いつもいつも君が話すのは自分のクラスメイトのことばかり。そんなにクラスメイトのことが好きならクラスメイトのところに行けばよいだろう。だけど、僕にはこんなこと言えない。君を離したくない。他の男のとなりで笑っている顔なんて見たくない。
そう思う気持ちあるにも関わらず僕はそれを言葉にはしない。
あぁ、それとも遠まわしに僕と別れてほしいと言ってるの?もしも、そうだとしても僕は君と分かれる気なんてない。相手を咬み殺してでも。
好きだ、と伝えたのは確かに君からだったはず。なのに、彼女がいつも話すのは沢田綱吉のことばかり。嬉しそうに話す姿がかわいらしいと思う反面話している内容が内容で、素直に彼女との会話を楽しむことが出来ない。いや、まずそれを会話と言って良いのかも怪しい。僕はいつも彼女の言葉に短い言葉を返すだけで後は頷いたりするだけ。これを会話と言って良いのだろうか。だけど、それでも彼女が楽しそうに笑っているから会話として成り立ってはいるんだろう。僕が楽しくないとしても彼女が楽しんでくれているなら、今は他の男の話題の会話でも良い。
僕はそう思っていた。
だから、他の男の話題だったとしても僕は何も言わずただ彼女の言葉に短い言葉を返し、頷いて、彼女と会話をしていた。それがただの僕の勘違いだったと気づくまでは。僕と君の間で本当は会話なんて成り立っていなかった事に気づく、今の今まで。
視線の先にうつる彼女は僕と話す時よりも僅かに声のトーンが高く、いつもより笑い声が響く。相手は誰だ、なんて確認するまでもない。相手は、いつも彼女が会話に出してくるクラスメイトの沢田綱吉。僕が歩み寄っていくことにも気づかずに彼女はそれはそれは楽しそうに微笑んでいた。その表情は僕と一緒にいるときよりも楽しそうに見える。そして僕は気づいた。これが、本物の会話と言われるものなんだろう。両方が言葉を弾ませ、楽しそうに笑いあっている。じゃあ、今まで僕とがしていたのは一体なんだったんだろうか。会話じゃない、会話。そんなものあるはずがない。
少し近づく僕には未だ気づきもせずに沢田綱吉と楽しそうに会話をしている。いつも沢田綱吉の話をしていたのは、いつも沢田綱吉と話していたからなの?
折角、今まで理性で押さえつけていたのに。
君は馬鹿、だ。そんなことにも気づきもせず他の男の前で笑うのだから。
いつも楽しそうに沢田綱吉のことを話していることに僕が何も思わなかったと思っているのかい?口にだしたことはないけれど、僕は君が思っている以上に独占欲の強い人間で君が他の誰かと一緒にいるのも、他の誰かの名前をその小さな唇で紡ぐのも本当は嫌で嫌でたまらなかったんだよ。
楽しそうに会話する二人の姿。それをほおっておけるほど僕の心は穏やかではなかった。近寄り沢田綱吉が僕のほうに気づく。一気に見開かれた瞳はまさに草食動物そのものだった。
「ひ、雲雀さん?!」
いつもより僅かに震えた声に青ざめた表情。沢田綱吉がこんな表情になるのは仕方がない。僕の怒りはいつもとは比べ物にならないくらい尋常じゃなくて、自分自身でもそれを分かっている。だから自分が今どんな顔をしているかなんて分かりきったことだ。僕はそれを一瞥した後、のほうへと視線をうつす。こちらに気づいたは僕がここにいることに驚きの表情を浮かべて、瞳を伏せた。何故彼女がこんな表情をするのか僕には分からない。もしかしたら、僕のこの怒りに気づいたんだろうか。だとしたら、気づくのが遅すぎるよ。君は、応接室で僕と会話らしきものをしているときに気づくべきだった。沢田綱吉の名前を出すたびに、静かな怒りを募らせた僕に。
だけど、やっぱり納得がいかない。沢田綱吉と話しているときは楽しそうに笑っていたのに、どうしてそんな表情を僕に向けるんだと自分が今どんな表情をしているのか分かっているにも関わらず思ってしまう。先ほど、沢田綱吉に向けていた笑顔を僕に向けろ。でも、そんな事に言えるわけもなく僕は唇をかみ締めた。僕が見たいのはそんな顔じゃないのに。素直に口に出せない言葉が何回も心の中で繰り返される。こんなのただの嫉妬、だ。醜い嫉妬。それでも僕の我慢は限界だった。
彼女の手を掴む。さらに驚いた表情を浮かべ僕の顔を見上げる。だけど僕は何も言わない。ただ、その表情を見下ろすだけ。
「?!」
沢田綱吉が彼女の名前を口にする。それすらも許せない、と思ってしまっている僕は大分追い詰められているんだろうか。彼女の腕を掴んだまま、僕は歩き出す。彼女を掴む手には力が自分でも気づかないうちに力がこめれていたのか彼女が「痛っ」と、悲痛な叫び声を上げる。それでも僕はこの手を緩めることが出来ない。ごめん、と心の中で思ったとしても口には出せない。素直になんて、僕はなれない。
どうやったら素直になれる?どうやったら、君は笑ってくれる?
「、僕は君が」
|