私はドアの隙間から見える光景に絶句した。ドア一枚をはさんで見えるその光景。まさかの光景に、私は今すぐにここから走り出して今見ている光景を否定したかった。もし今見ている光景が夢だとしたのなら、私は誰から殴られても良いからこの夢から覚めたい気持ちで一杯になった……いや、別にそんな趣味はないけど。でも、もしこれが夢だったなら私は本当に早く目が覚めたかった。気味が悪いなんて口に出していうことはできないけど、ドアの隙間から見える光景は私にとっては気味が悪い、光景で、できれば現実として認めたくない光景だった。典型的なやり方ではあるけれど自分の頬をつねってみた。ちょっとした痛みが私の頬に痛みが走った。
「(夢、じゃない……?!)」
どうやら私が見ているものは現実であり、夢ではなかったらしい。嫌だよ。私こんなの現実なんて認めなくないよ。だって、あの雲雀さんがあの骸さん達との戦いで雲雀さんに懐いたと言われる鳥(ツナの話によると何やら変態さんみたいな人の鳥だったらしい……)と仲がよさそうに群れていらっしゃるんだよ!あぁぁぁ、もうこれって何?!これが夢じゃなければ何を夢って言うんだよ!人とは群れないくせに鳥とは群れるのかよ!と思わず口に出してツッコミをしてしまいそうなのをなんとかこらえ、私はドアの隙間から雲雀さんが黄色い鳥とたわむれているのをのぞき見ていた。少しだけ微笑んでいるように見えないこともない雲雀さんの顔。その顔は確かにかっこ良いと分類されるものであったのは確かだ。
「何してるんだ、?」
「あ、草壁さんじゃないですか」
私を呼ぶ声に右を向けばそこにはまるで不審者を見るような目でみる草壁さんがたっていた。手には書類が握られていて、それをきっと雲雀さんに届けに来たんだろう。そして、応接室を覗き込んでいる私を不審に思い、声をかけてきたということは容易に推測できた。でも、できることなら草壁さんには応接室を覗き込んでいる姿は見られたくなかった。あきらかに、私の今までのイメージを崩しかねない姿だったのは間違いない(あぁ、私としたことがそんな姿を草壁さんに見られてしまうとは……!)(なんたる失敗!できることならまだ平風紀委員に見られたほうがましだった!)
「いや、今この応接室の中では未知なるものが……ここでは仮にK.Hさんとしときますが」
「委員長のことだな」
「ちょ、ちょっと草壁さん!確かにそのとおりですけど、声が大きいですって!!」
「あ、あぁ、すまん……(って、俺はなんで謝ってるんだ?)」
「えっと、それで話を戻しますけど、今そのK.Hさんがこの応接室にいるんですよ」
「(そんなの当たり前だと思うんだが)」
「それで、な、な、なんとですよ!そのK.Hさんがあの、黄色い鳥と戯れていらっしゃるんです……!」
「そ、そうか」
「おかしいと思いません?!あの雲雀さ……Hさんですよ!Hさん!」
「別に無理にHさんと言い換える必要はないと思うが、(本当にこいつ委員長のことどう思ってるんだ?)最近、確かに委員長はあの鳥といるところが多いな」
「あの雲雀さんが……Hさんが鳥と一緒にいるなんておかしいと思わないんですか草壁さんは!いえ、別に鳥と一緒にいようがそれはどうでも良いんですが、あのHさんなんですよ?!鳥でも人でも、群れていれば一目散に咬み殺すと言いながらトンファーを振り回す雲雀さんですよ?!」
「うん、分かった。分かったから落ち着け、(大体こいつが委員長のことをどう思っているのかは、わかった)」
はぁ、とあきれるようにため息をこぼす草壁さん。あぁ、もうちょっと草壁さんはおかしいと思わないんだろうか!だって、あの雲雀さんが!あの雲雀さんが、少しだけ微笑んでいるなんて!天変地異もおきてもおかしくないような光景なのに(とりあえず、今の天気は晴れか……洗濯物干してきたから雨は降ってほしくないんだけどな)
「私、最近、目が疲れてるのかな……」
「(そんなに、委員長と鳥が一緒にいるのを認めたくないのか。本当にこいつ委員長に対しては凄く失礼な奴だな……まぁ、それでも許されるのがなんだろうが、)」
とりあえず、俺は委員長に渡すものがあるから、と言って草壁さんは私の声を無視して応接室のドアをノックした。向こうから返ってくる声を聞き、草壁さんは応接室のドアを開ける。草壁さんの背中から覗き込むように応接室の机に座っている雲雀さんを見てみれば、先ほどの鳥に向けた笑顔はなくいつものようにまるで睨んでいるかのような鋭い瞳に、口は不機嫌そうで口端は落ちていた。まったく、本当に同一人物かよ!
