「ツナ」と私が名前を呼べば、ツナは多くの書類に囲まれたまま顔をあげた。くまのある顔に私は一息ため息を吐くと彼の目の前にいれたばかりの紅茶を置いた。そうすれば一瞬驚いた顔をしたもののツナは直ぐに私の目を見て「ありがとう」と言う。
彼は恥ずかしがらずに素直に人の目を見てありがとう、と言える。
言われた私は少しだけ気恥ずかしくなり、目をそらして「どういたしまして」と言った。
「リボーンが次から次に書類を持ってきてるみたいだけど、寝てる?」
「あー……うん、それなりに寝てる」
うそつき。そんな顔してそれなりに寝てるわけがない。つくならつくでもっと上手く嘘をつけば良いのに。私に心配させないように、なんてどうせいらないことでも考えてるんだろう。
まったく、心配くらいさせてくれればよいのに、とは思うけど彼が私のことを想ってそう言ってくれてると想うと何もいえなかった。
「何か手伝うことは?」
「えっ、いや、もうは寝る時間だろ?」
「…ボスが仕事やってるって言うのに、部下が惰眠を貪るなんてことできないでしょ」
まぁ、中には例外も何人か要るみたいだけど。雲雀さんとか?骸さんとか?(まったく、たまには自分の仕事以外も手伝うっていう精神くらい身につけて欲しいものだね……!)
だけど、私にはこんなくまのある顔で仕事に追われてるツナを見捨てるようなことはできない。
それにツナは自分の体のことに関してはほとんど無頓着だから誰かがストッパーをしてあげないと後々困ることになるのも今までの経験で分かっている。
少しくらい自分の体のことに関心を持って欲しい、と言う私と獄寺の思いは未だにツナには伝わってはいない。
「大丈夫だから、は寝なよ」
「私のほうこそ、大丈夫だから」
そう言いながら半ば無理やりに机の上にあった書類をとる。
さすがにボスしか処理できない書類もあるけれど、どうやら私がとった書類は私にも処理できそうだ。これで、私がとった書類がツナしか処理できない書類だったりしたら私めちゃくちゃかっこ悪かったな。
ツナから奪い取った書類をツナの部屋にあるテーブルをへと置いて、ソファーへと腰をおろす。ツナがなんとも困ったような顔してこちらを見ていたけれどこのさい無視だ。
ただでさえボンゴレの屋敷があるところは静かで夜となればさらに静かになる。
そんな中もくもくと私が手を動かして書類を片付けていればツナから「」と名前を呼ばれた。
「そろそろ本当に寝たほうが良いんじゃないかな?」
「だから、大丈夫だって」
ツナの言葉に私は頭を上げずに、書類を片付けながら言い返した。腕にしてある時計に目をやれば、時刻はもう夜中と言っても良いくらいの時間になっている。もう仕事を始めて、2、3時間は経ってるかもしれない。
そろそろ紅茶でも淹れるかと考えて立ち上がり、紅茶を淹れに行く。
紅茶を淹れ戻ってきてみれば、ツナの机の上にあった書類の山ももうほとどんど無くなっていた。
「はい、紅茶。淹れなおしてきたよ」
「う…ん、ありがと」
はぁ、と一息はいて万年筆を置いたツナは私の淹れた紅茶のカップへと手を伸ばしそれを口に運び「美味しい」と呟いた。その言葉に僅かに口端が上がるのを感じていれば、ツナが突然顔をあげて、私の顔をじっと見た。
「そう言えば、に話があったんだ」
「何?」
こちらを見上げるツナの言葉に首をかしげれば、「そろそろ仕事、やめない?」と言う一言。思ってもみなかった一言に私は目を見開き、何と言って良いのか分からなくなった。
どうして、いきなりそんな事言うの?もしかして、私本当はツナの役に立ててなかった?
呼吸が少し、乱れた。落ち着け、と自分に言い聞かせるけどもさ迷う視点は定まることはない。
「な、何で?」
私にはもうここしかいる場所がないのに。確かに人を殺すなんて仕事をやりたいと言ったらうそになる。
それでもボンゴレにいて、皆やツナを守る為なら何でもしても良いという覚悟はある。大好きな人の傍にいたい。なのに、仕事をやめたりしたら、もうツナの傍にはいられないんじゃ、と思いツナの顔を見る。
もしかしたら、今の私は泣きそうな顔をしているかもしれない。
そう思っていれば目の前のツナはゆっくりと微笑むと、私の片方の手をとった。暖かいツナの掌の体温が私の腕へと伝わる。
「の体はもうだけのものじゃないだろ?」
ツナの視線が私のお腹のほうへとうつり、彼の言葉の真意に気づいた。暖かい視線の先には新しい命の存在。その存在に、私も最近気づいたばかりで、それでも私は未だツナにそのことを告げることができていなかった。
あぁ、なんだ彼には気づかれていたのか。
それに気づけば先ほどの言葉が私を突き放すものではなく、私のことを心配してくれての言葉だということはすぐにわかった。
「気づいてたの?」
「なんとなくだけどね。……これも超直感なのかな」
ボソリと呟いたツナに私は「父親の直感じゃない?」と言った。それにツナは「そうかも」と言って私の手を握る力を少しだけ、ほんの少しだけ強めた。
「そういう事だから、俺の言いたいことは分かるよね」
と俺達の子どもに何かあったら困るから。と困ったように彼は笑い、「守るものが一つまた増えた」と嬉しそうに呟いた。守るものがふえて、彼の負担は増えるはずにも関わらず、ツナの表情は嬉しそうで私もそれが嬉しくてたまらなかった。
「と、この子は俺が守るよ」
そういったツナにまっすぐとツナの目を見て「ありがとう」と言えば、当たり前のことだよ、と言って優しい笑みを浮かべていた。
(2008・12・18)
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