僕には、という恋人がいる。自分で言うのもなんだけど、僕に彼女なんてとても可笑しな話だと思う(自分自身でそう感じているんだから、周りの人間はもっとそう思っているに違いないんだろう)だけど、僕は彼女を好きだから一緒にいたいと思っている。それは、彼女も一緒。だけど、恋人なんて言葉に一生も確証もない。恋人だから一生一緒にいれるわけでもない、恋人だから別れないという確証もない、それは僕にとってはどうしようもない不安となって、僕に襲い掛かってくる。そう、特に彼女が他の男と仲が良さそうに話しているときなんて、一層その不安は僕を襲う。今目の前で、彼女は僕がそんな不安に押しつぶされそうなんてこと知りもしないで、同じように目の前の男、山本武と楽しそうに話している。なんで、そんな男と話すのさ。なんて、言えなくて僕はただその光景を睨むように見るしかできなかった。お願いだから、こっちを見て僕に気付いて、そしてそんな男と話すのをやめて僕のほうへと走りよって来て欲しいと願うも、彼女が僕に気付いて彼より僕を選ぶかなんて事はわからない。






先輩」



「何、武くん?」







俺の目の前にいるのは、あのヒバリの彼女。だけど、彼女は弱くて、優しくて、とてもヒバリを連想させるものなんて何一つ無い。それでも、彼女はヒバリの彼女で、それはそれはとても幸せそうな顔で俺にヒバリの話をする。実際、好きな女に恋人がいることは悲しいと思うけれど、恋人なんてもの永遠じゃない。そう思いながら、俺はこの目の前の彼女と笑顔で会話をする。あぁ、先輩は俺がこんな事想っているなんて知る由もないんだろう。知ったら、俺から離れていってしまうのだろうか。知ったら、ヒバリより俺を選んでくれるんだろうか。いや、ヒバリより俺を選ぶなんてことはきっとない。彼女はヒバリの話をしている時が一番、生き生きしていて、とても美しいから。それが、とても憎いとおもう。だから、まだこちらを睨むように見つめているヒバリには気付いてやらない。彼女にも、ヒバリがいることを教えてやらない。






「雲雀くん」






が、僕に気付いて、山本武から離れて僕のほうに走り寄って来た。君は、あの男、山本武は名前で呼ぶのに、僕のことは名字で呼ぶんだね。その事が更に、僕の不安を増大させる。あぁ、それに山本武嫌な男だ。その事に気付いているのかはしらないけれど、僕のほうを自信満々と言った様子で見てくる。とても、とても悔しい。でも、は山本武ではなく、僕のほうへと走り寄って来た。これは山本武より、僕を選んだ、と言う事であるに違いは無いのだ。僕は半ば自分に言い聞かせるように、言う。そして、彼女の笑顔を見れば、不安はすぐさま消え去った(だけど、この不安は君が離れてしまえばまたすぐに僕を
汚染する)














先輩がヒバリへと駆け寄れば、ヒバリはあいつから出たとは思えない優しい声で彼女の声をつむいだ。やっぱり、彼女はヒバリを選んだのか、と俺は少しだけムッとした気分になったけど、彼女は俺のことは名前で呼ぶのに、ヒバリのことは名字で呼ぶ。どうやら、まだそれは変わりないらしい。その事が嬉しくなって、ヒバリに笑顔を向けた。なんて、虚しい笑顔なんだろう。こんな事で勝った気になって。結局、俺はヒバリから彼女を奪う事はできないのに。走りよっていく彼女の後ろ姿に、俺に振り向いて、と思わず呟きそうになったが、何とかそれは心の中で留めた(彼女が離れていくことをこんなにつらいと想うなんて)










