家でゴロゴロしながらアイスをほおばりながら、久々のゆっくりとした時間を楽しんでいた。今日も何事もなければよいのだけど、と思いながら食べ終わったアイスのカップをゴミ箱へと投げ捨てる。見事にゴミ箱に吸い込まれていったカップに心中で自分自身に拍手をしていれば、ピンポーンとチャイムが鳴る音が響いた。両親が海外出張中の今、吾郎も部活でおらず、出れる人は私しかいない。


どうせ、セールスか何かだろうと思ったけれど、無視するわけにもいかないので私はゆっくりと玄関に向かう。
ドアの目の前に立てば再びチャイムが鳴り響いた。


「はいはい、どちら様……」


ですか、と言おうとして言葉がとまる。ドアを開けて見上げたそこには、にっこりと微笑んでいる黒曜中の制服を着たあの人。



「こんにちは、

「いやいや、なんで、骸さんが…!」

「君に会いに来ました」



「気持ち悪い冗談はやめて下さい」



私はそういいながら玄関のドアを閉める。しかし、それは叶わずに骸さんが私がドアを閉めるよりも早くドアを掴むと力任せにあけた。見た目は儚げな少年に見えなくもないのに、どこにこんな力があるんだろうと思いつつ、私の視線はゆっくりと骸さんの後ろに見えた小さな影へとうつる。
骸さんはそんな私の視線には気づかずに何かグチグチと言っているようだったけれど、私はその小さな影を見てギョッとした。

骸さんの後ろにまるで隠れるかのようにいる少女は骸さんの制服を掴み、こちらを見上げるように見ていた。



「まったく、人が本気で言ってるのにドアを閉めるなんてどういうことですか!まぁ、僕は君には優しいですから何も言いませんけど、これでも僕も傷つくんですよ?ブロークンハートと言うのはこういうことを言うんでしょうね。本当、君と言う人は」


「すいません、私が悪かったので、それ以上は勘弁してください」


どこの姑だ、と思うほどの骸さんの小言に私はため息を零しながらそう言った。骸さんはその言葉に「分かればよいんですよ」と言って柔らかく微笑む。
だけど、そんな綺麗な表情よりも私の視線は骸さんの後ろの影に行ってしまう。


「えっと、あの、骸さん」

「どうしました?」

「骸さんの後ろにいるのは、」

「今日、僕がここに来た理由です」


骸さんはそう言うと、自分の後ろにいた小さな少女を私の前へとやり、その少女の肩に手を置いた。骸さんの表情は先ほどの笑みとは違い、少し困っているように見える。
私はそんな骸さんの表情を見ながら骸さんにこんな可愛い少女の知り合いがいるんだ、とか、この女の子誰かに似ているとか、色々なことを考えていた。
そして、結論的に、骸さんロリコンだったのか、という考えに至った(骸さんも、と言うのは私の中では雲雀さんもロリコン説があるからだ)



「骸、さま」


「大丈夫ですよ」



不安そうな表情で少女が骸さんを見上げる。やっぱりどこかで見たことがある。右目の眼帯も気になるところではあるけれど、それよりもこの少女が骸さんのことを様づけて呼んだことのほうが気になった。
こんないたいけな少女に何プレイを望んでるんだ骸さん……!自分の事を様付けで呼ばせて、何をしようとしているんだろうか。そう考えると嫌な考えしか浮かばずに、骸さんがマジで変態に思えてきてしまう。

いやいや、確かに骸さんは変態だけど、そこまでじゃないはず。だけど、目の前で骸様と、骸さんのことを呼ぶ少女の存在が骸さんがマジで変態だと訴えているようにも思えた。


「(あれ、でも、骸様って……)」


右目に眼帯をつけ、骸さんのことを骸様と呼ぶ少女。一人だけ思い当たるふしがある。だけど、目の前にいる少女は小学生にも満たなそうな女の子で……でも、最近の身の回りを考えるとなんとなく、まさか、とは思いながらも予想できた。


「骸さん、まさか、この子」

「そのまさかですよ。この子は、クロームなんですよ」


「えー……」


「えー……じゃないですよ!突然クロームが子供になってしまったんですよ!!見てください、この愛らしい姿」


「黙れ、変態。あんた、そっちの趣味もあったんですか。このロリコン



「なっ、違いますよ!それに僕は一途な男なんです!に一途に
「初めまして、凪ちゃん。私はって言うんだよー?」


「無視ですか!またこの僕を無視!…まぁ、それでどうして良いのか分からなくなってのところに連れてきたんです」



「正直、骸さんにしては良くやったと思ってます」



いきなり小さくなったのでびっくりしました。とぼやく骸さんに、私はここにはいないリボーンに悪態をつきつつ、立ち話も何なので、と言いながら家の中へと招きこんだ。吾郎に骸さんを家の中に招きこんだことがバレたら煩そうだけど(何故か仲が悪い二人。多分、同属嫌悪)




***




ソファーに座る骸さんと凪ちゃんの目の前に、骸さんには紅茶を凪ちゃんにはオレンジジュースを置いた。もちろん、自分にも紅茶を淹れ骸さんの目の前に座る。凪ちゃんは私の要望で隣に座ってもらった。


