「あ、スクアーロじゃん」
やっとのことでザンザスに押し付けられた任務が終わりボンゴレの屋敷へと帰ってきて一番最初に会ったのは同僚の姿だった。自分とおなじ暗殺部隊ヴァリアーである男。
自分よりもだいぶ年下ではあるがここのやつは礼儀も敬語も知らないらしい。
もちろん俺が言えたことではないし、今更こいつに敬語を使われたりしたら気持ち悪くて堪らないので何も言うことはないが。
(っていうか、こいつは同僚っていうか悪魔だろぉ!)
ドアを開けた瞬間に満面の笑みを浮かべながらこちらを見ているその男に俺は背中がゾクッと冷たいものが走るのを感じた。こいつが一体何を怒っているのか知らないが、同僚に向ける視線にしてはあまりにも鋭い視線。満面の笑みのなか眼だけが笑っていない同僚に、俺は自分の口端がひきつるのを感じた。
「それにしても帰り遅くない?任務本当は一昨日までのはずだろ?」
「…処理に戸惑ったんだぁ」
本来ならもっと早くにこの屋敷に帰られるはずだった。俺だって早く帰ることができたんなら早く帰ってきたかった。だが、最後の最後で部下の起こした不手際をそのままにしておくわけにはいかない。目の前の男の先ほどより鋭くなった視線に俺はため息が思わずこぼれそうだ。
本当ならこんなところで吾郎の相手なんてしてないで早く自分の部屋に帰りたいと思う……だが、このままこの男をほっておくのもまずいだろう。
それもどうやら目の前の相手は怒っているようにも見える。俺が何をしたっていうんだぁ!と、見覚えのないにも関わらず向けられる吾朗の怒気。もはや、殺気とあまり変わらないような気迫さえ感じる。一気に冷たくなった周りの空気に気付かないほど俺は鈍くはない。
「へぇ、それで俺の可愛い可愛い妹をほっておいたんだ」
(う゛お゛ぉい、それは俺のせいじゃねぇぞぉ!!)
そう言ってやりたいのは山々ではあるがほっておいたことについては事実だ。どんなに部下の不手際が原因だったとしてもそれを理由にするなんてことかっこ悪くてできるわけがない。
「より任務を優先させるなんてこのカスが」と悪態をつく吾朗に俺の眉間のしわがよるのがわかったが、言い返すことはできなかった。
「……悪かった」
「俺に謝る前にやることあるだろ」
赤い瞳で睨まれる。それはの前では絶対に見せない表情だった。
(まぁ、こんな表情はにはみせらんねぇだろうなぁ)
殺気をも含む吾郎のその表情はまさに裏の、顔だ。たぶん、この男と初めて会ったやつは吾郎がマフィアなんてことをわかるやつはほとんどいないだろう。普段はどちらかといえば、へらへら笑っているし人なんて殺せるようには見えない。
だが、こいつが一度牙をむけば、そこにいるのはただの殺し屋といっても過言ではない。刀片手に人を殺していく姿はまさに狂気。の前での姿とは全然違う。
本当に同一人物かと思ってしまうほどのものだ。
「ほら、なにぼさっとしてるわけ?さっさと報告書だして」
吾朗がこちらへと右手をだしてひらひらさせる。そこにはもう殺気は含まれていない。俺は言われたとおり今からザンザスのところにもっていこうと思っていた報告書を吾郎へと差し出した。う゛お゛ぉい、それをどうするつもりだぁ!昨夜、寝ることもできずに必死な思いで書き上げた報告書。
嫌がらせだ、なんて言い笑いながら破りさく吾郎の姿が目にうかび俺の手は途中でとまる。
「カス鮫さっさと渡せ」
「カス鮫ってどういうことだ、う゛ぉい!!」
「はぁ?事実だろ?可愛い可愛い人の妹ほっておいた癖に」
そう言われては何も言い返せる言葉はない。そんな俺の様子に吾朗はため息をひとつこぼすと俺の手にあった報告書を奪い取った。
「だから、俺がこの報告書ザンザスさまに渡しておいてやるから」
お前はたっぷりを甘やかしてこい、とはっきりと吾郎が告げる。俺はその言葉がとてもじゃないが吾郎から発せられたものとは思えなかった。今まで何度も邪魔をしてきた吾郎からとてもじゃないがこんなことを告げられるとは思うはずがない。あの、ベルの野郎と一緒に俺を馬鹿にし続けてきた吾郎が、まさか。う゛お゛ぉい、と言葉を漏らしながら信じられないといった視線を吾郎にやる。吾郎はそれが不服だったのか、眉を一気に寄せた。
「さっさと行けって言うのが聞こえなかったのか、カス鮫」
ボソッとつぶやくように言われた言葉に俺は礼を一つし(本当は言いたくないことこの上なかったが)、踵を返して歩き出す。後ろから聞こえてきた「が首を長くしてお前の帰りを待ってるんだよ」という言葉に耳に届き歩きながら振り返れば、背を向けた吾郎が先ほど俺が渡したばかりの書類をひらひらとゆらしていた。
まったくどれだけシスコンなんだお前はぁ、と思いながらもフッと口端が上がった。カツカツと足音をたてて廊下を進み、その先にある一つの部屋を開ける。視線の先にいたはこちらを見て一瞬驚いた表情を作ったが、すぐにいつものあの笑顔で笑ってくれていた。
「おかえりなさいスクアーロさん」
ドアを開ければその先にいる愛しい人。その愛おしい人が自分が帰ってくるのを嬉しそうにしてくれて、おかえりと言ってくれるのが俺は堪らなくうれしいと感じる。だけど、久しぶりに会ったそいつにたくさん言いたかった言葉があるはずなのに何も言えずにあーだ、こーだ、言いながら俺は頭に手をやりどうして良いのか分からなくなってしまった。
視線をそらし、考える。しかし結局言いたかったことは恥ずかしく一言も言えずに良い考えも浮かばずに俺はただに手をのばし、自らの腕の中に閉じ込めた。
心地よい暖かさに腕に込める力が強め、「、」と名前を呼んでやることしかできない。それでも嬉しそうにしてほほ笑むに俺も自然といつの間にか笑っていた。
(2009・03・03)
もしもスクアーロのお嫁さんだったら話。お嫁さんの話は甘くしよう甘くしようと念じながら書くのですが、書いてる本人が鳥肌ものになりながらもそもそと書いてます。他にもこの人のお嫁さんだったらな話が読みたいって方がいらしたら拍手からどうぞ…!
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