ねぇ、恭ちゃんとせわしく僕の名前を呼んでくる彼女の声で僕は振り返った。







廊下の窓からこぼれる光はもう昼間のような明るさはなく、少しだけ赤色が混じった色で廊下を照らしている。その照らされた廊下に佇むに僕は、何、と一言だけ返した。たったそれだけなのに嬉しそうに微笑で赤らんでいく彼女の顔に思わず可愛い、と感じてしまう自分がいて納得がいかなかった。ただの年下の女の子に僕は何を思っているんだ。それも、小さい頃から僕の後をついてくることしか知らないような彼女に、僕は何を。
僕は軽く頭を振って、自分が今考えていることはただの勘違いだ、と言い聞かせて再びのほうをまっすぐ向いた。またが可愛く見える。これはきっと夕日のせいだ。赤く染まる光をあびているから、そんな風に見えてしまうんだ。再び自分に言い聞かせる。僕は何でこんなにもが可愛いと認めたくないんだろうか。が僕より年下の女の子だから?が幼稚園の時、迷子になって警察に世話になっていることを知っているから?





だけど、どんなに僕が彼女が可愛いと言うことを認めたくないとしても、彼女が可愛くなったのはまぎれもない事実だ。他の男達がほっておかないほどに、可愛くなったのは。












「恭ちゃん、今日もお仕事お疲れ様」












そう言って、とても嬉しそうに笑う。仕事が終わったのは君じゃなくて僕だろ。なら、なんで僕よりも君のほうが嬉しそうに笑うんだ(笑うのなら僕のことではなく自分のことで笑えば良い。僕の仕事が終わっても君には何ら関係がないのだから)

それに僕も僕だ。不覚にも顔に熱が集まるのが分かる。なんで、から言われたたかが一言で凄く嬉しいとか感じているんだ。まるで、心臓がはねるかのように、ドクン、となったような気がした。これは、そう、勘違い。僕は何度も自分に言い聞かせる。こんなの僕じゃない。今までにだってこんな事言われたのに、こんな言葉もう僕の中では特別な言葉ではないのに、何故今日の僕はこんなたかが一言に振り回され、そして、どうして目の前で微笑むに振り回されてしまっているんだろう。こんな事初めてだ。僕がに振り回されることは初めてではない。目の前のに抱く感情が僕にとって初めてのものだったのだ。それは、彼女相手だけではなく生きている人間に対して初めて抱く、感情。









だけど、そんな理由なんてもう本当は分かりきっている。








僕が、僕が、彼女を好きだと自覚してしまったから。他の男と話しているを見ていると、僕のほうを向いてほしくなる。他の男の話を僕にしないで欲しい。僕だけを見て欲しい、と、今までには感じたことのない感情。気付いた自分の気持ちは、どうやら僕が思っていた以上に大きいものだった。

当たり前と言ったら当たり前なのかもしれない。とは長い付き合いなのだ。その間、は僕の傍にいて、僕もそれを苦痛だと感じずにむしろが傍にいないことのほうが可笑しいものだと感じるようになってしまっているのだから。そんな長い間に築きあげた気持ちはそんな小さいもののわけなかったんだ。









「恭ちゃん、大好きだよ」








この一言だっていつも言われていることなのに、僕はこの一言にとてもを抱きしめてしまいたい、と思った。本当に昨日までの僕はどこにいってしまったんだ。昨日までの僕だったら、きっとこの一言を言われても、いつものようにそっけなくただ「ふーん」と返すことができたのに。でも、今日の僕は多分こんな風に返すことは無理だろう。だって、気付いた時には僕はを抱きしめていて、顔を真っ赤にして恭ちゃん?と焦ったように声をあげるの耳元で、好きだ、と囁いていてしまっているのだから。












いつもと違う今日




















(2008・02・25)




中島さまに捧げます!あぁぁぁ、美味しいリク頂いたのになんか全然リクどおりじゃなくてすみませーん!