「ねぇ、山本・・・なんでこんなことになってんの?」
「はは、なんでだろうな!」
私の言葉に山本からかえってきた言葉は笑い声混じりのとても答えとはいえないようなものだった。
それも今この状況決して笑えるようなものではなく、私は横目で隣を走る山本を睨みつける。しかし、山本は私に睨まれていることに気づいても気にした様子もなくへらへらとした笑みを浮かべていた。なんだろう、はっきりいってムカつくことこの上ない。
それでもこの状況で山本につめよることなんてできなず私は苦虫をかみつぶしたような表情で一つため息をついて、山本にやっていた視線を反対側へと向け、先ほどからずっと黙っている人物へと向けた。
この状況を作り出した人物といっても過言ではない奴。
「・・・なんだよ」
「獄寺帰ったら覚えとけよ」
「チッ」
いつもみたいに反論されることはないのは、獄寺なりに気にしているからなんだろうか。
少しだけばつが悪そうにしている表情を獄寺がしていることが珍しく、言いたいことは一杯あったはずなのに、それらが口からでることはなかった。というか、いえるわけがない。
確かに常日頃から獄寺とはいがみあっている気はするけど、人の失敗を責めるような趣味はないしそこまで性格も悪くはない。さきほどの言葉だってただ獄寺がこの状況を気にしているようだったからいつものように嫌みの一つでもいってやれば言い返してくるかと思ったから思わずでた一言だった(まぁ…ほんの少し、本当に少しだけ本音ではあるけど) 元気のない獄寺は見ているこっちが居心地が悪いし、正直なところ気持ちが悪く感じられて仕方がない。
実際獄寺に悪いところはなかった。
ただ、場所と時間が悪かった。
今日の任務は珍しく山本の獄寺の三人で、見かけとは裏腹に壊れやすかったビルは獄寺のダイナマイトに耐えきれずいつもより派手にビルを破壊した。本来なら外にまで響くはずではなかったのに、獄寺のダイナマイトの爆風は見事に壁を壊し外への大きな穴をあけた
。 その上、都合上昼間に任務をしたのが悪かった。
騒ぎを聞いた警察がいつもよりも早く現場へとかけつける。
そして、この状況を導きだしていた。
「なんて、こっちをまくのが先だけどね」
「だな!」
「あぁ」
三人同時に後ろを振り返る。イタリアの狭い路地にこれでもか、というほど集められたパトカーの目的はいうまでもなく私たち三人だ。マフィアになった以上考えたことがなかったわけじゃないけれど、ここまでたくさんの警察に追われるなんて夢にも思っていなかった(というか、そんな夢みたくもない。悪夢だ、悪夢)
あまりのパトカーの数にイタリア中のパトカーでも集めたんじゃないだろうか、なんて考えも頭によぎり、一気に血の気が引いた気がする。
いやいや、しかしさすがにこんな三人を相手にするのにイタリア中のパトカーはないだろう。
それにそこまでイタリア警察も暇じゃないに決まっている。でも、そんなことを考えてしまうくらいのパトカーの数には嫌気がさす。これが警察というか、民間人相手ではないんなら拳銃をとりだしていろいろ…そう、いろいろ打つ手はあるのだけど、さすがに民間人相手にはそうもいかない。
もちろん獄寺も山本にもそれはいえたことで私たちには逃げることしかできなかった。
「そこ、右に曲がって」
無線機をつけた耳元から聞こえてくるツナの声に従いイタリアの路地を走りぬけていく。それでも相手側が一枚上手なのか走っていったさきに回り道されていることもあり、なかなか相手をまくことができずにいる。
「三人とも大丈夫?」
「つ、疲れた」
「相手さんも結構しぶてぇみてぇだな」
「じゅ、十代目すみません!おれのせいで」
「ううん、こちらの調査不足だしね。みんな良くやってくれたよ」
十代めぇと叫びながら獄寺のまわりにはキラキラしたようなものが見えた気がした。
走りながら叫ぶのにはかなりの体力を必要とするだろうに獄寺はそんな気配も見せず「さすが十代目!」と声をあげている。
……お前その体力ちょっとは私によこせ。
獄寺や山本とは違い私はもうすでに息切れして、額からは汗が流れている。それにずっと走る速さだって最初に比べれば落ちているはずだろう。もちろん最初から山本や獄寺にとっては遅いくらいの速度だったに違いないのに、二人は私を同じ速度で走り続けてくれていた。
私にあわせて走ってくれていることなんて考えないでもわかっていたことだった。
しかし、私のせいで二人が捕まってしまうのも後味が悪すぎる。もっと早くこうすれば良かったかな、と今更思いついた考えに思わず苦笑がこみ上げていた。
