kyoya





お、おれは雲雀さんの奴隷なんかじゃなーい!




本日、午後五時ごろボンゴレ屋敷内にそんな叫び声が響いた。もちろん、この声は俺の声だったのだが、もうそのときの俺は男の癖に涙目で両手を握りしめて必死だった。
逃げる俺、追いかける雲雀さん。

海辺で追いかけっこをしているカップルみたいだ?あぁ、なんて幻想的なんでしょう!なんて思った奴は前に出て来い。今すぐ俺と代わってくれ。

アレはどちらかと言えば、ジェイソンと逃げ惑う人間B(要するに映画が始まってすぐに死んじゃうような立ち位置)という感じだった。それに俺も雲雀さんも男だ!甘い関係なんかになるわけないだろ!
そして俺は現在、結局雲雀さんに捕まりスーツの襟元を掴まれたまま引き摺られ、特訓場へと来ていた。


あれ、なんで俺、雲雀さんと対峙しちゃってんの?なんで、雲雀さんトンファー構えちゃってんの?ん、それって雲雀さんの匣兵器ですよね?って、えぇ、ちょ、な、なんでカイコウシチャッテルンデスカ?!



(はい、きたこれ死亡フラグ!)



誰かこの暴走し続ける方を止めてほしい。とはいっても、悲しい事ながら草壁さんは出張中の上に、唯一といっても良いほどの頼りの綱であるツナも今日は夜遅くまでお仕事らしい。



――あぁ、今日の屋敷内にはまともな奴がひとりもいないのか



明日の朝、俺はこの場所で一人寂しく倒れているところを発見することだろう。正直に言う。最強の守護者だといわれる雲雀さんに俺が万が一にでも勝てるわけがない。
あー、無理だ無理。目の前の雲雀さんをどうにか落ち着かせようと必死に頭を働かせて考える。
しかし、戦い以上にこの人の気を引くものが思い浮かばない。ここで俺以上に強い人が登場してくれれば言うことないのだが……まぁ、俺より強い奴なんてここじゃごろごろいるから探すのも楽なんだが、この状況をいち早く察してくれて、なおかつ俺を助けてくれる人じゃなければ意味がない。

獄寺だったりしたら、俺もあいつのダイナマイトの攻撃の巻き添えをくらいそうだし、骸さんが登場なんてしたら火に油だ。

間違いなくこの屋敷が半壊することは避けられないような気がする。



(……なんか、良い案思いうかばねぇかな)



考えれば考えるほど絶望的な考えしか思い浮かばないのは俺の脳みそがあまりにもネガティブなのか、それとも現実を嫌というほど思い知っているのかどちらか分からないが、結局良い案の一つも思い浮かばなかった。
そして、必死に考えている俺をまってくれるほど雲雀さんはお人よしなんかでもなく、俺がかまえるのを待つことなく地面をけり、こちらへと向かってきていた。

紫の炎がおきれいですね!と思わず内心で賞賛してみるが、やはり雲雀さんの勢いがおさまることはない。あぁ、そうさ!現実逃避さ!



「ちょ、ま、」
「うるさいよ。静かに戦えないの?」


こっちは戦う気なんてまったくもってありませんから!



そんな叫びも虚しく雲雀さんのトンファーが振り下ろされる。人間やれば出来るを今まで何度か発揮してきた俺だが、どうにか今回も発揮してくれたらしい。振り下ろされたトンファーに僅かにかすったものの直撃をうけることはなかった。
ピリっとした痛みが頬に走るがこのぐらいならどうってことない。間違えれば死ぬかもしれなかったと思えばちょっとした頬の傷なんて痛いわけがないだろう。
だが、俺がよけたことで僅かに雲雀さんの口端が上がる。



