ことこと、と煮込まれる鍋の中身をお玉ですくい小皿へと流し込んだ。それをそのまま口に運び、私は思わず、おいしい、と言葉を零す。
その言葉が聞こえたのか隣にたって料理に使うねぎを綺麗に刻んでいた千種くんがこちらに視線をやった。



「そう。それなら良かった」


うっすらと笑みをうかべるその姿はいつ見ても癒される。どんなに仕事が大変だったとしても、そのあとに見れるこの千種くんの笑顔があるから私は頑張れるのかもしれない、なんてことまで思ってしまう。
しかし、雲雀さんやらその他もろもろにいいようにこき使われたあとでならなおさらそう思ってしまうのも仕方がない話だ。

へとへとに疲れきったあとに部屋のドアをあけて「おかえり」と千種くんに言ってもらえるだけで私の心はホッと暖かくなる。とはいってもほとんど、千種くんのほうが帰ってくるほうが遅くて、いつも私が「おかえり」を言う立場だ。




だけど、たまに、本当にごく稀にだけ二人して仕事が早く終わるときがある。そんなときはこうして二人台所に並んで料理を作る。
私としてあまりの千種くんの手際の良さに、少しばかり眉が寄るときがあるがよくよく考えれば今まであの人たちの世話をしてきたことを考えると当たり前の結果だとも思える。
あの人たちの世話をしていたからこそ、料理を上手くならざるを得なかったんだろう。



「よし、じゃあ私お皿とるから」

「お願い」


食器の並べられた食器棚の中からまずは小さいお皿を数枚取り出す。そして少しだけ背伸びをして、大きめの皿へと手を伸ばした。足と手がピクピクと震えたけれど、わざわざ椅子かを持ってくるのは面倒で踏ん張って皿の淵へと手が触れた。
いける、と思った時には後ろから千種くんが手をのばして私がとろうとしていたお皿を手にしていた。


「無理してとろうとしなくて良いから」


そう言って千種くんは僅かに笑みを作ると、くしゃり、とお皿を持っていないほうの手で私の頭をなでた。
たったそれだけのことなのに、体温が上がってしまうのは自分ではどうしようもなく「ありがとう」と言葉を返すことしかできない。でも千種くんはそんな私の言葉にも満足そうに口端をあげて笑みをつくった。



「ほら、料理が覚めるよ」

「あ、うん。えっと、じゃあ、私こっちよそうね」



千種くんから受け取ったお皿に二人で作った(というか、むしろ千種くんの作った)ホワイトシチューをいれる。千種くんは小さなボールのほうへサラダをいれていた。ちなみにサラダへとかけられたドレッシングは千種くんの手作りだ。
とことん千種くんの料理レベルには尊敬の念さえ覚えてしまう程のもの。二人でリビングにあるテーブルに腰を落ち着かせて、手を合わせる。

いただきます、とそろった声を聞くのは何日ぶりなんだろうか、と思いながらスプーンを手に取り口にへと運んだ。



「おいしい…!」


何日ぶりかの千種くんの作った夕食はやはりいつもとかわりなく、とても美味しいものだった。本当にほとんど夕食を作るのが私で申し訳ない気持ちにさえなってしまいそうな美味しさ。
しかし、だからと言って疲れて帰ってきた千種くんに料理を作らせるなんてことできるわけがないから、これからも私の料理で我慢してもらうしかないのだけど。
なんだか、本当に申し訳ない、と内心千種くんの謝りながら私は食べ進めた。


「…大袈裟」
「いやいや、そんなことないからね?!いつ食べてもおいしすぎるから!」


呆れなような声色でこぼす千種くんの言葉に即座に反論の言葉を返す。大袈裟なんてとんでもない。千種くんの作る料理はプロかと思うくらいにおいしいのは紛れもない事実だ。というか、マフィアをやめて料理店をだしても十分千種くんならやっていけるだろうと、日々思ってたりもする。
これもすべてあの人たちの世話でうまくなったと思うと切なくなるものがあるが、まぁ、その点ではあの人たちに感謝したい。

こんな美味しい料理を今こうして食べることができるのはあの人たちのおかげも少なからずあるんだろうから。



の作った料理も十分、美味しいけど?」

「千種くん、君って人は…・・」



平然と言い切る千種くんに、思わず脱力だ。どうして、この人は私の心の許容範囲を考えてくれないんだろうか。千種くんが私を喜ばせる言葉を言うたびに心の中はいっぱいいっぱいで呼吸もつまりそうなくらいだというのに。
どんなにそれが結婚した後だってかわらずに、なれることなんてない。

まぁ、なれることなんて一生なさそうなんだけど。






(2009・09・29)
むしろ千種の娘になりたい
書くのは遅いですがキャラリクエスト、シチュエーションリクエストお待ちしておりまーす!

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