平凡な日々
〜日吉若との初接触〜
と俺は一年から同じクラスだった。
とは、言っても、俺がという人間を知ったのは夏休みの後からと言っても過言ではない
別にという名前を知らなかったわけではない。
ただ、とふかく関わりだしたのが夏休みが終わって一番初めの席替えだったのだ
どうやらはその時まで俺を避けていたらしい。
「だって、日吉美形だったからできるだけ関わりたくなかったんだよ」
なんて本人の目の前で言う女は中々いないと思う。ふつう、本人の前で言うか?
夏休みが終わり、最初の席替えで俺とは席が隣同士だった。
俺としては騒がしい女子が隣よりものような大人しく見えて
・・・・・・今じゃ、そんな風には全然思えないだが、
その時までは大人しいと思っていたと隣になったことは俺にとってはさほど気にすることはなかった
むしろ、あの時の俺に気にする余裕なんてまったくなかった。3年の先輩達が引退し、ほぼ今のレギュラー陣となり、俺の苦労は最大級
とてもクラスで隣の奴が誰かなんて気にする余裕なんてあるわけがない。
一体、あの時俺がどれだけあのテニス部に入った事を後悔した事か!
そんな俺に笑顔で話しかけてきたのが、。
そこで笑顔で話しかけてきただけならまだ普通の女、としか俺は思わなかっただろう。
だが、は笑顔で片手には学校の怪談の本をしっかりと握り締めていた
「ねぇ、日吉くんも、学校の怪談好きなんだね!」
確かに、俺がその時読んでいた本は学校の怪談だった。
しかし、の持っている本は恐いという噂の本で、絶対に普通の女が読むような本じゃない
あきらかに普通の女じゃない、と俺は直感的にそう思った。
普通の女がこんなに嬉しそうに学校の怪談の本で盛り上がるだろうか。いや、盛り上がるわけがない
そんなに俺が驚いていれば、はまた笑顔を作りながら言った
「いやさぁ、学校の怪談とか読んでる人あんまりいなくてさ、話あう人がいなくて
いま少し感動してるよ!!日吉くん、中々良い趣味してるね!」
「・・・・・そ、そうか?」
「うん、絶対そうだよ!ちくしょー、美形だと思って近付かなかったのに、
こんな自分の趣味と同じ人が近くにいるなんて思いもしなかったよ」
「(いま、何か小さい声で言った、ような)」
少々(いや、かなり、か)興奮気味のに、あの時の俺は圧倒されっぱなしだった。本当はこの女、こんな性格だったのか、と思った
そしてが俺のことを呼び捨てで呼ぶようになり、いつの間にかお互いの愚痴を言い合うような仲になっていた。
だが、あいつは始め俺がテニス部だと言う事を知らなかったらしい。
俺としてはあの時はまだ準レギュラーだったから当たり前だと思ったが、
跡部さんのことを「あぁ、名前だけは知ってる。生徒会長でしょ?」と言った時はさすがの俺も驚いた
まさかこの学校にあの跡部さんのことを知らない女がいるとは
確かに跡部さんは電波な感じがひしひしと感じない事もないが、200人の部員を誇るテニス部の部長
この学校では知らない人はいないと言っても良いぐらいな人だ。
なのに、何故この女は知らないんだ、と俺の目の前で本当に何も知らなそうに、いや、むしろ嫌な顔をしているに俺は驚きを隠せなかった
「お前、本当に知らないのか?」
「知るわけないじゃん。って言うか、知りたくもない。だって、そのアトベサンって、美形らしいし、私そんな人に近寄りたくもない。
それにテニス部って美形の集まりらしいし、見に行きたくもないよ」
「(・・・・・俺はその部活に入っているんだが)」
「あぁ、日吉は別だよ?なんだか、苦労してるって感じだからね!」
「そうか、全然嬉しくないのはなんでだろうな」
「・・・・・・・それも、そうかもね」
美形をこれほどまでに嫌がる女がいたのか、と思ったのは俺だけじゃないだろう。
しかし、の話を聞く限り苦労しているんだというのは、分かった
俺も兄はいるが吾郎さんみたいな兄でなくて良かったと本気で思っているぐらいだ。俺はあんな兄はいらない。絶対にいらない
そう思うのはきっとの話のせいだろう。
多分、あいつは俺よりもつらい人生を送っているんじゃないかと、俺は本気で心配になった
そして、事件は2年になったばかりの4月に起きた。
4月と言えば新入生が入ってくる季節。テニス部も例外ではなく多くの1年生が入部してきた
それにあわせて行なわれるのがマネージャー適正試験。
去年まではこんな事を行なわずにマネージャーになりたい奴はマネージャーにしていたが
部員目当てのマネージャーが多く最高でも1ヶ月続けばよい方だった。だからこそ、今年は初めからふるいにかけることとなった
しかし、レギュラー全員はどうせ純粋にマネージャーになれるような奴はいるはずがないと思っていた。
コートのすみで、素振りをする。隣には鳳がマネージャーの試験を少し心配そうに見ていた
「日吉は、マネージャーになれる子いると思う?」
「そんな事知るか・・・・・・だが、いないんじゃないのか」
「だよねー。俺もそう思う」
鳳が苦笑いをしながら再び試験をしているほうに視線をうつす。
3年の先輩達は全員マネージャー試験の方に言っているから今はとても静かだ
しかしここから見ている限りでは向日さんはあきらかにつまらなそうに忍足さんに何か文句を言っているようだし、芥川さんにいたっては寝ている
跡部さんは・・・・・・・眉間の皺がいつも以上に深く刻まれているのは確かだろう
「え〜と、435番です!!」
聞こえてきた名前に、俺は顔をあげる。
声も違うし、は絶対にこんなものに参加するわけがないと思ったが、俺は顔をあげずにはいられなかった
それにしても、希望者は多すぎやしないか?
