がやがやと賑わう店内にはあちらこちらにテニス用品やら、野球用品、そのほかにもたくさんの商品が置いてある。それらを榊監督から渡されたメモを見ながら一つずつ確認しながら歩く。本来ならいつもはこの時間はマネージャーとしてドリンクの準備やタオルの洗濯をしている時間ではあるけれど、今日私は都内でも随一と言われるスポーツ用品店へと足を運んでいた。
別に今日の部活が休みだというわけではなく、部員たちは今頃氷帝のあのバカでかいコートで部活に勤しんでいることだろう。
そんな部員達とは違い私は榊監督に頼まれてスポーツ用品を買いに来ていた。レギュラー陣にそれを伝えれば自分も手伝うという何とも有難い提案もしてもらったが、街中であの人たちと二人っきりで歩く勇気は私にはない。
特にこんな放課後の時間なんてただでさえ学生に目につきやすいというのに、その中であのレギュラー陣の誰か一人とでも一緒に歩いていたりなんかしたら私には明日は来ないにきまっている。
背中を刺されて女子中学生死亡。
そんなことでニュースにでたり、新聞の一面に乗るのは絶対にお断りしたい。まぁ、私なんかが刺されてもニュースはほんの数秒、新聞も端っこのほうに少しだけ、なんてことになりそうだけど。レギュラーからの提案を断った私に平部員も自分が、なんて言いだしてくれる良い子もいたけれどそれも断らせてもらった。
そりゃ、レギュラー陣を連れてまわるより平部員なら私の命の危機なんてないが、それでも今日の一日の部活を休めばそれだけで支障をきたすこともあるかもしれない。それに今日のお使いはそれほど重いものもないし、一人でも問題はなかった。
どうか、平部員たちよ。私なんかにかまうことなく、早くあのレギュラー陣の忍足先輩や跡部先輩に下剋上を達成して欲しい。私の今後は君たちの手にかかっていると言っても過言ではないから。
(えっと、これは二つ、と)
榊監督からもらったメモをたよりに商品をかごに入れていけば、なんだか周りが騒がしくなっていることに気づいた。今私がいるのはもちろんテニス用品の売り場。
都内一と言われるだけで広い店内にはちきんと種目によってコーナーが作り上げられている。放課後ということもあってテニス用品の売り場にも学生の姿が目立ち、お客さんも結構いるらしい。ひそひそと話をしている人たちを横目にふと、その人たちの視線が集まっている方向へと視線をやった。
そして、私は思わずそこで固まってしまった。
(ちょ、なんてこんなところにいるんですかー!)
ここは東京都、のはず。と自分に問いながらも、私はその人たちを凝視する。私の視線の先にいるのは、立海大付属三年、真田さんと柳さんだ。背の高い二人は、よく目立ちやはり王者立海と言われるだけあってか周りからの注目は彼らに集まってきている。
その視線のほとんどが羨望の眼差しをしており、二人がどれだけ有名で強い選手なのかを改めて思い知った気がした。
真田さんと柳さんとは、知り合いではあるけれどこう言うときは話しかけるか話しかけないかで少し迷ってしまう。向こうはまだ私には気づいていないようで、何やら商品を手にしながら二人で話し合っている。
別にあの二人だけなら私も話しかけることに抵抗はないが、どこに伏兵が潜んでいるのか分からない。
もしかしたら、伏兵なんていないかもしれないけれど、神出鬼没な立海メンバーのことだ、どこに仁王さんやあの切原が隠れているかもしれない。
そう思うと厄介なことに巻き込まれてしまうのではないかと思い、あの二人に話しかける気にはなれなかった。まぁ、それ以前に注目を集めている二人に話しかける勇気なんて私にはまったくないのだけど。
話しかけたりなんかして二人のファンに反感を買って、路地裏に連れ込まれたりしたら怖すぎる。
そう思いフッと、二人から視線をはずして私は買い物を再開した。話しかけなかったことで誰からも咎められることはない。むしろ、話かけるほうが命知らずな気がする上に、二人だって買い物中のようだ。邪魔をするのも如何なものかと思う。
少し視線をさげてメモを確認して目の前の商品と名前を照合させる。そして、お目当ての商品を手に取ろうとした瞬間に右肩にポンっと誰からか叩かれた。
思わずビクリと肩がはねる。
「それよりも右の商品のほうが良いぞ」
「……や、柳さん」
振り返り、肩を叩いた人物を確認すれば私の後ろに立っていたのはいつの間に移動したのか、真田さんと柳さんだった。私の視線なんて気にした様子も見せずに、柳さんは淡々とした状態で言葉をつづけた。
「その商品よりも右の商品のほうがよく効く。買うならそちらのほうがおすすめだな」
「あ、はい」
柳さんに言われて私は迷うことなく右の商品をかごの中へといれた。その動作を見てか、納得したかのように柳さんは、ん、と満足そうに一回うなづいた。いきなり話しかけたことには驚いたが、あの乾先輩と同じくデータマニアな柳さんの言うことに間違いはないはずだろう。
そんなことを思いながら体を柳さん達のほうへと向けて、私は頭を下げた。
「えっと、ありがとうございます」
「別に礼には及ばない。当たり前のことをしただけだ」
それにしても部活の買い出しか?と柳さんに聞かれ私は素直に「はい」と答えていた。別に嘘をつく必要はないし、氷帝のあの人たち(一部除く)と違って柳さん達に対して反抗的な態度を取ろうとはとてもやないけど思わない。
私はまだ少し伏兵はいないのかとあたりを気にしながらも、「柳さんと真田さんも?」と聞き返した。
「あぁ。ここは品ぞろえが良いからな」
「まったく、氷帝はマネージャー一人で買いに行かせるとはたるんどる!」
でた、真田さんのたるんどる!
