プリーズ・みるくてぃー!










昼休みを告げるチャイムが鳴り響くと生徒は急いで片づけを始め、食事の準備に取り掛かる。

もちろん私もこの時間を今まで楽しみにしていたものだから急いで鞄の中から弁当を取り出した。

それと同時に前に座っていた仁王が振り返る。





そして、私は弁当と一緒に取り出した財布を仁王のほうへと突き出した。







「どうせ購買にパン買ってくるんでしょ?私、ミルクティーで」



「……本当に、は人使いが荒いのぉ。こんな美少年をパシリにつかう女早々おらんぜよ」






「なんか、美少年ってところが否定できないのが悔しいんだけど」






「ククッ、そうじゃ
でも、あんまり調子に乗ると怒るよ?







そう言って、眉を寄せて仁王を見れば「あー、怖っ」と言って立ち上がりのそのそと歩き出した。

確かに仁王は美少年と言われてて、そんな男をパシりにしているなんて、と自分でも思うことはある。




でも……どうせ、購買に行くんだったらついでにジュースも買ってきて欲しいと思うのが私(つまり、私は面倒くさがりなんだよ)

まぁ、でも、これも仲が良くなかったら頼めたりしないんだろう。
あと、私みたいに図太い女じゃないと。






この前なんてクラスでも可愛いと噂の西島さんが友達に「私……仁王くんの前だと恥ずかしくなっちゃって話せなくなるの」なんて

凄くかわいらしいことを言っていたのを聞いた。


そしたら、西島さんの友達は「くらい図太くなりなよ」と言っていた。







その時は私のどこが図太いんだ、と思っていたりしたけれど、よくよく考えれば私って確かに図太いかもしれない。







「(あの、仁王をパシってるんだもんね……)」





だけど、そんな私でも気持ちは西島さんと一緒。


たまに自分でも本当に仁王のこと好きなのかよ、と思いたくなるけど、今のこの関係が心地良くて、

この関係を崩すぐらいなら、と思ってしまい仁王への態度は自分でも可愛くないと思っていてもかえることもできない。







本当は怖い……だなんていえる?


いつも振り返ってくれる仁王がいつか振り返ってくれないくなると思うと胸が締め付けられるなんて。









〜、さっさと飯くおうぜ」



「……私も大概図太いとは思うけど、ブン太も凄い図太いよね」



「はっ?!俺のどこが図太いっていうんだよ!」






すべてだよ、と言う言葉を飲み込んで、なんとなくだよ、と言う言葉を返せばブン太は納得のいかない顔でこちらを見た。

(そりゃ、いきなり図太いだなんて言われたら誰だって良い気はしないよね)

しかし、ブン太は私の隣の席に着くと、もう笑みを浮かべながら、いただきます、と言って自分の食事に手をかけた。







そういうところが図太いんだよ。普通、仁王を待ったりしないわけ?

……いや、だけどブン太だからな。もしかしたら友達よりお昼ご飯の方が優先順位が高いのかもしれない。







「それで、今日も仁王は購買?」



「あ、うん。そうみたいだね」


「ふ〜ん。今日も仁王パシったのかよ?」




「あたり前じゃん。今日はミルクティーを頼んだんだ。最近、ミルクティーにはまちゃって!」





弁当を食べながら聞いてくるブン太。

私は食べだしたら食べることにだけに集中してしまうからこいつのこういう所は凄いと思う。もちろん、食べる量も凄いと思うけど。






「だけど、仁王が素直にパシられるなんて珍しい……お前、いつかぜってぇ、仕返しされるんじゃね?




「ちょっ、やめてよ。そんなのしゃれにならないじゃん……!







詐欺師仁王と言われる仁王に、仕返しされるなんて絶対にえげつないことに決まっている。

少しだけ頭に浮かんだ仁王からの仕返しに私は必死に頭を横に振った。





怖い…!怖すぎる!