「それで、なんで私のところに来たんですか?」


いきなり小さくなった、と言っていたということは骸さんは何故、凪ちゃんがこうなったかなんて知らないんだろう。なのに、どうして私のところに来たんだろうか、と言う疑問が沸きあがり、私はそれを骸さんに問うた。骸さんは私の言葉に眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情を見せる。


「どうせ、こんなことができるのはアルコバレーノくらいでしょう」


大当たりですよ、骸さん。


「ですか、アルコバレーノがいるであろうボンゴレの家に行くのは癪でしたから。彼らと仲が良いなら戻る方法を知っていると思って」

「はぁ……」

「それに、の家に行く良い口実ができると思ったんですよ」


どこのホストだ、あんたは。と言う言葉は飲み込んで、私は紅茶を一口、口に含んだ。骸さんは変態だ、変態だと思っていても頭は良いんだ、と感心してしまう。
普通身近な人が急に小さくなったら驚くだろうに、あまり驚いた様子も見せずに、私の家まで来るとは。もしかしたら、私にとって非常識のことでも、彼にとっては常識の範囲内のことなのかもしれない。


「凪ちゃんは2時間くらいで元に戻れますよ。あ、そうだ、凪ちゃんクッキー食べる?」


凪ちゃんに視線を合わせて聞けば、凪ちゃんはコクンと頷いた。うわぁぁぁ、可愛いわ!男の子とは違った可愛さが女の子にはあるわ!と思いながら、私は立ち上がるとクッキーをとりにいった。



「美味しい?」

「うん……美味しい」



美味しそうにクッキーを食べる凪ちゃんは、そりゃもうやっぱりとても可愛い子でした。思わずその可愛さに私は凪ちゃんへと抱きつき「可愛いー」と言えば、凪ちゃんは少し恥ずかしそうに顔を赤くさせながら「おねーさん、」と私の名前を呼んだ。その可愛さに私は思わず凪ちゃんを膝の上に乗せて、凪ちゃんの頭を撫でていた。


う、うらやましすぎますよ、クローム……!


「ちょっと邪魔しないで下さいよ、骸さん」

「なら、僕にもそうしてくださいよ!」

「あはは、寝言は寝て言えって以前言いませんでしたか?」

「僕は寝てません。本気で言ってるんです!


なお更、たち悪いですよ。なんですか、その発言セクハラで訴えたら私勝てますよ」

「僕は君の上司じゃありませんよ?」



「そういう意味じゃねぇよ!!」



もうだめだ。骸さんには何を言っても通じない。そう思いながら、自分の膝に座るを見ればこちらを見上げていた凪ちゃんと視線があい、私はゆっくりと微笑んだ。それに凪ちゃんも笑みを返してくれ、私は再び頭を撫でてあげた。


「嬉しい」


ポツリと零された言葉に、私と骸さんが視線を合わせる。凪ちゃんは本当に幸せそうに笑いながらその言葉を言った。私と骸さんには何となくこの言葉の意味が分かった。
あまり深くは話そうとしてくれなかったけれど、私は骸さんと出会う前の凪ちゃんのことは少しだけ知っている。だからこそ、この言葉の重みを私は分かっていた。

彼女にとっては、抱きつかれることも頭を撫でてもらうことも、中々なかったことなんだろう。



「私も凪ちゃんが、笑ってくれたら嬉しいよ」


「……僕もですよ」


私の言葉に骸さんも微笑む。まさか、私の言葉に同意するとは思わなかった骸さんの一言に私は少しだけ嬉しくなった。骸さんもあまり口にはしないけれど、千種くんや、犬くん、そして凪ちゃんが大切で仕方がないんだろう。

だから、いきなり小さくなった彼女が心配で私のところまでわざわざ来たんだと思う。骸さんは気づかれていないと思ったかもしれないけれど、私が玄関で骸さんを招いた時、骸さんは額にうっすらと汗をかいていた。凪ちゃんには汗をかいた後なんてまったくなかったところを見れば、骸さんが凪ちゃんを抱えてここまで走ってきたことなんて容易に推測できた。
走る骸さんなんて想像できないけれど、きっと、この推測はあながち間違ってはないと思う。


「うん」


一粒の涙が凪ちゃんの頬を伝った。


「ほら、泣かないで」


そう言いながら、私が凪ちゃんの頭を撫でれば骸さんは立ち上がり、凪ちゃんを抱き上げた。「泣かないで下さい、可愛い僕のクローム」と言いながら凪ちゃんの背中をさする骸さん。可愛いのは一体、僕なのかそれとも凪ちゃんなのか気になったところではあるけれど私はつっこまずにただその様子を見上げた。
優しい骸さんの表情からは、普段の変態な骸さんなんて考えられない。
普段からこれでいればよいのに、と思ったのはここだけの話でそんなことを思いながら二人を見ていれば、骸さんと目が合った。



「なんだか、こうしてると夫婦に
「全然見えませんからね?」



やっぱり骸さんは骸さんだった。一瞬でも、かっこ良いかもしれない、なんて思った私の頭をぶん殴ってやりたい。その後、無事に凪ちゃんはいつもの凪ちゃんへと戻った。骸さんだけは何か考え事をしているのかブツブツと言っていて、それに何故か悪寒がはしり、私は自分の腕をさすっていた。





クローム髑髏育成日記






(クフフ、良いことを思いつきました)
(凪ちゃーん、ちょっと二人ででかけようか?!)
(え、うん……)
(あれ、僕は誘ってくれないんですか?!)






(2008・09・05)