私にとって部活のない休日というのは体を休める絶好の日であり、そんな日にわざわざ外にでかけようなんて思ったりはしない。
別に寂しい人間わけでもないけれど、普段良いようにこき使われている私にとってこう言う日にこそ体を休めておかないと平日は学校と部活があり放課後帰ってくるのも遅い上に家事にも追われて休まる時がないのに、体調を崩してしまうかもしれない。


まぁ、そこまで軟弱なつもりはないし、本音を言えば"面倒臭い"たったその一言が理由である。


ただでさえ最近、自分でも何かに憑かれているんじゃないかというほど面倒事に巻き込まれている私にとって外は鬼門だ。どこで誰に出会うかさえ分からない。
これは決して自意識過剰なんかではなく、私が外に出れば必ずどこかしらのテニス部と遭遇してしまっている気がする。

そして、悲しきことかな、そのテニス部員というのがそろいも揃って美形揃い。私ひとりでいたときなら道行く人々は誰も私のことを気にかけていなかったはずなのに、隣にその美形が一人並ぶだけで、女の子からの視線は一気に殺意が込められたものへとかわる。
その視線の恐ろしいこと、恐ろしいこと。絶対にその視線だけで人が殺せると思ったことは一度や二度ではない。


私、殺されるかもしれないと思ったことはもう数え知れないほど経験した。


できることならこんなこと経験なんてしたくなかった!そうは思っても後の祭りであり、今こうして未だに生きていられるのも奇跡に近いんじゃないかと思っている。せめてもの救いが私が平凡なおかげで、道行く女の子たちが私の顔を覚えていないといったことだろう。
何一つとして特徴のない私。覚えられていないからこそ、今でも道を歩くことができる。

きっと、顔を覚えられていたら道の真ん中で後ろから刺されていた、なんてこともありそうで笑えない。


今にあるテレビの前のソファーに横になりながらリモコンでチャンネルをかえていく。丁度良くかかっていた三分クッキングに今日の晩御飯はこれにしようかとも考えていれば、テーブルの上にあった携帯電話が鳴りだした。それも音が長くそれは、電話がかかってきたんだということが容易にわかる。
正直三分クッキングと着信だったら三分クッキングを選びたいところだが、相手によってはそんな悠長なことは言ってられない。

もしかしたら生死にさえ関わってくるかも知れないと思った私は携帯をひらき、相手の名前を確認する。


「……」



パタンと、携帯を閉じて元の場所へと置き直した。

画面に記されていた名前は忍足侑士の文字。三分クッキングが勝利した瞬間でもあった。


しかしながら忍足先輩はとてもしつこく、結局三分クッキングが終わるまで音楽が鳴りやむことはなかった。いったいこの人どれだけしつこいんだろうか。まったく、だから忍足先輩は変態だとか、変人だとか、丸メガネとか言われるんだと悪態をついていれば再びなりだす携帯。

あぁ、もうこの人!本気でしつこい!!着信拒否してやろうか!と思いながら画面をひらき、電源ボタンを押そうとしたが相手の名前を確認して、電源ボタンを押す寸前で私の手はとまった。
そして、親指は移動していつの間にか私は「もしもし?」と電話の向こうの相手に話しかけていた。


『あぁ、もしもし。、久しぶりやなぁ』
「はい、お久しぶりです。謙也さん」


忍足先輩の従兄弟とはとても思えない常識のある人物。謙也さんからの電話なら出ないわけにはいかない。と、思ったのが間違いだったのかもしれない。


『なんで?!なんで謙也からの電話にはでるのに俺からの電話にはでてくれんの?!』


(奴もいたのか……!!)



電話の向こうから聞こえてくる馴染みのある声。あぁ、またこのパターンですか。

以前もこんなパターンで失敗したって思ったことなかったっけ?いや、あった。あの時は岳人先輩からの電話で可愛いものが大好きな私が無視なんてできるわけもなく、電話にでたんだ私。そうしたらまさかの電話の向こうには岳人先輩だけでなく忍足先輩と跡部部長。
あの時ばかりは自分の馬鹿さ加減に涙がでそうになったものだ。そんな失敗をふたたび繰り返してしまうなんて……!私の馬鹿!大馬鹿野郎!