「……なに?」
「この前の、予算のことなんですが」
「あぁ、その事ならさっき校長と直々に話してきたから」
「(校長と直々に?!)」
そのとき、校長はきっと生きた心地はしなかっただろう。それも、少しだけ雲雀さんの口端が上がり、ニヤッと言う笑いかたになった(あぁ、話し合ったと言うよりは脅したって言ったほうが正しいんだろうね)嫌な笑い方。雲雀さんが私に笑いかけるときはいつもこんな笑い方だ。あんな鳥に向けていたような穏やかな笑顔なんて一回も私に向けたことなんてない……もしかしたら、私の見間違いだったんだろうか。そのほうが納得できる。雲雀さんがあんな笑い方するわけない、し。でも、見間違いだったとしてもあの顔は純粋に綺麗だった、なぁ。
「それで、君たち応接室の前で何を話してたわけ?」
その言葉に草壁さんと私の顔は一気に青ざめた。何を話してた、と聞いてきたっていうことは、雲雀さんはあの話を聞いていないはず。もしも、聞かれていたとしたら私は確実にこの世のグッバイしないといけなくなるだろ。草壁さんがこちらをちらりと見た。先ほど草壁さんは失礼なことは全然言ってない(ず、ずるいよ、草壁さん!)私は草壁さんを見上げて、目でどうにか、あの話は秘密にしてくださいと訴えた。草壁さんがそれを理解してくれたのかは分からないけど、一息ついて雲雀さんのほうを見る「少し……並盛中の校歌のよさについてと語りあっていました」グッジョブ草壁さん!と私は心の中で親指をたてた。雲雀さんはその言葉に少しだけ驚いた顔をしながらも一瞬でいつもの不機嫌そうな顔になり「そう」とだけ呟いた。
沈黙。まさに今の状態はその一言につきる。
「……では、失礼させて頂きます」
そんな沈黙を破る草壁さんの言葉(く、草壁さーん?!)(ちょっと、この気まずい空気の中に私を一人取り残しておくつもりですかー?!)「わ、私も失礼、」とそこまで口にだすことができたのに、雲雀さんにギロッと効果音のつきそうな目でにらまれてしまい、私はその先をいうことはできなかった。草壁さんは私に、アイコンタクトですまん、とだけ言って応接室から出て行く。ばたんっと、ドアの閉まる音がして、私は少しだけ泣きそうになった。
「じゃあ、さっき草壁と話してたこと言いなよ」
「いや、別に校歌のことで盛り上がっただけで」
「僕が聞いているのは本当のことで、そんな嘘の話じゃないんだけど。君、自分の声が大きいってこと気づいてた?」
「(気づいてませんでしたー!!)あははは、な、何言ってるんですか!校歌のことについて、」
「早く言え」
スッと雲雀さんの瞳が鋭さをまして、私をにらむ(バレてました、草壁さん!)
「……えっと、ですね、私の見間違いかもしれないんですけど、」
先ほど、私が覗いてみていたことを雲雀さんに伝えた。もちろん、そのときの私の気持ちについては一切ふれてはいない。さすがに気味が悪いなんて言えるわけがない。雲雀さんは私の言葉に少しだけ目を見開き、そしてあきれた顔になっていた。
「君、覗きの趣味が「あるわけないじゃないですか!」」
そんな趣味あってはたまるか!と思い必死に弁解すれば、雲雀さんは興味なさげに返事を返した(あ ん た が 言 っ た く せ に !)なんだかムカついたので睨んでいれば、「何、その顔。気持ち悪い」と本気で気持ち悪いものを見るような顔で言われた。むかつく!
「よし、雲雀さん、ちょっと表にでましょうか?」
「へぇ、別に良いけど」
雲雀さんの気持ち悪い発言に思わずむかついた私は獄寺に言うような一言を口走る。その言葉に、少しだけ口端をあげて嬉しそうに雲雀さんがチャキッとトンファーをとりだす姿を見て、私は即座に謝った。自分の変わり身の速さは雲雀さんとの会話で身についているんじゃないかと思う今日この頃。だけど、危ない、危ない。もう少しで黄泉の国へと旅たつところだった、と思っていれば、雲雀さんの肩に止まっていた黄色い鳥が私のほうへとパタパタと可愛く近寄ってきた。一番初めにこの鳥に対して持っていた感情も今はなく純粋に可愛いと思える(焼き鳥にしてやろうか、なんて今は微塵も思ってない)(って言うか、雲雀さんの鳥にそんなことできるわけがないしね……!)
「!!」
黄色い鳥がいきなり私の名前を呼んだことに私は驚きを隠しきれずに、「えぇ?!」と驚いた声をあげてしまった「うるさい」と雲雀さんが僅かに眉を寄せて、私のほうを見る。いや、でも、これって、これって!確かに、校歌歌ったりしちゃう鳥だから頭良いんだーとか思ってたりしたけど、実際自分の名前をいきなり呼ばれたら驚くに決まっている。うわー、うわー、凄っ!この鳥、すっごいんだけど!鳥に名前を呼ばれたことがあまりに感激してしまった。
「わー、凄いですね!雲雀さん!本当、この鳥凄っ!」
そう言って興奮の冷めないまま雲雀さんに言えば、雲雀さんが「」と私の名前を呼んだ。雲雀さんの顔を見れば、その顔には先ほど私が覗いていたときに見せた笑顔を浮かべていて、私は思わず見惚れた。私の見間違いじゃなかったんだ、と思うと同時に、私にその笑顔が向けられたことが何故だか嬉しくて、私はいつの間にか頬が緩んでいた。さすがに、笑った顔が綺麗だなんて雲雀さんに言えるわけがないけれど、本当にその笑顔は綺麗、だった。さっすが雲雀さん、顔だけは良いですよね!
「君、何か失礼なこと考えて「なんてあるわけないじゃないですか。全然そんなこと考えてません。マジです。本気です」」
(2008・04・19)
奇跡の19巻の話
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