明らかに多すぎるだろ。普通、マネージャーの試験を行なってこれだけ参加者が居る学校なんて
氷帝のほかにあるのだろうか(・・・・・・なさそう、だな)
顔をあげてみた顔はと似ているわけがなく、どちらかと言えば可愛いと分類されるような女が立っていた
「好きな料理はの作った料理すべてです」
満面の笑みでそう語る、女。誰なんだよ、は、と思えば俺の頭に浮かんだのはの顔。
だが、あの女とがまさか関係があるなんておもうわけもなく俺は素振りを再会させようと思い、ラケットを握りなおす。
その瞬間に聞こえてきたのは、叫び、声だった
「えっ、何なに?!」
「?!」
鳳も俺も、その声のした方を見る。
そこには先ほどの女が倒れていて、何故か長い髪の毛が近くに落ちていると言う一種のトラウマにもなりそうなことも起きていて
そして、そこには何故かいるはずのないが立っていた。
まさか、そんなまさか、と思い俺はあけた口も塞がらない状態だった
「日吉、どうしたの?」と隣で俺に声をかけてきた鳳の声を俺は無視して歩き出していた。
先ほどまでマネージャーの試験が行なわれていた場所は一斉に静かな空間へとかわっていた
あの跡部さんも目を見開き驚いているようだし、芥川さんなんて何か面白いものを見つけたようにいつの間にか覚醒していた
、お前もしかしたら大変な事をしでかしてしまったかもしれないぞ、と思いながら、女を睨みつけるに声をかける
「おい、?」
その声に振り向く。その表情は、なんで俺がここにいるんだ、という驚きに満ちた顔だった
どうやらコイツは今自分がどこにいるのか一切、分かっていなかったらしい。
その後のことは、もうを哀れと思うことしかできなかった。
まさか、あんなに美形と関わる事を嫌がっていた奴がテニス部のマネージャーなんて神様はなんと酷なことをにさせているの、か
何だかんだ言ってマネージャー業も卒なくこなしているもだ。
本気で止めたいと思うのなら、仕事ができないならすぐに跡部さんがマネージャーをクビにするのに、そんな事も考え付かなかったんだろうか
「(・・・・・まぁ、もあの部活に段々と染まってきている事は確かだな)」
面倒見が良いと言うか、頼まれたら断れない典型的な日本人の駄目なタイプと言うか・・・・・・・本当に可哀想だな、
最近部活をしていて思う。
あの先輩達に普通にツッコミをしているは本当に凄いんじゃないか、と
忍足さんへの態度や跡部さんへの態度が普通の女の態度じゃない。まるで痛い子を扱うような態度でこの2人に接している
「なぁ、ちゃん俺にもっと優しくしようと思わへんの?」
「思うわけがないじゃないですか」
「おい、。お前、この前のコールで声出していなかっただろ」
「えっ?!いやいや、そんな事ありませんよ!そんな、恥ずかしくて言えなかったなんて絶対にありませんから!」
「ふん、良い度胸じゃねぇか」
「チッ、私としたことが・・・・・あんなもの言えるわけがないじゃないですか!むしろ、なんで他の人たちはあんなコールできるか私には分かりませんよ」
「アーン、お前良い加減にしねぇと、」
「良い加減にしないとなんですか、このナルシスト部長が」
「て、てめー「ほらほら、二人ともやめよう、ね?」」
「・・・・・はい」
もう毎度お馴染みとなったといっても良い光景。滝さんの笑顔で言われればあの跡部さんもも何も言えなくなる
・・・・・・なんでなのか、は考えてはいけない。あの笑顔で微笑まれると俺でも何も言えなくなる。
はぁ、とため息をつきつつ俺は自分のロッカーを閉めた。
別にこのテニス部が嫌いではないと思う自分に、これだから苦労してしまうのか、と思ってしまった。
だけど、嫌いじゃないと言うのは紛れもない事実、だ。
(2008・01・06)
日吉若との出会い編