静かな図書室の中では俺とが本をめくる音しかしない。
夕焼けの光が窓から差し込む放課後の図書館に訪れる人なんて、放課後になってすぐぐらいだけでその後に訪れる人なんてほとんどいない。
今日の図書の係りは俺と。
部活が休みの日にしか入れないのだから彼女と同じ部活である以上係りの順番がかぶるということはうすうす気づいていた。
持っている本から僅かに視線をあげて、目の前のをうかがう。
本に視線を落として真剣に読書を楽しんでいる彼女は俺が見ていることになんて気づいていないらしい。
それが少し寂しい、なんて思ってしまうのは俺のわがままなんだろうか。
始めは彼女がテニス部に入部したら楽しい、と思っていた。
だから俺は跡部に言われるがままにをこの図書室で捕まえて、テニスコートへと連れて行った。
しかし、最近それはもしかしたら間違っていたんじゃないのかと思うことがある。
確かにがマネージャーをしてくれるようになって、俺達の負担は減った。
それに毎日の部活も飽きない。
でも、テニスコートで見かける彼女の横には絶対に誰かしらいて、彼女はその誰かに笑みを向けている。
それは跡部だったり、日吉だったり。
ましてやただの平部員だったり。
そんな光景を見るたびに湧き上がる感情は、嫉妬、と言う感情なんだろう。
図書委員の後輩でしかなかったを、気に入ってはいた。
他の子とは違った性格、俺を見ても他の子のように俺にこびてくることなんて絶対になくて、彼女との会話は楽しくもっと話したいと思えて、
彼女がテニス部に入ればもっと話せると思っていた。
会話だって、増えた。
もちろん、以前より仲良くなったと言っても良いに違いない。
(でも、……)
なのに、何か胸のなかでざわめくものがある。
彼女が図書委員の時だったら沸き得なかった感情。
まさか、俺にこんな感情があるなんて知りもしなかった。フッと零れるのは自嘲地味た笑み。
をマネージャーにしたのは、跡部でもなく、監督でもなく、俺であるのに。
あの時はこんな思いになるなんて思いもしなかったから。
彼女の色々な顔を知るたびに気持ちは深まり、
彼女に対する情は溢れてとまることをしらない。
図書委員のままだったら、俺だけしか彼女のことをしらなかったのに。
日吉は同じクラスらしいけど、でもはテニス部に入ってなかったら確実に他の跡部たちとの接点なんてなかったはず。
そう思うと、少しだけ後悔の念が湧き上がってくる。
しかし、彼女がマネージャーにならなかったら、彼女は俺の中でただのお気に入りのままだっただろうね。
がマネージャーになって、一緒にいる時間が増えたからこそ、
俺は、彼女を愛おしく思うようになった。
(こっち向いてくれないかな、)
落とされた視線は俺を見ることなく、彼女の手にある本へと一直線に落とされている。
俺といる時間だけでも、俺を見て欲しい、なんて。
あまりにも幼稚な独占欲だと自分でもわかっている。
けれど、彼女と二人っきりになれる時間自体少ないのだから、そのぐらいわがまま許してもらいたい。
サラリ、と降りてきた髪の毛を耳にかければ、目の前の彼女が視線をあげた。
「滝先輩」
静かな空間に響く彼女の声。
「どうかした?」
君の声が俺の心の音を乱す。
二人きりの図書室に入り込む夕日の光は段々と少なくなり、夜の闇がもうそこにせまっていた。
本を閉じて、目の前の君に微笑めば君も変わらず笑みを返してくれる。
共有する時間が増えれば増えるほど、君への愛おしさは増えていく。
愛おしい、君は
(以前はただの後輩。今はとても大切な、)
(2008・11・27)
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