ある朝、おきてリビングに行ってみればリビングには小さくなった少年が一人、ソファーに座っていた。
「おねーちゃん?」
私はまたもや出現した可愛らしい生物に頭を抱えながらため息を一つ零した。またですか、この展開。やってられませんよ、まったくもう。なんていえないのは目の前にいる生物が大きな目でこちらを見ながらにっこりと微笑んで「おねーちゃん」と私の名前を呼んだだから何でしょう。
前回のことでご了承済みかと思いますが、私本気で可愛い生物大好きなんです。それはもう、普段色々美形な人たちから散々な目にあってるせいで癒しを求めてしまうんです。断じて、ショタコンなわけではなくもちろんロリコンなわけでもなく、ただただ小さい子はその場にいるだけで癒し系の存在だと思っている限りなんでございます。
だけど、よく考えてください。
何故、彼が私の目の前に。そして何故、リボーンはその子の隣でにやにやした笑みを浮かべてるわけ?また、お前の仕業かと思いながらも、こんなことできるのはリボーンしかおらず、そんなリボーン相手に私は何も言うことなんてできるわけもなく、呆然とした顔つきでリボーンを見た。
「この前、頼まれたからな。ボンゴレの研究チームに頼んでまたあの特手弾をわざわざお前のために貰ってきてやったんだぞ?」
嬉しいような嬉しくないような心がけありがとうございます。いや、本音としては嬉しいんだけど、でも、その撃たれた人はかわいそうだ、と思うのが当たり前のことで………そう思いながら私は視線をいつもよりも幾分も小さくなった少年へとやる。そして、今回その特殊弾をうたれ、栄えある犠牲者として選ばれたのが、
「……なんで、ツナなの」
「さすがに雲雀の奴に二度目は通用しねぇと思ってな」
そんな風に言われては何だか私がツナに申し訳ないような気がしてならない。雲雀さんが小さくなった時にリボーンにあんなこと言うんじゃなかったと今更後悔だ。あんなこと言わなければ今頃ツナもこんな小さくならなかったと思うのに。ごめんね、ツナ。でも、その姿可愛すぎだよ。こんな時に不純でごめんね。
ツナに対する罪悪感がひしひしと沸いてきながらも、私はそっと蜂蜜色をしたツナの髪の毛へと伸ばす。無重力な髪をしている割には柔らかく気持ちよい感触のする髪の毛。さすがリンスをしているだけのことはあるな、と心の中で思いながら何度がツナの頭を撫でれば最初はきょとんとした顔をしていたツナは嬉しそうに笑いながら「きもちいい」と言った。何、この子。恐ろしい子……!
駄目ツナ、駄目ツナと普段言われているらしいツナ。そのことを聞くたびにそいつら殴り殺してやろうかと思うこともあるけれど、やっぱりツナだって普通に見えて顔だって良いし、凄いんだ。こんな可愛い顔をした子、本当に将来有望じゃないか。
それなのに、そんなことも知らない下種野郎はツナを駄目ツナだと罵るんだろう。所詮、そんなことを言う奴らの顔だなんてたかが知れている。
「今度、殴り殺してやろ」
「。ツナが怯えてるぞ」
リボーンに言われてハッとする。こちらを少しだけ怯えたような目で見ていたツナに私は「ご、ごめんね」と言いながら笑顔をつくるとまた何回かツナの頭を撫ぜた。しかし、今の言葉は冗談ではない。
今度、機会があれば並中に乗り込んで(……いや、まぁ、確かに毎週風紀の手伝いで並中に行ってるけど)そいつらを京子ちゃんや花ちゃんたちがいないところでぶっとばしてやりたい。
その時は、少しだけ草壁さんの力を借りよう。草壁さんに事情を話せばきっと協力してくれるはずだ。どこかの委員長と違って見返りなんて草壁さんが求めるはずはない。
「じゃあ、ツナ何したい?」
「う〜ん」
グッジョブリボーン!思わず親指を立ててリボーンにそんなことを言おうとしてしまった。危ない危ない。そんな事してしまったら思いっきりツナを裏切ってしまったのようなものじゃないか。そう思いながらリボーンの方に視線をやれば「顔がニやついてるぞ」と言われた……自分、気持ち悪いな。改めて自分が今どれだけ気持ち悪いのか思い知ってしまい、ツナの肩に両手を乗せたままうな垂れた。
