スクアーロはピクリと眉を歪ませた。スクアーロは気付いたんだろう。私が殺しを仕事としていることを。それに、驚いているだと思う。だって、学校にいた時は私はそこまで強くなかった。むしろ、学生の中では弱い方に位置していたんじゃないかなと思う。それでも、スクアーロとはサボり仲間としていつの間にか仲良くなっていて、一番の親友だと思えるぐらいの仲になっていた。まぁ、それもスクアーロが左手を失って、ヴァリアーに入るまでの事なんだけど。
「傷だらけじゃねぇか」
「頬の傷はスクアーロにつけられたんだけどね」
「悪ぃ」
「ううん、別に。スクアーロはまだヴァリアーにいるの?」
「もちろんだぜぇ」
会ったのは久しぶりなのに、普通に会話ができるのはそれまでに築き上げた関係のおかげだろうか。長いスクアーロの髪が夜の月のした、銀色にキラキラと光るのを見ると綺麗だと感じた。いつの間にか私の顔の横からは剣が消えている。友達として信頼されているんだろうか。それとも私には殺されるはずがないという自信のあらわれなのか。私としては前者であって欲しいと思うのだけど。
「そっか。じゃあ、頑張りなよ」
「う゛お゛ぉい、お前、今どこで働いているんだぁ?」
「それはファミリーの名前を言えってこと?」
私が言えば、スクアーロは少しだけ頷いた。あぁ、久しぶりの親友との楽しい時間もここで終焉らしい。再び、ズキズキと右腕が痛み出す。
「ねぇ、スクアーロ。私は本当は殺しなんてしたくないの」
「それのがお前らしいぞぉ。お前に殺しなんて似合わねぇ」
「だけど、私が生きていく為にはそれしかなかったの」
私だって本当は、殺しなんてしたくなかった。だけど、私がマフィアの学校をでてから、家族は何者かに殺された。マフィアのボスとしては優しすぎた父も、母も。新しくなったボスになった父の弟は私に殺しを強要し、私は従うしかなかった。もしかしたら、私の家族は父の弟に殺されたのかもしれないと思ったこともあった。だけど、私にはどうする事もできなかった。何人も人を殺していくうちに、人を殺す事に何も戸惑いがなくなってしまった。その時からだ。ボスと同じ血が流れている私の血も汚いものだと感じるようになったのは。
「私は次期にボンゴレの敵となるファミリーにいる」
この前、偶然、ボスの部屋の前を通った時に聞いてしまったのだ。次期にボンゴレを攻めるという事を。そして、そのメンバーの中に私がいることを。この時、真っ先にうかんだのはスクアーロの事だった。親友を殺すなんて私にはできない。それなら自分が死んでしまった方が良いとおもった。だけど、今私が死んでしまったら、この抗争を止める人がいなくなってしまう。だからこそ、私はボンゴレを攻めるときまで大人しく任務をこなしてきたのだ。未だ剣を抜こうとしない、スクアーロに私はファミリーの名前を言う。スクアーロは思っても無かったファミリーの名前に目を見開いて驚いたような顔をした。
「信用できないとしても、これには嘘がないから」
スクアーロは何だかんだ言って良い奴だから私の事を信じてくれると思う。私は言い終えると、踵を返した。もし、今ここでスクアーロに殺されても私は別にかまわない。どうせ、私はファミリーの裏切り者として、殺されてしまうのだから。いや、スクアーロに言った事がばれずに済んだとしても、私が言った事でスクアーロはボンゴレにこの事を伝えるだろう。そうすれば、ボンゴレが攻めてきたときに私は死ぬ事になる。死ぬのは恐いとは思うけど、最後に大切な人に会えた。それだけで私が思い残す事は何も無い。
「待てぇ。どこに行くつもりだぁ」
「どこってファミリーのもとへ」
「・・・殺されにかぁ?」
「そうなるかも、ね」
後ろから聞こえてくる声。少しだけ寂し気に聞こえてくる声に純粋に嬉しいと思う。私がいなくなって悲しいと思ってくれるのは、もしかしたらこの世でスクアーロだけかもしれない。ボスだって私が死んだとしても悲しんではくれないだろう。それに、友達なんていえる人、私にはほとんどいない。学校でも日本人なんて珍しくて、私はほとんど相手にされていなかった。だからこそ、サボり癖がついてしまった私はスクアーロと出会い、仲良くなる事ができたんだけど。スクアーロだけだ。私が日本人でも関係なく話してくれたのは。あの時の私にとって、その事は衝撃的だったけどすごく嬉しくて、一生、スクアーロという人を大切にしようと思った。
「」
「何?私をここで殺しておく?天下のヴァリアーが敵を見逃したとなったら問題だもんね」
少しだけ笑いを含んで言う。大切な君を守れた。私の役目はここで終わりなのかもしれない。
「お前、ボンゴレに来ないかぁ?」
「え・・?」
スクアーロの言葉に思わず、振り返る。そこには真剣な顔でこちらを見つめるスクアーロの顔があった。そうだ、こんな事、前にもあった。スクアーロがヴァリアー入隊が決まった時、私も誘われたのだ。正しくはヴァリアーでの事務処理のお誘いで、さすがにあの時は冗談だと思って断ったのだけど。それにあの時は、まさか私がこんな事になるなんて思ってもいなかったから。家族が死んで人を殺すようになった時、あの時頷いとけばよかったと何回も後悔した。
「もうお前が殺したくないなら人を殺さなくても良い」
「だけど、私は敵のファミリーだよ?」
「じじぃはそんな事気にしねぇよ。それに事前にボンゴレ奇襲の情報も分かったしな」
「だけど、」
「お前があそこにいたくねぇって言うなら、俺がさらってやる」
スクアーロの言葉に、涙が一筋こぼれる。私は、もう殺しをしなくても良いの?これ以上、この血を汚すような事をしなくても良いの?そんなこと一生無理だと思っていたのに。ズキズキと痛んでいたはずの右腕はいつの間にか、痛いと感じなくなっていた。
「どうするんだぁ?」
「・・・ありがとう、スクアーロ」
「当たり前だろぉ、俺はお前の親友だぜぇ?」
目の前で憎たらしく笑ったスクアーロの顔が学生時代、裏庭で一人私が友達が出来ないことをに泣いていた時「何してんだぁ?」そう言って声をかけてきてくれたスクアーロを思い出させた。
囚われの姫の奪還をここに誓う
→葉月双怱サマリクエストのスクアーロで関係は同業者であり顔見知りのシリアス方向のlikeで・・・・何これぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!もう、本当にごめんなさい(土下座)私この、企画始めてから謝って土下座しかしてないような気がします。だけど、書けないんですよね!!(涙)私、シリアスってかけないんです。だけど、これの続き書きたいとか思ってる自分がいるんです。ごめんなさい、ここで謝っておきますんで苦情はナシでお願いできませんかね?あ、無理?ですよねー。拍手より苦情、お待ちしております★(できることならおくらないでくれると嬉しいです
(2007・08・05)
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