「え、日吉って今日誕生日だったの?」
「あぁ、」


やけに日吉に女の子たちが群がっていると思い首を傾げながら日吉に理由を問えば日吉から帰ってきた言葉は「今日、誕生日だからじゃないか」ともまるで他人事のような言葉だった。

そして「え、誰の?」「俺の、だ」というやり取りを数回繰り返し冒頭のやり取りへと戻る。

まさか今日が日吉の誕生日だなんて思ってもみなかった私は驚きを隠しきれずに間抜けにも口を開けたまま固まってしまった。
いや、確かに数日前から女の子がそわそわしていたのは確かだ。
それも跡部部長たちがテニス部を引退してから(とは行っても、未だに遊びに来ることが多々ある)(誰か一人でも外部を受験しろ・・・と思わないこともない)日吉が部長へと就任しさらに日吉の人気は鰻登り。

そっけないところがよい!だとかにらまれたいだの、言葉に困るような感性を持っている子たちがいるという話もよく聞いていたけれど、まさかこれほどまで人気があがっているとは。
目の前の日吉の机の上に積まれているプレゼントの数々に圧倒されながら私は日吉へと視線を戻した。


眉間の皺は普段より多く、明らかにうれしがっている風には見えないその表情。
その表情をみれば日吉がどんな気持ちなのかは聞かなくても分かってしまう。


「断っても押しつけられたぞ」
「最近の女の子は強いから、ね」


はは、と乾いた笑みを浮かべながら言った私の言葉に日吉は遠くへと視線をやった。
どうやら思い当たる節があったらしい。


「それに、同じ気持ちを返してもらえなくても、気持ちだけでも貰ってもらいたいんだよ。」


モノの中に込められた気持ち。
同じ気持ちを返してもらいたいという願いはどの子にもあるに決まっている。でも、日吉は一人しかいないからもちろん、日吉の気持ちも1人だけにしか向けられることはない。
だから、もしその日吉のただ一人になれなかったとしても自分の気持ちは知って貰いたいと思うんだろう。

中にはきっとその気持ちを口に出すのが恥ずかしいからモノに託して精一杯の勇気を出してプレゼントした子もいるはずだ。


「そうか」


日吉がわずかに目を細めて、プレゼントをみつめる。少しだけその仕草に心が痛んだのは私の勘違い、なのか。


(勘違い、なわけないか)


自分の気持ちは自分がよく分かっている。だけど、私にはこのプレゼントを用意した子たちのようにはなれない。
きっと、それはこの先もずっと。
たまにもどかしく思うときがある。それを言葉にしてしまいたくなる時もある。でも、それをしてしまったあとのことを考えるとスッと心が冷え冷えとして、いつもその言葉が紡がれることはない。

たった一言。
その一言でも今の関係を壊してしまうと思えば、その一言を口にだせずにいる。


「えっと、じゃあ日吉!誕生日プレゼントなにがほしい?」


暗くなっていた思考を無理矢理かき消し、明るい声を出して日吉へと向き合う。
日吉はきょとんとした表情を一瞬見せたもののすぐに穏やかな笑みをつくり「別に気にするな」と言った。


「いやいや、日吉が気にしないでよ。急だったからなにもできないけど、奢るくらいならできるし」
に奢らるのは、ちょっと、な」

「じゃあ、兄とかほしくない?」

「兄は間に合ってる」
「たまに姉にもなるよ」

「断る!」


はっきりと言い切った日吉。そのあまりの早さの必死さに思わず笑みがこみ上げてくる。
いつもは蔑ろにしてばかりいるけれど、こんなにも拒否されている吾郎が少しだけ可哀想にも思える。

まぁ、奴の場合は自業自得だから仕方がないんだろう。
笑い過ぎて目端ににじんだ涙を拭い、「じゃあ、なにがほしい?」ともう一度日吉に問う。私がなんといってもプレゼントをしないと気がすまないことも日吉も悟ってくれたのか、さっきまでは違い少しだけ考える仕草を見せた。


「…なんでも、よいのか?」
「あ、うん。任せて!」


どうせ日吉のことだから何でも良いのかと聞いてもそんな高価なモノを要求するわけがないことは分かっている。
だから、勢いのままにうなづけば日吉が「じゃあ、」といい私の頭へと手を伸ばして、髪の毛をぐしゃぐしゃとしながら頭をなでてきた。突然のことに戸惑ったものの、私は手をそれを阻止しようと手を伸ばす。

しかし、私の手が日吉を止める前に日吉の手の動きがとめた。手は頭の上におかれたまま、わずかに日吉の顔がこちらへと近寄る。


「今は言えないことがある。だけど、いつかそのときが来たら聞いて欲しい」

「あ、っと、え?」
「絶対に逃げるなよ」


そう言い切ると私の言葉を待たずに日吉の手が私の頭から離れ、日吉との距離が遠のいた。訳が分からない。でも、なにを言ってよいのか分からずにただただ日吉を見上げる。
誕生日プレゼントの話をしていたはずなのに……それのどこがプレゼントになるんだろうか。


「でも、そんなのプレゼントにならないと思うんだけど。別に日吉の言う事だったら誕生日なんて関係なく聞くし、」

「いや、それだけで十分だ。それに、そんなこと言っては逃げ出しそうだからな」


だから、その時は逃げるなよ。プレゼント、くれるんだろう?と、日吉が首を傾けながら言うので私はその言葉に頷いておいた。

でも、そんなことがプレゼントで良いと言われても納得はできずに、眉を寄せて日吉を見てしまう。
しかし日吉は私のそんな表情にも気にした様子もなく目が合えば、口端をあげ日吉は教室の前へとかけられた時計に視線をやった。


「さてそろそろ部活に行かないと鳳がうるさいな」
「あ、うん」


私も日吉と同じように視線を時計へと向けて時間を確かめる。日吉のいうとおりそろそろ急がないと部活が始まる時刻になっていた。
日吉はたくさんのプレゼントを貰ったんだろう紙袋へとつめていき自分の鞄も手に持つと「行くぞ」と私に声をかける。

私も机の上に置いてあっ た自分の荷物を手にして、既に歩き始めていた日吉の後ろをおい日吉の名前を呼んだ。


「じゃあ来年の誕生日プレゼントは楽しみにしててね」
「あぁ、楽しみにしてる」


わずかに振り返りこちらをみていた日吉が前へと視線を戻す。
そのとき後ろにいた私には日吉の口がわずかに動いていたことなんて知る由もなかった。



「逃げるな、と言ったが、逃がすつもりは初めからないけどな」



HAPPY BIRTHDAY!









(2009・12・05)
基本キャラ→←夢主が大好物です^^(聞いてないよ
我慢できずに書いてしまいました!甘くもなく落ちもないです。そして主が平凡主である必要性もない気がしますが、途中の兄をあげる断る!会話を書きたくて平凡主で書かせていただきました。それにしても吾郎が可哀想すぎる。
本編じゃこんなこともなく二人とも苦労人な感じで慰めあってるんじゃないかと思いますが、これはまぁ、パラレルな気持ちでお願いします。平凡で甘い話もかきたくなる季節です。日吉誕生日おめでとう!
当サイトはひっそりこっそり日吉をひいきしております(ぜんぜんひっそりじゃない件について
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