「ツナ?」
「どうしたの、?」
「三人分散して逃げたほうが良いと思うから、その順路教えて」
私の言葉にツナは一瞬戸惑ったような声を漏らす。獄寺も山本も目を丸くしながらこちらを見ていて、私ははぁと深く息をこぼした。こいつら絶対私を一人にしたら逃げきれると思ってないに違いない。
もっと私を信用しなさい!…とは、思いつつも、さすがにこんな息切れしているような奴が逃げきれるとは普通は思えないとは思うので口は噤んだ。
そのかわりに「大丈夫」と力強く、吐き出す。
「捕まらないし、捕まるつもりもないから」
「…あったりめーだろ!」
獄寺の言葉にうなづけば、 からため息ような深く息を吐きだす音が聞こえる。どうやらツナも納得してくれたらしく、「は言いだしたら ないしね」という声も続いて聞こえてきた。
「ツナには負けるけどね」
「ま、二人とも頑固ってことだな!」
「それは山本にも言われたくないから」
警察から追われているとは思えないくらい穏やかな雰囲気に疲れていることなんて忘れて笑みがうかぶ、が、もちろん相手はまってくれるはずはない。
いつ先回りしたのか目の前の道の先にはパトカーが何台か見えて、笑みをうかべていた表情は一気にひきつった。
「じゃあ、こっちで誘導するから三人ともちゃんと聞いておいてね」
「了解」
まじめな声になったツナの声につられるかのように、一気に場の空気が引き締まる。先ほどまで笑みをうかべていたはずの山本も獄寺もうってかわって真面目な表情で前を見据えていた。
「山本は右、獄寺くんとは左に」
「そこを右に、曲がってすぐに左に行って」
「獄寺くんは左、はまっすぐ進んで」
本当に一人で誘導しているんだろうかと思えるくらいの的確なツナの誘導に従い、私は山本と獄寺と分かれて走りぬけていた。未だにパトカーには追いかけられているけれど分かれた直後に比べれば確実にその量は減っているように見える。 しかし、未だにホッとするのには早い。
ツナの言葉を聞き逃さないように集中しながら、走りぬけ、いつの間にか自分の後ろにはパトカーは一台も見えず警官の姿もなくなっていた。
(ツナすげぇぇぇ)
ツナからの休憩の一言に壁に背を預けて呼吸をととのえながら、改めてツナのすごさを実感する。
三人まとめて誘導なんて普通はとても難しいことなのに(私には絶対に無理だ)それでもこうして安全な道へと導くツナのすごさには感嘆せずにはいられない。さすがツナ…というべきなのか、それともリボーンの教育の賜というべきなのか。
たぶん、両方なんだろうとは思うけど。
「?獄寺くんと山本は無事帰ってきたよ」
「そっか、良かった」
「も、もう少しだから」
がんばろうね、という声が遠くに聞こえた。
「っ!」
「?!」
無線機が耳から離れていくのが視界に飛び込んくる。やばい、と思いすぐにそれに手を伸ばすも見事にそれは壊れ果て、すでに使いモノにならないものになっていた。
イタリア語で聞こえてくる言葉にすぐにそちらへと視線をやり、私はぎょっとする。
「け、けいさつ?!」
その姿を目に留めた瞬間に走り出していた。走りながら今起こったことを整理する。
ツナとはなして起きたときに急に襲ってきたもの、その気配に驚き首を動かせばそれは見事に無線機にぶち当たった。自分に当たらなかっただけ良かったとは思うもののそれでも、無線機がなくなったのは実に惜しい。
すでに帰り道なんてわからないし、どこにどうやって逃げれば良いのかもわからない。
再び警官に追われながら、思わず舌打ちを一つこぼした。警官が発砲したとおもわれる銃弾が自分に当たらなかったのは運が良いと思うけど、また追われることになったことには運が悪いとしか思えない。
私はいつ神様に嫌われるようなことをしたんだろう。
結構濃いメンバーに囲まれながらもつつみしやかな生活を送ってきたと思っていたのに。
むしろその濃いメンバーたちの暴走をとめてきた私をもっとほめ……違う違う、暴走をとめてきた私に何かあっても良いと思う。そろそろ限界のきそうな足にどうすれば良いのかわからずにただ必死に、がむしゃらに走りぬけ、なるべく狭い路地を選んで走っていた。
「、」
「あ」
ふわり、と包み込む幻覚特有の感覚に目をつぶれば、複数の足音が聞こえ、数台の車が通り過ぎていく音が聞こえた。 目をあければすでに私を追いかけてきた人たちはいない。いるのは、この状況を救ってくれた女神である(まったくもってこの言葉は間違ってないと思う)凪ちゃんがそこにはいた。
