haru・kyoko




ボンゴレアジト、あなどることなかれ。どんなにここがマフィアの、それもイタリア一のマフィアのアジトで、山の奥にあるといっても電話回線も、テレビも、インターネットもつながれている。


もちろん、電気だってちゃんと通っている。それも、エコだ。エコ。


太陽発電機能も完備されているここは、外から見ただけではボンゴレのアジトだと分かる奴は少ないだろう。と、まぁ、今はそんなことは関係ないので置いておくが、そんなボンゴレアジトの談話室におかれた一台のテレビに今、俺の視線は注がれていた。
画面の向こうの、美味しそうな生クリーム。そして盛りだくさんのフルーツ。

あぁ、やばい。なんだ、このうまそうなケーキは。

男だからと言って甘いものが嫌いじゃない……いや、正直に言おう。甘いもの大好きな俺にとっては、目の離せない内容だった。イタリア版、三分クッキングさすが、と思わず感嘆のため息さえ零してしまう。そして、俺はテレビが終わると早々に無駄に広い台所へと向かっていた。




かしゃかしゃと、生クリームを混ぜながらオーブンに視線をやる。うんうん、良い調子で焼けてる見てぇだな。ちょっと、さっすが俺!なんて自分で自分をほめながらも、ケーキを作り上げていく。
折角の休みの日になにしてるんだろう、と思わないこともないがこれも立派な趣味だ。

最近は男だって料理をする時代。なんとも俺に優しい時代になったと思う。


……まぁ、それ以外は全然俺に優しくないのが現実なのだが。


いや、まぁ、今は趣味に没頭するとしてあの人たちの事を考えるのはやめておこう。今は楽しいことだけ考えていたいからな。

冷蔵庫にあった最高級フルールを盛り付けて、包丁で適当に切り分ければ見事に完成。しかし、この量。調子に乗って作ったはいいがとてもじゃないが一人で食べきれるわけがない。
どうしたものだろうか、と首をかしげていれば丁度よく台所へと訪れた二人に俺は笑顔をつくった。


「はひ!くん、何してるんですか?!」
「うわぁ、美味しそう!」

「丁度良い所に来た、二人とも!今、ケーキ焼いたところなんだけど一緒に食べない?」


俺の誘いに二人は笑顔で返してくれる。あぁ、他のむさくるしい男どもと違って凄く癒される。紅茶をいれてくれようとした、ハルちゃんを一言制して二人をテーブルへと座らせる。
もちろん椅子も引いてあげた。


「このケーキにはこの紅茶がぴったりだと思うんだよね」


準備しておいた紅茶と、ケーキを盛り付けたお皿を二人の目の前に差し出せばキラキラとした視線でそれを見つめていた。いただきます。礼儀良く三人で手を合わせて、俺は二人が食べるのを見守る。
……ちょっと、自分変態くさいなんて思ったがただの勘違いだよな?そんなまさか、俺があのパイナじゃなかった、Mさんと同類だなんて思いたくはない。


「お、美味しいです…!なんですか、この味!アンビリーバボーです!」

「本当!すっごく美味しい!!」


あまりに嬉しい言葉に俺の顔はしまりなく、ゆるんでしまい、へへ、と何とも気持ち悪い声をだして笑ってしまった。

ありがとう、と言葉を返せば「本当のことですから!」と何とも嬉しい言葉で返してくれる。少しだけ気恥ずかしい気持ちになって、それを隠すようにフォークを口に運んだ。甘すぎるかと思っていたけれど、なかなか丁度良い甘みが口の中に広がる。

今回のケーキはどうやら成功したらしい。

以前、失敗した時のケーキはむく、じゃなかったMさんへと押し付けたがその必要はないようだ。先に二人に食べさせておきながら、俺は今更ながらにホッと息を吐いた。


「今度また作ったときは二人とも食べてくれよな」

「そんな、もちろんです!」
「その時は私たちにも手伝わせてね」


京子ちゃんの言葉に俺はうなづいた。すっげぇ、楽しみ。口からポロッとでた本音に、私も、と二人からことばが返って来てまた俺はしまりのない顔で笑ってしまった。







「あれ、じゃないですか。ケーキ作ったんですね……それで僕の分は」

「すみません、確実にないです」

「え、ちょ、確実にってどういうことですか?!って、ちょ、こっちを見なさい!ひとと話すときは目を合わせなさい!」




(2009・07・13)
フェミニスト。
感想が原動力になります!→ 拍手