ブン太もそんな私の気持ちに気づいたのか「悪ぃ」と謝ってきた。








「あっ」







教室のドアの前に見えた仁王に私は声をあげる。

その手にはしっかりと私のミルクティーが握られていてそれだけで嬉しくなった。

早く仁王がここに戻ってこないかと期待に胸寄せていれば、仁王に近づいていく女の子達。





それはいつものことなのに、その中に西島さんがいる、と言うだけで私の胸はいつも異常に締め付けられる






ただでさえ、あの光景には慣れないというのに……







やはり、西島さんはこの前聞いたとおり仁王の前では俯いてて、とても話しかけている様子には見えなかった。

あぁ、可愛い、と女の私でさえ思うのだから仁王もきっと可愛いと思っているんだろう。


いや、でもその割には仁王の表情は冷め切っているように見えないこともないけど。




聞こえてくる声。耳をふさぎたい気持ちをおさえ、私はその声に耳を澄ませた。







「仁王く〜ん!」


「なんじゃ?」



「今日もパンなの?それじゃあ、体に悪いよー。あ、そう言えばこの子凄く料理が上手いんだよ!!」






そう言って女の子が西島さんのほうをちらりと見た。
なるほど、あの子は西島さん支援部隊なのか。


確かにあそこまで恥ずかしがり屋さん(あ、ちょっと自分で言っててキモイ)だと

友達の手伝い無しじゃ仁王に話しかけられないのかもしれない







はは、やっぱり図太い私とは大違いだね。自嘲地味に漏れる笑い。それととめる術を私は知らない。






「あいつら馬鹿だな。仁王がどうして毎日購買に行ってるのかしらねぇからあんなこと言ってるんだろぃ」




「購買に行く理由?」







私の質問にブン太はなにも言わなかった。

教室のドアの前では未だ女子が仁王を離そうとはしない。


いつまで経ってもここに来れそうにない仁王におなかの減った私は弁当に手を伸ばした。





つくづく図太いな、と思いもう一度視線を仁王のほうにやる。








「ねぇ、仁王くんもそのミルクティー好きなの?この子も最近そのミルクティー大好きなんだよ!」







だからどうした。と思わず言いたくなるような言葉。

でも、その声からは凄く必死なんだろうということが良く分かった。

西島さんと仁王をなんとかくっつけたいがための苦し紛れの一言。






でも、ごめん。あれ、私のなんだよね。





なんだか乙女の夢を壊してしまったようで申し訳なさ過ぎるんですけど……なんか、本当ごめん、ね?

実はあれ私のミルクティーなんだ☆なんて言ったら絶対にあの子達から睨まれるに違いない、よね。







「なんだか、心が痛いや」



……」



あのミルクティー本当は私のなのに……!








「そっちかよ!」







普通、仁王が女に囲まれてる方に心が痛むだろぃ!

と言うブン太は私が仁王に思いをはせていることを知っている。


いや、でも好きな男が好きだと思っていたものが、他の女の好きなものだったなんて何とも切ない話。






……西島さん、ごめん。私なんかがミルクティー好きで。







「仁王が他の女の子に囲まれてるのなんていつものことだし。それに、ほら仁王って美少年らしいからしょうがなくない?」



「仁王が美少年ってキャラかよ」



「いや、そんなキャラじゃないけど、でも事実だから言い返すこともできないじゃん?」





「ほら、買ってきたぜよ」


「ギャッ…!」










いきなり仁王の声が聞こえてきたかと思えばほっぺに冷たい感触。

あまりのいきなりの刺激に女の子らしくない声をあげれば、いつものように仁王がククッと笑っていた。

こんなとき西島さんだったら、と言う考えが一瞬頭によぎってしまうのは、こちらを見ている西島さんと目が合ってしまっただろうからか。





しかし、さすが詐欺師。

全然こちらに近づいてくることにさえ気づかなかった。








「その声、女とはとても思えないのぉ」



「あぁ、褒め言葉どうもありがとう。自称美少年くん」



「……折角俺が買ってきたんに、その態度。雅治悲しいぜよ」







ブン太、美少年くんついに頭がヤバイみたいです!



それはまことか?!おい、美少年くん大丈夫か?!









まるでコントみたいな私とブン太のやりとり。本当、ブン太のりが良すぎでしょ。

それはまことかって、そんなの使うの真田くんしかいないんじゃないの?

私とブン太がケラケラと笑っていれば、こちらを見て仁王がゆっくりと微笑んだ。




あ、やばっ、やりすぎた…








「どうやら二人とも地獄を見たい「「すいませんでしたっ!!」」








声をそろえて謝る私とブン太。



だって、私地獄なんて絶対に見たくない……!

