学校からの帰り道。とは言っても今日は土曜日だからまだまだ日は高いところにある。
さて、そんなことは今の私にとってはどうでも良いことであり、今私が気にしなければいけないことは目の前の現実だった。
「……」
またか、と頭を抱えたのは言うまでもなく、私はハァとため息を零した。私の家の目の前でこちらを睨みあげる子供。真ん中で分けられ、少し長めの銀色の髪。そして、幼くなってもかわることのない目つきの悪い瞳。
「今度は、獄寺が標的になったか……」とボソリと呟いた瞬間に、私の肩に重みが加わった。
「ちゃおッス」
「……リボーン、また撃ったの?」
すぐとなりを見れば、そこにはリボーンのどアップが。特段それを気にすることなく、獄寺に視線をやりながらそう言えばリボーンはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
ここ最近、そんな笑みばかりじゃないですか、リボーンさん?いや、まぁ、正直、ありがとう、って言いたいのは山々なんだけど(一瞬、女の子か!って言いたくなるくらい子獄寺は可愛いし)でも、明らかにこちらを獄寺は睨んでいるのは間違いないことで私は頭を抱えて今の状況を呪った。獄寺よ、私じゃなくてリボーンのせいだからな。それだけはしっかり分かってくれよ。
獄寺が元に戻った時のことを考えて私は、自嘲地味た笑みを浮かべることいがいできなかった。
「お前が、か」
「(いきなり呼び捨てかよ)」
生意気な態度。それでも可愛いと思ってしまう自分が憎いよ(クソッ、本当にこれじゃあ骸さんと同類じゃないか!!)だけど、さすがにこんな人通りのあるところで近所さんの目があるにもかかわらず、こんな子供に怒鳴りつけることなんてできはせず「うん、そうだよ」と言って私は獄寺と視線を合わせるためにしゃがみこんだ。
そして、聞きたい。
何故にこいつは子供用のスーツを着ているのかと!
半ズボンが可愛いなんて思ってる時点で、自分はもはや骸さんと同類じゃないかと!
でも、さすがに私はそんなことを誰にも聞けるわけもなく、獄寺を抱き上げると、リボーンに「……それで、これはどうすれば良いの?」と聞いた。抱き上げられた獄寺が何か言っているけど、ここは無視する。
「(どうせ、今は何やってもこいつのお得意のダイナマイトはだせないに決まっているし)」
「ツナは補習があるから、面倒見てやってほしい。」
……ツナの補習。その言葉を聞いて、私はなんとなく今獄寺がこんな姿になっているのか気づいたような気がした。ツナの補習、イコール獄寺はきっと無駄にはりきることだろう。そして、それはやっぱり空回りしたことは間違いなく、邪魔だ、と思ったリボーンは丁度ボンゴレが開発した特殊弾を獄寺へと撃ったに違いない。で、その厄介払いとして私が獄寺の世話係に回されたんだろう。
「ツナの為だし、しょうがないね。良いよ。面倒見る」
「そんなこと言いつつ喜んで「あーあー、何も聞こえなーい!」」
ツナの為だ、とは自分に言い聞かせながらも、やっぱり私は可愛いものが好きで、それがどんなに獄寺であったとしても、小さい頃と言うのは生意気でも許される。
もちろん、中学生獄寺も、あの顔の良さで大概のことは許されると思うけど(だけど、私は許せないよ!!顔が良くても、ムカつくものはムカつくんだよ……!)
リボーンは「じゃあ、あとは任せたぞ」と言って、いつの間にか私の肩からは重みが消えていた。
「とりあえず、家に入ろうか」
重たい鞄と小さくなった獄寺を抱えたまま、私は家のドアをあけた……今、思ったんだけど、これ獄寺が戻った時どうするんだろう。どうにかその前にツナの補習が終わって私の家に迎えに来てくれることを私は小さく祈る。
もしも、2時間たってツナがこなかった時は私の家はダイナマイトで吹き飛んでしまうかもしれないから。お願い、ツナ!!早く補習を終わらせて私を助けに来てね!
さすがにすむところがなくなるのはものすごく困るから…!