しかし今更どう自分を罵っても電話の向こうの相手がかわるわけもなく、私はため息をひとつ零していた。


『ガックンのはとるし、謙也のもとるし。なのになんで俺からの電話はとってくれへんのや!』
「跡部部長からのも取りませんよ」

『なら安心やなぁ……ってそんなわけあるかい!!


『今のは50点ってところやな。侑士、東京着て腕が落ちたんとちゃうんか?』
『落ちてへんわ!』

電話の向こうでごちゃごちゃと言い合っている二人。用事があって電話をかけてきたんじゃないかと思ったがどうやらそういうわけじゃないのかもしれない。用事なら用事でさっさと言って欲しい。これが忍足先輩からの電話なら迷うことなく電源ボタンを押していたというのに、相手が謙也さん。
もちろん切れるわけがない(そもそも忍足先輩からの電話だったら取ることなんてないと思うけど)

ほとんど聞こえてくる声を聞き流しながら、テレビのチャンネルをかえれば、ピンポーンとチャイムがなった。少し急ぎ足で玄関へと向かい、ドアをあければ、目の前には二人組の男。
思わずドアをしめて、一呼吸。


(なんで、この人たちいるわけ?!)


ドアノブを掴み、えぇぇ、と唸り声をあげる。まさかの見間違いであって欲しい!
あまりに切実な願いが心を占めるが、そんな願いもむなしくガタンとドアを叩かれ、向こうからは「なんで閉めるん?!」とか「……そりゃ、侑士のせいやろ」とボソッと呟いている声が聞こえていきてしょうがなく、しぶしぶ私はドアをあけた。


ちゃん、おはようさん」
「……すまんなぁ」


うっすらといつものあの笑みを浮かべた忍足さんといささか疲れているように見えている謙也さん。謙也さんのその表情の理由は間違いなく隣にいる人物のせいだろう。
そして、もうおはようではなくこんにちは、の時間だと忍足先輩に言ってやりたい。
休日のせいか私服姿の二人はやはりジャージや制服とは違った雰囲気を醸し出していている。先ほど道路を歩いていた金城さん(既婚者、夫有り)なんてこちらを見ながら、二人に見惚れているのが手に取るようにわかった。


ちょっと、夫はどうした。夫は。


新婚ほやほやでいつもいちゃいちゃしている金城さん夫婦の行く末を見たような気がするが、とりあえず何も見なかったことにしようと思う。金城さんの夫にはこれからは特に頑張ってもらいたい。

いつの間にか通話の切れいていた携帯を閉じ、そして、思いっきり笑顔をつくった。



「すみません、新聞は間に合ってますんで」



二人が一気に固まったような気がするが、気にせずに「じゃあ」と言ってドアを閉めようとする。しかし、すぐに元に戻ったのか「いやいや、ちゃうやろ?!」と謙也さんがあせったような声を出してドアに手をかけた。
忍足先輩の手だったら気にせず挟んでたのに、と思ったことを忍足先輩に気づかれたのか「今、ちゃん。凄い俺に対して酷いこと考えとったやろ?」と眉をよせて聞いてくる。まさか、大正解ですよ!なんて言えるわけもなく、私はそんなことはありませんよ、と忍足先輩に返しておいた。

最近、自分でも忍足先輩に対して何でもありになってきたのには自覚がある。


「いやぁ、でも本当に久しぶりやなぁ。元気にしとったか?」
「あ、はい。それはもちろん!」
「そうか。それなら良かったわ」


ニカッと笑う謙也さんには忍足先輩にはない爽やかさがあるし、笑みにも胡散臭さがまったくもってない。未だに本当にこの二人が従兄弟だと信じられないのはこのせいもあるんだろう。
謙也さんもお元気そうでなによりです、といった言葉に謙也さんは「ん、ありがとさん」と言ってポンっと、私の頭に手をやった。