私には、とても大好きな人がいる。その人は、雲雀くん。他の人の名前はかんたんに呼べるのに、彼の名前だけは、恥ずかしくて呼べない。だけど、一番、一番好きな人。優しくて、暖かくて、私を大切にしてくれる恋人。一生一緒にいたいと思える。だけど、一生一緒にいれる確証なんて一つもない。一生も確証もないような、関係。でも、そんな恋人と言う関係であっても、私と雲雀くんが二人で望めば、一生一緒にいれる確証ができる。簡単なようで、難しいことかもしれないけど、雲雀くんがその事を望まなくなったとしても私はいつまでもその事を望むに違いない。私はいつも、雲雀くんで一杯なのだから。他の人と話していても、雲雀くんを想う。目の前で武くんと話していても、私の思考はいつも雲雀くんにつながる。それが、話している武くんに失礼なことをしていることは十分に分かっている。でも、私は雲雀くんが好きだから、いつでも雲雀くんのことを考えてしまう。






「君にはを渡さない」






まるで自分に言い聞かせるように僕は、山本武に、言う。彼は一瞬驚いた顔をして、笑った。さっきのような自信満々と言った笑顔ではなくて、苦笑といった表現が一番ぴったりくる笑顔。何故、そんな顔で笑うだろう、と思った。は意味が分からないといった様子で僕を見てくる。そんな彼女が愛おしくて、僕は一生君と一緒にいたいと思った。君が、僕と一緒にいたいと願ってくれるなら僕はいつまでも君といる。だから、お願い。僕ではなく、山本武の方に行ってしまうことはしないで。山本武に渡さないなんて言っておきながら、僕は何もできない。ただ、が僕から離れてしまわないようにと、願う事しかできない。










ヒバリが言った言葉は、俺を戸惑わせた。あぁ、コイツも不安なんだ。俺に、先輩がとられないか、彼女が一生自分といてくれるか、とても大きな不安で踏み潰されそうなんだと、俺は感じた。はは、と思わずこみ上げる笑い。それは、あのヒバリも不安になるんだと言う、自然的な笑いだった。あいつも俺と同じように、つらいの、か。何だか、そう思うと可笑しくなった。こいつになら、彼女を任せても良いと思えた。いや、こいつにしか彼女は幸せにできないのかもしれないとまで思えた。ヒバリの前で幸せそうに微笑む彼女に、俺はずっとそんな風に笑っていて欲しいと思った。先輩、ヒバリなら貴女を幸せにしてくれますよ、と心の中で呟く。




「あぁ、俺にとられないように頑張りな」




なんて、言いつつ俺はもう先輩を諦めている。だから、他の男に取られないように。俺はお前だから、先輩を任せたんだと。心の中で言った事だから、ヒバリに聞こえるわけが無いけれど。まぁ、本人に直接諦めたといわないのは、最後の俺のあがき。ただ黙って先輩が他の男のものになるなんてやっぱり、ムカつくから、このぐらいのことしてやったって構わないだろう。ヒバリは俺の一番大切な人を、手に入れたのだから。












山本武の言葉に、僕は少しムッとした。誰が、お前なんかにを渡すものかと。の手を握り、応接室へと連れて行く。「雲雀くん?」と僕の名前を呼ぶ声は、確かに愛おしいと感じる。だけど、やっぱりこれが永遠に続くなんて確証はどこにもない。でも、この声が一生、僕の名前を呼んでくれるよう、この子が一生僕のとなりにいてくれるよう、僕は願うだけは無く、を大切にする。そして、が幸せだと感じれるように、努力しよう。誰にも渡さない、なんて僕の身勝手でしかないけど、それは僕の本心だから。山本武にも、渡さない。もちろん、他の誰にも渡さない。そんな、決意は僕の中で大きくなって、いつの間にか、不安を押しつぶしていた。そもそも不安なんて、僕に似合わないものだったんだ。





それぞれの、決意





それに続くはそれぞれの幸せ、か


















→夏月零サマリクエストの、雲雀さん落ちのVSで恋人、ヒロインはのほほん設定。あれ、この小説何・・・・?リクエストにも応えてないくせにあまりに更新が遅すぎる。(本当にな)本当すみませんでしたぁぁぁぁ!!VSって初めて書いたので、ダメダメな感じですが、頑張りましたので見捨てやらないで下さい(土下座






(2007・12・03)