初めはただ珍しい奴だという認識しかなかった。

俺と同じような趣味を持つとは一年の時から同じクラスだったが話すようになったのは夏休みを過ぎてからで、それまでは口をきくことは愚か目をあわせたことさえもなかったかもしれない。

大人しいと思っていたが意外と元気の良い奴だと気づいたのもそれがきっかけで、それまでは俺はお前のことを何一つ知ることはなかったし、知ろうとも思わなかった。



お前は確かに一年の一学期までは俺にとってただの他人だった。
そして、それからもただの他人でいるはずだった。



同じ教室でこ今ではうして隣に座り真面目に黒板を見詰めているを横目に、俺はふとそんなことを考えていた。



今は誰よりも一番話していると、まるで一年の一学期に他人のようだったなんて自分でも信じられない。
だけど、それは紛れもない事実であり、今こうして話すようになったからこそ、きっそそう思うんだろう。



もしも、俺とに共通の本の趣味がなければ今でもただの他人だったのかもしれないと思うと背筋が冷たくなるのは俺にとって彼女があまりに大きな存在だからなのか。

そう思ってしまう気持ちに偽り一つない。



と話す度に、もっと早く話しかければ良かった。なんて考えてしまう自分に苦笑する。



俺はテニス部の中で誰よりも早くこいつと知り合っていたにもかかわらず、こいつが一番最初に仲良くなったのは同じクラスの俺ではなく、先輩であるはずの滝さんだ。

滝さんに嫉妬するなんて馬鹿馬鹿しいことなんてわかっている。



それなのにもかかわらず俺は滝さんに嫉妬せずにはいられないのは何故。

その答えに俺は気づいている。



俺が一番最初にに近づきたかった。
そんなあまりにも浅ましい考えは、今まで抱いたことのない気持ち。初めて抱くその気持ちに俺は大いに戸惑い、動揺を隠すことができなかった。







最初はこんな気持ち抱く自分を認めたくなかった。

今の俺にとって一番大切なのはテニスで、それは今も変わらない。
だけど、以前はテニスのことしか、早く先輩たちをテニスで倒したい、ということしか頭になかったはずなのに今はテニスよりもあいつが俺の大半を占めている。



強くなりたいと思い通った練習。いつしかお前に会いたい、と思うようになっていた。

もっと強くなりたいと思って始めた自主練にお前が来ないかと期待するようになっていた。



テニスのことを考えるべきなのにもかかわらず、考えれば考えるほどのことを考えてしまうなんて自分でも可笑しいと思っていた。

しかし、この気持ちを認めてやればそれは俺の中にスッと入ってきて、あぁ、と思わず納得してしまっていた。




俺があいつを好きにならないわけがなかったんだ。




まっすぐに俺の瞳を見て話かけてくる
俺が話すことに同感し、困ったように笑いながら様々な言葉を紡いでくれる。


いつからそれを愛おしいと思うようになったかなんてわからない。
でも、今俺はそんなを目の前にすれば愛おしい、と、好きだ、という思いが溢れるくらいに沸き起こってくる。




に頑張れ、と言われれば負けないような気がした。
もっと強くなりたいと思うようになった。



テニスには邪魔な感情だと決めつけていたものは、実際はそんなことはなく、むしろ今まで以上にテニスに打ち込めるようななっていた。



隣に座り授業をうけるがちらっとこちらに視線をやる。
一瞬だけ交わった視線には少しだけ笑った。
不意をつかれた俺はその笑みに目を丸くし、からの視線をよける。



ただ目があっただけというのに高鳴る胸にこいつはどう責任をとってくれるんだろうか。



思わず熱くなった頬をに気づかれるわけにはいかず、俺は窓の外へと視線をやった。

こんな気持ち初めてだらけで、俺にはどうして良いのか分からない。いつもは冷静に対処できるはずなのにお前が関わるとそれだけで、俺は冷静でいられなくなってしまう。

かっこ悪い、と零れる自嘲はお前を好きになってから何回繰り返したことか。







心の中だけでしか囁いたことのない名前。
いつか、呼んでやりたい、と思っているにも関わらず実行できない自分があまりに情けなくて嫌になる。

でも、いつか。こうやって彼女を名前で呼べる日がくると思いたい。



好きだ、



この俺がテニスよりもお前のことのほうが大切なんだと言ったらお前はどんな反応を示してくれるだろう。
まさか、なんて言ってもしかしたら信じてくれないかもしれない。

もしそうだとしたら、信じてもらえるまで何度もお前の耳元で囁いてやる。




一番大切なのは、お前だけ



(だからお前にとっての一番も俺にしてくれないか)






(2009・03・12)


こんな日吉まずありえないと思います(真顔