それも仁王から見せられる地獄なんて過酷なんて一言じゃきっと収まりきらないだろう

ブン太もそのことが分かっているのか(それとも既に経験したことがあるのか)私と同じように必死になって謝っていた。





仁王はそのことで納得してくれたのか私の前の席にへと座ってくれた。







「それにしても、仁王人気は未だ収まるところも知らないね。さっすが、美少年く……
ごめん、冗談。冗談だからその笑顔はやめて



「おいおい、。俺だって人気があるんだぜ?」




「「・・・・・・」」





「二人してそんな冷たい視線を俺にやることはないだろぃ!!」






「人気があっても面倒くさいだけじゃろ」






そう言って僅かに仁王の視線が西島さん達のほうへと向く。

もしも、私と西島さんが同じ気持ちだと知ったら、仁王も私のことを面倒くさいと、ただ一言で言い捨ててしまうんだろうか。







「……さすが美少年くん、言うことが違う、ね!」



「お前はまだそのネタを引っ張るのかよ」



、いい加減にせんと、もうパシられてやらんぜよ?」







「はい、ごめんなさい」







とっさに言えば、素直でよろしい、と僅かに仁王が笑った。

あぁ、かっこ良いな。自分で自分のことを美少年というだけのことはある。

僅かに赤くなりそうな頬を気づかれないようにと思いながら、私は仁王の買ってきてくれたミルクティーに手をつけた。

未だ、西島さんたちがこちらを見ているかは分からないけれど、私がこのミルクティーを飲んだことで落胆させてしまったとは思う。




……いや、本当、私のミルクティーでごめん。















***














チャイムがなり5時間目が始まったと同時に眠気が私を襲った。

お腹は一杯。窓から零れてくる暖かい光。そして、先生の子守歌。






「(これじゃあ、誰だって眠たくなるよ……)」







遠く、とは言ってもそこまで遠い距離じゃないところに座っているブン太も眠いのかコクリと僅かに頭が動いているのが分かる。

もしかしたら今の私もあまりブン太と大差ないかもしれない。





眠気には勝てずに、黒板に書かれた字をうつしていた手はいつの間にかとまっていた。







?」


「……仁王?」





いつもなら昼休みにしか振り返ることをしない仁王が珍しくこちらを振り返る。

さすがに授業中にそこまで振り返ることなんてできないから、視線をこちらにむける程度のものだけど。





だけど、それだけのことが嬉しくて、私の頬は緩む。






「食べたあとすぐ寝たら太る
「うるさい、仁王。とりあえず、消えろ




「酷いいわれようじゃのぉ。お前さんはもう少し女らしくした方が良いぜよ」






女らしく、と言う言葉でとっさに浮かんだのは西島さんの顔だった。

仁王も私に女の子らしくなってほしいんだろうか。でも、これだけは譲れない。私に女の子らしくなんて絶対に、無理。

そりゃ好きな人のために変わりたい、と思うけど、でも自分は自分。




好きになってもらうなら、このままの自分を好きになってもらいたい。








それに、私が女の子らしくなんて考えるだけで鳥肌がたった。







「……ごめん、仁王。私が女らしくしても気持ち悪いと思う





「あぁ、それは分かってるぜよ」








「あはは、仁王、すっごいうざいなー!」







あまりに素直な仁王の言葉に私はこめかみをピクピクさせながら精一杯の笑顔で答えた。

女らしくしておけ、と言いつつ、女らしくしたら気持ち悪いと言う。

じゃあ、どうすればよいんだよ!と思いそう言おうとすればそれよりも先に、仁王が前を向きなおし、








はそのままが一番じゃ」






と耳を澄まさなければ聞こえない声で、言った。

え、と授業中にも関わらず私の耳からは仁王の声以外のすべての声が消える。






「俺をパシりに使うぐらいのお前さんのほうが、お前さんらしいからのぉ」







もう一度、視線をこちらに戻して紡がれた言葉に私はどう反応してよいか分からず、下を向いた。

仁王はそんな私の反応が面白かったのか「今のはなかなか女の子らしいぜよ」と、冗談交じりで言った。

その言葉に私は「うるさい!」と後ろから仁王の頭を少し力をいれて叩いた。















その数日後。ブン太から、仁王が購買にパンを買いに行く理由を聞いた。

仁王はもちろん人気がある。だからこそ、女の子達が弁当を作ってきてくれることもあると言うのに、仁王はそれをすべて断っているらしい。

それは……購買に行く時に、私からのお願いが聞きたいから、と言う理由はその会話をどこで聞いていたのか知らないけど、



突然現れた仁王から聞いたのだけど。






「仁王、購買に行くんでしょ?!私も一緒に行く!」





いつの間にか、私は4時間目が終りこちらを振り返る仁王にそんな言葉をかけるようになっていた。












(2008・05・06)


相互サイトさまの華乃未来さまリクエストでございます。仁王で友達……はぁい、お待たせした上こんなのですみませぇぇぇん(土下座

それもギャグがギャグになりきれてないと言う悲しい現実。いや、本当すみません。

何回謝っても謝りきれないと思いますが許してやってください。では、本当に遅くなって申し訳ございませんでした!

リクエスト、ありがとうございまっしたぁぁあ!!これからもこんなサイトですがよろしくお願いしまぁぁす!!