雲 雀 さ ん の や る 気 が 1 0 0 上 が っ た



つい先日、クリアしたばかりのゲームが頭の中に思いうかぶ。やった、レベルが上がった!なんてもちろん喜べるはずもなく、俺の顔はどんどん青ざめていく。
こえぇ!ちょうこえぇ!だけど、避けなければ大怪我をおっていたと思うと、先ほどの自分の行動をとがめることもできない。
涙が本当にでそうになるのをこらえながら、俺は懐から匣兵器を取り出す。一応、使い慣れた銃もあるのだが、さすがに味方……正直味方なのか敵なのか判別できなくなってきた相手でもあるのだが、実弾をぶっ放すことはできない。


俺の匣兵器よ頑張ってくれたまえ。

俺と一緒でどちらかと言えばチキンな性格な匣兵器にエールを送りながら、俺は指輪を匣兵器へと近づけた。




……のだが、そこへ突然の乱入者。


俺の目の前を通っていた弾丸は俺の前髪を僅かに焦がし、雲雀さんは自分へと放たれた弾丸をいつの間にか華麗によけていた。見た目を気にするような性格ではないが、俺の前髪が少しチリチリになったのを気にしないほど無頓着ということもない。
チリチリになった部分を掴んで、思わずため息がこみ上げて来る。雲雀さんといい、こいつといい、仲間に対しての行動をもっと改めるべきなんじゃないだろうか。
俺なんてどんなにムカつこうが、殺してやりたいと思おうが、未だに自ら制裁を下したことはない。

まぁ、たまに、我が兄である奴が勝手に制裁を下していることは無きにしも非ずだが。



「邪魔しないでくれるかい?」



雲雀さんが突然の乱入者のほうへと視線をやりながら、低い声で告げる。
だが、相手が相手だそんな声で言われようとも、平然と相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「悪いな」


全然悪びれた様子もない笑顔で言われても。思ったことは口に出すべからず、この10年で学んだことを俺はしっかりと実践していた。



「なんだ、言いたいことでもあるか?」
「いいえ、何もありません!」



しかしながら、相手が読心術の使い手という場合があることもある。この場合は残念ながらどんなに口に出さなくても自分が思っていたことを相手に知られてしまうこともある。



「悪いがヒバリ、勝負はそこまでだ。」
「獲物を横取りするつもり?」


(獲物って俺のことか?!俺のことなのか?!)


「急な仕事が入ったんだ。今、手が開いてるのはそいつしかいないからな」



そいつ、というところで俺へと視線が向けられた。確かに俺は今日はフリーの日だ。だが、こうして目の前で俺に喧嘩を売ってきた相手だってフリーじゃないんだろうか。
それなら俺なんかよりもよっぽど強い雲雀さんに仕事を任せたほうが良いと思う……というか、俺が折角の休日を潰されるのが嫌なんだけど。

もちろん、リボーンに逆らうことなんてできるわけがないし、ここにいて雲雀さんとの戦いも続けるのはもっと嫌に決まっているのでそそくさと匣兵器を懐へと戻して、リボーンのほうへと近づく。雲雀さんはもう既に戦意が喪失されたのか、一息吐きながらそれでも不服そうにトンファーを直していた。



「ったく、この俺に探させてるんじゃねぇ。」
「……す、すいません(超、理不尽だー!)」

「それに雲雀。お前、まだ任せていた書類終わっていないだろう」

リボーンの言葉に思わず俺は固まった。この人自分の仕事終わってないくせに、俺へと喧嘩をふっかけてきたのかよ!なんて野郎だ!


「今日中には終わるからね。息抜きだよ、息抜き」


悪びれた様子もなく雲雀さんが言い切る。息抜きで死ぬかと思った俺はどうしたら良いんだろうか。泣いてもよいんだろうか。だが、俺が泣き出す前にここへ来る時に雲雀さんにされたように、リボーンから襟元をつかまれると「え、ちょ、はなせって!」という俺の言葉なんて無視されずるずると引き摺られながら特訓場を後にした。




(左の頬、怪我してるぞ)
(あぁ、これはさっきの雲雀さんとの奴で)
(少しは男前に近づいたんじゃないのか)
(余計なお世話だ!!)






(2009・07・24)
リクエストで雲雀さんと、

感想が原動力になります!→ 拍手