ぐっすりと寝入っているにも関わらず君が俺の名前を呼んでくれれば、その声は俺の耳に届いた。




パチッと眼を覚まして体を起してあたりを見渡す。

すっかりと赤色に染まっている空は、自分がどれだけここで眠っていたのかを教えてくれた。
昼休みにご飯を食べて、どうやらそのまま寝てしまったらしい。



自分の記憶ではあとべたちと昼食をたべて、教室まで帰ろうとしたのは覚えている。



だけそれ以降の記憶がないのは俺が途中で力尽きたからなんだろう。
あくびをひとつ噛み殺して、俺は再びその場にごろりと転がった。
草木の香りにつつまれて、目をとじればその香りをより一層感じられる。


空の様子や周りから聞こえてくる声から分かるのはもう部活の始まっている時間だということ。
それに俺の体は、体はテニスをやりたくてうずうずしている。



でも、もう少し。もう少しここで我慢。
そう自分に言い聞かせる。

きっと部活が始まった今の時間、君はあとべに言われて俺を探しにきてくれるはずだから。



一つ年が違えば、同じ教室で授業を受けるなんて夢のまた夢で部活がなければ君に会うことはできない。

たかが同じ年で、同じクラスというだけで君といっぱい話せる日吉を心の奥底で羨ましく思っているなんて君は考えもしないんだろう。

無邪気に笑っているように見せて、他の人たちに嫉妬している時の俺の心の中は真っ黒している。



俺だけに笑ってなんて、わがまま言わない。だから―――



そんなくだらないことを今までどれだけ思っただろうか。
もう止めどなく数えきれないくらいに、そんなくだらないことを俺は思ったに違いない。



君と出会う前までは寝ている時に聞こえてくる女子の声なんて煩わしいものだった。だから、聞こえているにも関わらず寝たふりをしていることだって少なくはなかった。

そんな俺を「可愛い」と評して、俺が起きていることにも気付かない女子。

俺の何を見ているのか、と思ったこともある。



でも、君と出会ってから、初めて「ジロー先輩」と優しく俺を起こす声を心地良いと感じたんだ。



どんなに眠たくても、どれだけ深い眠りについていたとしても君の声だけはしっかりと耳に届く。もっと呼んで、と思ってしまうほどに君の声は俺の中に浸透していった。




優しくて暖かくて、今まで俺の名前を呼んできた女子のように媚ない陽だまりのような声。


とても安心できるその声が、俺は好き。
今まで出会った誰よりも、君の声が、そして君が、大好きなんだ。




目を閉じてあたりの音に耳をすませば、野球部やテニス部の声が俺の耳へとはいってくる。テニスのラケットがボールを打つ音がきこえてくれば、自然とうずうずしてきてしょうがない。

だけど、やっぱりもう少しだからと自分に言い聞かせて我慢する。


絶対君が探しにきてくれる根拠なんて本当はどこにもないけれど、君なら、と期待している俺がいた。



「―――!」



一瞬だけ耳に届いた声と言葉に俺は、目をあけた。
自然と口端があがり、笑ってしまうのは君が来てくれてとてつもなく嬉しいからだろう。俺がどこにいたって探しにきてくれる。

君が自分の意志ではなくあとべから言われてきていると分かっていても嬉しくて仕方がない。


早く、早く俺のところまで来て。


そんなことを思いながら再び目を閉じた俺の耳に先ほどよりもしっかりと声が聞こえてくる。
もう、すぐ傍まできているのか、君が草木をかきわける音も聞こえた。

がさがさと近づく音に自然と鼓動が高鳴り、すぐ近くまで来てその音はやんだ。


その代りといってはなんだけど、上から降ってくる声。


「ジロー先輩!さっさと起きてください!」


(あぁ、やっぱり心地よい)


目をあけて、上を見上げる。夕陽の光を背には俺を上から見下ろしていた。
「おはよう」とニカッと笑みを作りながら言えば、は呆れたような顔をしながらも困ったように笑みをつくり「おはようございます」と笑ってくれる。


「ほら、行きますよ」伸ばされた手に俺は一瞬だけ目を丸くしながらも、迷うことなくその手をとった。




この先もこの手を掴んでいたいんだ



(だって、君のことが好きだから!)






(2009・03・12)

拍手お礼かえるの何ヶ月ぶり・・・・・・だ?そしてじろーがじろーじゃなくてすみません・・・!実はジロー苦手なんです・・・!(大好きですけどね!)