tunayosi
「ー!!」
屋敷内全域に響いたんじゃないかと言うくらい大きな叫び声が聞こえてきたのは夕方近くのこと。
もちろん、叫ばれるようなことをした覚えのない俺は首をかしげながらもデスクの上につまれた書類たちを処理し続けていた。これだけ多くのファミリーがいるんだから自分と同じ名前の奴がいてもおかしくないはず。そう思い、筆を走らせていた俺の部屋へと叫びながら飛び込んできたのは珍しくもツナだった。
ただでさえ、名前を叫ばれるのだって珍しいことなのに、その相手がツナになるともっと、珍しいことで、俺は顔をあげて目を丸くした。
こちらを見る視線は必死なようで思わず「俺、なんかしたっけ?」と万年筆を持っていた手が止まる。
いや、でも、俺は自分で言うのもなんだが俺は自ら厄介ごとを起こすことなんてほとんどない……巻き込まれることが多いだけだ。やべ、そう思うとちょっと涙がでそうだわ。
しかし、ここは泣いている場合ではなく、そうこうしている間にもツナが足音を立てながらこちらへと詰め寄ってくる。
ツナに恐怖感を抱くことはないが、ここまで切迫しているツナも珍しく俺は椅子にかけたまま後ろへと体をそらしてしまう。ツナはそんなことおかまいなしに、俺の机にドンッと音を立てて両手をつき、こちらへと体を乗り出してきた。
「ど、どうした?」
「どうしたじゃないよ!!また、変なこと言ったでしょ?!」
「へ、変なこと?」
いったい何のことなんかわかりやしない。
だって、どこぞやのあのM.Rさんじゃあるまいし、俺が変なこと言うわけないだろう。まぁ、別に例であげるならM.RさんじゃなくてK.Hさんでもよいのだけど、そこんところは気にしないでおく。
首をかしげた俺に、さらにツナは視線を鋭くしてにらみつけるかのように見つめてきた。
ここで「俺わかんなーい(ハァト)」なんていったら、俺の未来に明日はない気がして仕方がない。きっと超死ぬ気モードのツナにぼっこぼこのぼっこぼこされることは間違いないはずだ(想像すると寒気がする)
しかし、どんなに考えても分からない俺は、ツナをこれ以上怒らせないようにするにはどうしたらよいのかを考えながらツナの様子を伺うようにゆっくりと口を開いた。
「俺最近ちょっと徹夜続きでさ意識がないながらも仕事してたときとかあるから、い、いつのことかわかんないんだけど……なので、是非とも教えて下さると嬉しいなぁーなんて、その、すみません、本当すみません」
俺、男としての威厳なし。いや、でも死ぬことにくらべたら男としてのプライドがないことなんて気にしていられない。
「……、獄寺くんのことなんていったか、覚えてる?」
「獄寺のことって?」
「部下から聞かれたんだろう。獄寺くんのこと」
少し落ち着いた様子になったツナはデスクについていた両手をどけ、背中をもどした。俺もそらしていた上体を元に戻して、椅子に座りなおす。
しかし、獄寺のことってなんだ。俺はここ数日間の記憶をたどりながら、腕を組み考え込む。
「はぁ?俺と獄寺ができてるわけねぇだろ。獄寺は10年前からツナ一筋なんだよ。まぁ、ツナはそれに見向きもしてないけどな」
……あぁ、俺言ってたわ。へんなこといってたわ。
いや、でもこれは言い訳をさせてもらいたい。
まず、俺と獄寺ができてるなんて勘違いしてる奴らが一番悪い。
いつも顔を合わせたら喧嘩しかしてないのに、どうやったらそんな勘違いができるのか大いに聞き出してやりたい限りだ。まぁ、そのときの俺は徹夜明けでそんな気力もなくただただ早く眠りにつきたい気持ちでいっぱいだったから、否定だけしておいた。
そもそも俺に聞く前に獄寺に聞いて爆死しろ、と思わないこともなかったがそれでも大事な部下だ。殺させるわけにはいかない。
それに、以前「獄寺はツナに一方的片思い」と部下に言ったときツナが部下から生暖かい視線を受けるって聞いたから一応フォローに、と思い最後の一言をつけくわえたんだ。
ツナがその……まぁ、なんだ、勘違いされたら可哀想だと思ったからな。
「でも、変なことって言ってもちゃんとツナへのフォローはしておいたぜ?」
「そのフォローが駄目だったんだよ!」
「はぁ?」
俺のナイスフォローの何が悪かったんだろうか……いや、まぁ、既に獄寺がツナへの片思い云々の時点で悪いとは思うけど。
「今日、部下から「獄寺さんがかわいそうです!」って何回言われたことか!それに「獄寺さんはあんなにボスにつくしてるのに!」って何人もの奴から泣かれたんだぞ……!」
「……」
思わず哀れみの視線を送ってしまう。まさか俺の無責任な言葉がここまでツナを追い込むことになるなんて……いやいや、でもやっぱり部下の奴らが空気読めてないのも原因にあるよな?
俺には変な質問はするわ、ツナには直接そんなこと言うわ、本当空気読めてないにもほどがあると思うんだけど。
ツナは涙目で俺をにらみつける。正直ここまで嫌がられている獄寺にも哀れんでしまいそうだが、別に獄寺はツナに対して一方的な片思いはしているけれど、それは恋慕の情が混ざっているわけじゃないからな。
俺はどうしたものか、と首をかしげて何か良い案はないか考える。
「俺、これからどうすればよいんだよ」
ガクッとうなだれるツナは、ボスの威厳がまったくといってよいほど感じられない。先ほどまでの気迫もなくなっていて、俺としてもなんて言葉をかけてよいのか分からないくらいだ。
しかし、長年同じく苦労を共にしてきた友をこのままにしておくわけにはいかない。
今までどんなことがあろうとも支えあってきた仲間だ。時には裏切ったり、裏切られたりなんてこともあったが……いや、今となってはそれも良い思い出。あの時どんなに憎らしく思っても、今は現に生きているのだから今更蒸し返すようなことでもないだろう。
俺は唸る。何か良い案はないだろうか、と。
そして、最終的に思いついた案を深く考えることもなく口にしていた。
「じゃ、じゃあさ、俺とデキてることにすれば」
「……っ!……い、いやだよ!」
そこまで言われると、泣くぞ。俺も言ってから自分で馬鹿じゃねぇの、それじゃあ、ツナの疑惑晴らせないじゃん、とはおもったけどな!はぁ、と俺の目の前で溜息をつくツナ。普段は自分が溜息をつく側だというのに、溜息をつかれるような発言をしてしまったことが悔やまれてならない。
これが俺の一生の汚点にならなければ良いのだが、自分でもあまりにも馬鹿な発言をしてしまったことにため息をついてしまいそうだ。
……本当、ツナと獄寺の疑惑を晴らせる良い案はないだろうか。このままじゃ、俺の胃に負担がかかってしまう。
(2009・10・14)
ツナ誕生日おめでとう!……私は、ツナの誕生日という記念すべき日になんて小説アップしてんだよ。 感想が原動力になります!→ 拍手
|