そんな風に言ってくれる真田さんの顔は怖くてたまらないが、どこぞやのテニス部員たちに見習わせたいと思った限りだ。しかし、小さい子供ではないし買い物くらい一人でできるとは思わなかったこともない。それに、最初はついてきてくれるといった彼らの提案を断ったのは私でもある。
少しだけ真田さんのたるんどるを受けた氷帝のテニス部員に申し訳ない気持ちになってしまった私は罪悪感を募らせて、すみません、と心の中でテニス部員に謝っておいた(特に平部員に向けて)
そして憤慨したような真田さんに、私は弁解するかのごとく言葉を紡いでいた。
「で、でも、重たい荷物がある時は手伝ってくれるんですよ!」
というか、軽い荷物の時も私が買い出しに出かけるときは必ずと言って良いほど声をかけてくれる。けれどさすがに今回のようにあまり買い出しの品がない時は練習の邪魔をするわけにもいかないと思い、断っているのだけど、と心の中で付け足しておいた。
私の言葉に真田さんは少しだけ目を丸くして、柳さんはどこからともなくノートを取り出す。え、ちょ、そのノート何!とツッコむ間もなくさらさらと、これもどこから取り出したのか分からないがペンで何かを書いているようだった。
今の私の言葉の中にどこにノートに書くような事柄があったのか、不思議でたまらない。
「良いデータがとれたな」という柳さんの言葉に私はさらに首をかしげた。
「いや、そんなノートに書くほどのことを言った覚えはないんですけど…?」
「そんなことはない。十分、貴重なデータがとれた」
もうこれ以上は柳さんに追求することのできなかった私を許してほしい。あはは、そうですか、と引きつった笑みを浮かべる私とは反対に柳さんはうっすらと口端をあげて、笑っていた。
そして、いきなり頭に何かが乗ったかと思えば、それは真田さんの手で真田さんの片手は私の頭をつかんでいた。先ほどまで目を丸くして少し驚いた様子だったのに、いきなりどうしたんだろう。
そう思い真田さんのほうを見上げれば真田さんはいつもとあまり変わりのない顔に見えるが眉間に皺はなく僅かに笑っているかのように見えた。
「氷帝と我が校が親睦を深めることはないが、いつでも頼ってくるが良い。邪険にはせん」
分かったか、。と言いきった言葉に満足した様子の真田さんに今度は私が目を丸くする番だった。大会が始まれば、私と真田さん達は敵同士と言っても過言ではない。それなのに、こうやって言葉をかけてくれるし、良いテニス商品だって教えてくれる。
それにあまつさえ、頼っても良いなんて言葉まで私にくれる。そのことが凄くうれしくて私はたまらず自然と笑みを作っていた。
「ありがとうございます!」
「うむ」
「気にすることはない」
私の頭をなでる真田さんの手がまるでお父さんのような手であったのは私だけの秘密だ。でも、その手の温かさは心地良く真田さんになでられたあと乱れた髪の毛を直してくれる柳さんの手も、とても心地の良いものであった。
仮にその手が伸ばされたなら
(迷うことなくその手をとろう)
(2009・03・26)
うわぁぁっぁ、毬吉さま本当に遅くなってしまい申し訳ございませんでしたぁぁ!!(ローリング土下座)もうお礼とも言えないような品ではありますが、どうぞ受け取ってください。大好きです毬吉さま(おぉーい!)
え、これが柳?これが真田?リクエストと違うじゃん!と思われると思いますが、その…言ってくだされば書き直すので、お気に召さなければどうぞ言ってくださいませー!仕事の遅い奴ですみませんでしたぁぁ!!いつも萌えをありがとうございまぁぁす!!毬吉さまの書く立海メンバーが大好きです…!
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