***
獄寺を居間でおろすと、獄寺はいまだ不機嫌そうにこちらを見上げていた。
正直、前回、雲雀さんとツナの時は二人とも可愛く私に懐いてくれてきたのだけど、どうやらこの子は極度の人見知りらしい(まぁ、見た目どおりだけど)(雲雀さんが懐いてきたときは正直、別の意味で怖かったけど)
とりあえず、このままにしておくのもなんだし、仲良くなって損はないというか、むしろ本当は仲良くしたくてたまらないんだ!みたいな願望はある
……やっぱり、自分気持ち悪いなぁ。
なんかリボーンが特殊弾使うたびに、自分が気持ち悪くてたまらなくなってきた。いや、でも、しょうがないのかもしれない。だって、小さくなった皆は普段からは考えられないくらい癒し系なんだから。
この人たち、ツナ以外大きい時は癒しの欠片も見せやしないし。見せたら見せたで、気持ち悪いってことこの上ないのは分かりきった事なんだけどさ、
「(とりあえず、獄寺の機嫌をとる方法はっと、)」
不機嫌そうな獄寺を前に私はあごに手をやりながら考えた。中学生獄寺なら、ツナの話をすれば一発で機嫌が戻る。それはもう犬の尻尾と耳がついてるんじゃないかって思うくらいに、喜んでくれるけど、だけど、今はツナのことさえ知らない獄寺だ。
それに、聞いた話によると獄寺は幼少時代は城にいたらしいし、私は生まれて今まで庶民で生きてきたからそんな城に住むような坊ちゃんを楽しませるような術は持ち合わせてはいない。
何か獄寺の好きなもの、好きなもの、と思い出してみても、ツナの顔しか浮かんでこず、私はバレないようにため息をついた。 本当にどうしよう。頭をかかえそうになりながら、私はふと視線を獄寺のほうにもどした。
獄寺の視線があるところで止まっている。その先にあるのは、この家でただの置物になっているような一つのピアノだった。お父さんとお母さんが買ってくれたものだけど、とてもとても残念なことに私は一切の興味を示すことはなかった。女の子なのに、と幼き頃嘆かれたあの一言は未だに忘れていない。
「ピアノ、弾きたいの?」
「べ、別にそんなんじゃっ!」
獄寺の扱い方、その4。獄寺は素直にやりたいことをやりたいとは言わない。
それを思い出した私は獄寺に「おいで」と言いながらピアノの前まで来た。使ってない割には掃除はちきんとしてくるから、状態としてはきっと悪くはないだろう。
獄寺をピアノの前にある椅子に座らせてあげれば、それはそれはキラキラした瞳で鍵盤を見ていた(……本当、こいつ目でかいな)今の獄寺からは、ピアノが好きだなんて聞いたことのない私は多少その表情の変化に驚きながらも、「弾いても良いよ」と言っていた。
獄寺は恐る恐る鍵盤に触る。
ピアノの音色が静かな家に響いた。ずっと、眠っていたピアノが今まさに、綺麗な音色を響かせる。
獄寺の小さな手が様々な音を作り出す、光景はまさに圧巻と言ってよいものだった。こんな小さな手でそこまで、できるものなのか、と。正直、ピアノが弾けない私はうらやましいと感じた。
「楽しい?」
「うん!」
「(クッ、可愛い……!)」
思わず心の中でガッツポーズ!やったよ、私可愛い笑顔ゲットしたよ!と、思わず二やけてしまいそうになるのをおさせて「なら良かった」と言った。だけど、ピアノ一つでここまで嬉しそうな顔してたら、その内どっかの変態に連れていかれてしまうんじゃないかと不安になる。
いや、まぁ、あと2時間もしないうちに中学生獄寺に戻るけど(そして、ダイナマイトを振り回すけど)
僅かに感じた視線に、獄寺と視線を合わせれば先ほどは嫌そうな顔をして私の名前なんて呼び捨てにしていたにも関わらず、獄寺は「ねーちゃん」としっかりと私の名前を呼んだ。
「…ありがと」
お母さん、私はやったよ!妙な達成感を持ちながら、私は獄寺の演奏するピアノの音に耳をすませていた。目を閉じれば、まるでその情景が思い浮かぶかのような演奏。
獄寺って何でもできたんだ、と思いながら私の意識はいつの間にか沈んでいった。
「寝て、た?」
どうやらいつの間にか私は寝てしまっていたらしい。目を覚ませば、ピアノの演奏は止まっていて、私は僅かに自分の膝に重みを感じて視線を下へとやった。
「・・・・っ!!」
咄嗟に声にならない叫び声をあげる。可愛い寝顔で、何故か私の足を膝枕にしてすやすやと気持ち良さそうに寝る獄寺。なんで?!なんで?!とパニックになりそうになるのをなんとか押さえ、寝ている獄寺を起こさないように、私は焦っていた。
だけども、焦っても、こんなに気持ち良さそうに寝ている子を起こすようなことなんてできず、ましてやスヤスヤと寝ている姿はそれは天使のようだ、なんて口にすることも出来ずに私は静かに、獄寺の頭をなぜた。
さらさらの髪。僅かに窓から入り込む日の光が、銀色の髪をキラキラと輝かせていた。
「おかー、さん」
「……獄寺、」
僅かに眉を寄せて、その言葉を紡いだ獄寺。嫌な夢でも見ているんだろうか、と思った私は「大丈夫だよ」と囁きながら、再び、瞼を閉じて、僅かな時間、獄寺の髪の毛の感触を楽しんでいた。
獄寺隼人育成日記
(な、な、なにしてんだ、テメー!)
(あー、獄寺起きた?って、落ち着けー!誰かー!!……いや、ツナー!)
(2008・08・06)
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