私、こんなキャラじゃなかったはずなのに。こんな気持ち悪いキャラ、骸さんだけで十分なのに。
あはは、と自嘲地味に零れる笑いに、ツナがこちらを見上げ「おねえちゃん、大丈夫?」と言いながら私の額に手を伸ばした。ペチンと音を立ててツナの小さな手のひらが私の額にあたる。
「ねつ、ない?」
「……っ!」
誰だよ、こんな可愛い生き物を生んだのは!(それは、まぁツナのお母さんだけど!)(ツナのお母さんもすっごい可愛いからな)私はツナの小さな手をとると「大丈夫だよ」と言って微笑んだ。そうすれば、ツナも微笑みながら「良かった」と返してくれる。
「じゃあ、心配してくれたお礼にお姉ちゃんがツナの好きなもの何でも作ってあげる。何が食べたい?」
「ホットケーキが食べたい!」
元気良く答えるツナ。その答えに私は台所にある材料を思い出した。ついこの前ホットケーキを作ったばかりだから、その材料が残ってるはずだろう。よし、じゃあ良い子で待っててね、とツナの頭を撫でながら立ち上がると台所の方へと歩き出した。
しかし、スカートを引っ張られる感触に私の足はとまる。引っ張られたほうを見てみればツナが私のほうを見ながら「ひとり、さみしい」と今にも泣きそうな顔で私を見上げていた。すみません、お姉さんはこんな子を置いていけるほど薄情な女じゃないんです!と、誰に対しての言い訳かも分からない言葉を言いながら、私はツナの手をつかみ、「じゃあ、一緒に作ろうか」と言ってツナと一緒に台所に向かった。
「特殊弾の効果は2時間ぴったしだぞ」
「それだけあれば十分!」
***
ホットケーキミックスをかき混ぜながらスカートを掴むツナを見る。強く握られたスカートのすそは少し皺になっているけれど、これが掴んでいるのがツナだから私は別に気にもしなかった。だって、可愛いし。とりあえず、可愛いし。ものすごく可愛いし(……自分、本当気持ち悪いなぁ)
「ホットケーキには何つけて食べようかな」
そう思いながらガチャガチャと冷蔵庫の中をあさくり、お目当てのものを取り出してテーブルの上へと置いた。そして、台所にもどり、ホットケーキを私とツナとついでにまだいるであろうリボーンの分を作る。
さすがホットケーキミックスのおかげが失敗なんてせずに綺麗に美味しそうにホットケーキは出来上がった。ホットケーキの乗った皿をテーブルまで運び、ツナを抱っこして椅子へと座らせてあげる。目の前に置かれたホットケーキに目をキラキラさせているツナを見ると、可愛くて可愛くて(……少し、落ち着こう。そうしないとこのままじゃ変態になる。骸さんになってしまう)だけど、あんまりいつものツナと変わりがないように思えて私は笑みを零した。こちらを見上げるツナの顔は早く食べたいと言っているように見え、私は自分の席に着いた。
「いただきます」
「いただきます!」
元気良く言うとツナは目の前のホットケーキを美味しそうにほおばった。あまりの可愛さに少しだけ自分の世界に入っていれば「……だらしのねぇ顔だな」と隣からあきれたような声が聞こえてきた。分かってる。自分でも嫌ってほど分かってるから、あえてそれを口にするのはやめて欲しい。自分でも分かってはいるけれど、少し傷つくから。とりあえず、その後に「他の奴でも試してみるか」とボソリと聞こえたとても赤ん坊とは思えないような言葉は無視の方向でいこうと思う。
沢田綱吉育成日記
(リボーン、俺で試すのはあれだけやめろって言っただろ!それもに迷惑までかけて!)
(いやいや、全然迷惑じゃなかったからツナ!!むしろ、少し喜んじゃったから……!)
(2008・07・02)
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