心配そうな表情で大丈夫?と首をかしげる凪ちゃんはそりゃもう可愛いといってよいのか、綺麗といってよいのかわからないくらいの美貌で、私は一瞬間抜けにも口をあけたまま呆然としていた。
「だ、大丈夫!」
しかし、すぐに正気をとりもどして首をたてへと動かす。 私のその仕草に凪ちゃんは笑みをつくり、「良かった」とつぶやいた。私…凪ちゃんと友達で良かったと思わずにはいられない瞬間だった。
「何、アホな面さらしてるの」
「って、雲雀さん?!どうしてこんなところに!」
「沢田から頼まれてね、その子と一緒に助けにきてあげたんだよ」
助けにきた、まったくもって雲雀さんには似合わないせりふである。それもそんなふてぶてしい態度で言われてもまったくありがたみもなく、私はひきつった表情をうかべた。
しかし、助けにきて貰ったのはまぎれもない事実で、実際凪ちゃんが助けてくれたんじゃん、と言いたいのは山々ではあるけれど、その言葉はのみこんだ。
「でも…間に合って良かった」
「凪ちゃん!本当にありがとう!」
「ううん」
ふんわり、そんな言葉が似合いそうな笑みで微笑まれて思わずニヤけてしまいそうな顔に力をいれる。こんなところでニヤけていたんではただの変質者だ変質者。もしくは骸さんになってしまう。
凪ちゃんにお礼をいって、雲雀さんには言わないのはどううかと思い眉をよせながらも雲雀さんに軽く頭をさげた。
「雲雀さんも一応、ありがとうございます」
「本当に分かりやすいよね」
「そんなことないと思いますけど」
はぁ、と雲雀さんにため息をつかれる。
雲雀さんにため息をつかれるのは本当にムカつくのだけど何もいえずに、視線をそらせば、後ろから延びてきた手が私の頭の上へとおかれた。
「あんまり心配かけないでよね」
雲雀さんの顔を振り返らずに返事をすれば、雲雀さんの手は離れた。なんだか、むずがゆい。 きっと雲雀さんの普段からは考えられないような穏やかな声のせいだろうと自分に言い聞かせて、もう一度二人にお礼を言おうとした瞬間に今まで緊張していた糸が切れたように腰をぬかしてしまっていた。
地面へと崩れ落ちるように腰をおろし、驚いたように私を見下ろす二人を見上げる。少しだけ恥ずかしく、それをごまかすように笑みを浮かべ、「力抜けちゃったみたいです」と言えば、雲雀さんからは「馬鹿だね」というなんとも痛い一言をいただいた。
雲雀さんに優しさを求めることは間違っているとは思うが、それでもひどいと思う。
「大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫」
凪ちゃんが私と視線を合わせて、私へと手を差し出してくれる。
それでも今まで限界まで走った足は立ち上がる力なんて残っていなさそうに見えて、差し出された手をなかなかつかむことができなず、どうしようかと、思案する。
しかし、そんな私へと急に現れた人物は構うことなく凪ちゃんの隣から手を伸ばしてきた。
「立ち上がれないなら僕が抱き抱えま、クハッ?!」
急に現れた人物。凪ちゃんの横から手を伸ばしてきた人物に私は何も聞こえなかったし見えなかったと言い聞かせながら、動く右手を振りおろした。
鈍い声があがり、さらに雲雀さんがトンファーを振りおろす。 ガンガンと無表情でトンファーを振り下ろす姿は何とも、シュールな絵なのだが、言葉がでない。っていうか、それ普通の人なら死んでます。
しかし、非常に残念…なんてことはないけれど、どうやらトンファーは受け止めたらしく、骸さんが雲雀さんと対峙している。何か言い合っているようではあるけれど、聞く気はなく凪ちゃんの方へと視線をやり見ざる、聞きざる状態をつくる。
「骸様…」
何ともいえない視線を凪ちゃんが骸さんへと送る。なんだか、骸さんを慕う凪ちゃんが可哀想になった瞬間だった。
だけど、未だに力の入らない状態でここから離れることができない私は、はは、と乾いた笑みで骸さんと雲雀さんのやり取りを呆れながら見ることしかできなかった。
鼠と猫の攻防戦
時として猫よりも厄介な仲間の鼠
(…ツナ、車一台迎えによろしく)
(もうすでに向かわせてるよ、)
(……そっか)
(2009・12・24)
みいさまリクエスト!全然ギャグじゃない上に自分の趣味に走った作品です申し訳ない限りです……!そして大変お待たせしてすみませんでしたぁぁぁぁ(ローリング土下座
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