「え、ちょ、俺無視か?!ちゃんも、謙也もひどすぎるで!」
「侑士は黙っとけ。折角の感動の再会なんやから。ほらお前、映画好きなんやろう?実際にそんな場面見れるなんて良かったやないか」
「俺が好きなのはラブロマンス系の映画や!」


目の前で言い合う二人。とてつもなく無視したい上に周囲の視線も気になる。先ほどから通りがかる人たちがこちらに視線を向けていることに二人は気づいていないんだろうか。近所で変な噂でもたたされたりしたら、私泣ける自信がある。
ただでさえどこぞやの愚兄のせいで近所の人たちからは生暖かい目で見られているというのに、これ以上生暖かい目で見られるようになんてなってみろ!私が可哀想だろ!


「あの……それで結局お二人とも何しに?」
「あ、あぁ、本題を忘れとったわ」


それは一番忘れてはいけないことだろう、と心の中でツッコんでおく。


「本題っていうのは?」
「いやぁ、今からデートせ
「しません。絶対にしません。」


忍足先輩の言葉に一瞬の間もなく(むしろ忍足先輩の言葉を遮り)言いきった。忍足先輩も謙也さんも見た目だけは中学生には見えないほどの色男だ。
そんな二人と街中を歩くなんて、想像さえもしたくない。そんなにあなたたちは私を殺したいんですかえぇ゛?!そう問い詰めたい気持ちで一杯である。

貴方達と歩くくらいなら榊監督(43)と一緒に歩いたほうがまだなんぼかましだと言わないだけ、感謝してもらいたい。



「即答?!いつも言いよるけど、もっと悩んでくれても良いやろ!」
「(……侑士、お前いつもこないな扱いなんか)」


「って、謙也!!そないな目で見るなや!!」



謙也さんが忍足先輩に同情的な視線をやっているのを、見ながら私が「とりあえず、そういうことなんで帰ってください」と言えば二人の視線がこちらへと集まった。そして二人して笑顔を浮かべる。
あれ、すっごい嫌な予感がするんですけど?このドアもう閉めちゃって良いですか?なんて言う暇もなく、忍足先輩が口を開いた。


「これ、なんか分かるか?」
「スーパーの袋ですか」

「そうや。そして、こっちには…」


謙也さんはそう言いながら持っていた大きめのカバンの中をこちらへと見せる。中には何やら箱と、そしてお好み焼きをひっくり返す時に使うコテが。無言でそれらを見つめる私に謙也さんは箱を指さすと、「これはタコ焼き器や」と言って笑った。わざわざそんなものを鞄の中につめこんでくるなんて何がしたいんだろうこの人たちと、怪訝そうな目で見上げれば忍足先輩がコホン、とわざとらしく咳払いを一つした。


「こっちのスーパーの袋にはお好み焼きとタコ焼きの材料がはいっとるんやで」


何を言いたいんかは分かるやろ?と問いかけてくる忍足先輩。まさか、もしや、この展開、と思いながら二人を見た。


「本場のタコ焼きとお好み焼き、」

「食いたいと思わへんか、?」


変なところで息ぴったりの二人のその言葉に、私は一瞬の間もなく「はい!」と答えていた。食べモノによわい自分。なんてことだ!とは思いつつも、"本場の"なんて言われたら食べたくなるにきまっている。
私の勢い良い返事に二人はプッと噴き出すと忍足先輩は「素直な子は嫌いやないで」といつもより優しい笑顔で微笑んでいた。
「ほな、美味しいもんつくってやらなあかんなぁ」と同じように笑った謙也さんを見上げながらも、私は本場のお好み焼きとタコ焼きに思いはせていた。




食べ物>美少年の公式








(2009・04・12)
がちゃこさま、なんだかいろいろすみませんでしたー!!(土下座)関西弁はいつものごとくねつ造なうえに、謙也のキャラも つ か め て な い で す … …!あとコミックス10回は見直せばよかったと今になって後悔しております><忍足もいつものごとく酷い扱いですが、このようなものでよろしかったでしょうか……?あの、何回でも書きなおすので言ってやってくださいませ!!ではでは、本当にがちゃこさま日吉イラストありがとうございましたぁぁ!こ、子ヒヨの話が書きたくなりました


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