久しぶりに黒曜ヘルシーランドへと足を踏み入れれば、何故か千種くんと凪ちゃんが喧嘩をしていた(め、珍しい!)犬くんは部屋の隅のほうでまるくなってその光景を見ていて、さすがに私もその二人の間に割って入ろうなんてとてもじゃないけど思えるわけもなく二人に気付かれないように部屋の隅を移動しながら、私は犬くんの隣に腰を下ろした。

犬くんは私が隣に座った事に一瞬驚いている様子だったけど、すぐに聞こえてきた二人の声のほうに視線が向いた。私と犬くんは部屋の隅で丸くなりながらその光景に視線を向け、会話をする。








「ね、犬くんこれって何事?夢・・・・とかじゃないよね?」




「夢なんかじゃねーびょん。現実れすよ」




「いや、だって、千種くんと凪ちゃんが喧嘩って珍しくない?」









うーん、まーな、と言いながら犬くんは語尾を濁した。いや、喧嘩と言う表現は間違いかもしれないと言う事だけいっておこう。二人は言い合いをしているというわけでも、ものを投げ合うような喧嘩をしているわけではない。


ただ、二人は静かに見つめあっている。ただし、恋人がかもし出すような甘い雰囲気なんて一切でていない。二人の間には何か黒いもやもやが見えるような気がするのだ。あれ、私の見間違いかななんて思って目をこすっても黒いもやもやは一向に消える気配を見せない「今日の晩飯どーなるんらろ」・・・・・・お前の心配はそこか!




思わず犬くんにツッコミそうになるも、二人の様子が気になりツッコミもままならない。ツッコミのできない私なんて、具の入っていない味噌汁のようなものなのに!








「で、あの二人に何があったの?何があの二人を変えてしまったの?」










「・・・・へぇ、がね・・・・・・・って、はぁぁぁぁ?!ちょ、ちょっと落ち着こう!




が落ち着いた方が良いびょん」








あぁ、確かにそうだね!と思いながら私は数回深呼吸を何回か繰り返した。だけど、私が喧嘩の原因なんてそんなありえるわけがない。何これ新手のドッキリなわけ?!凪ちゃんも千種くんも犬くんも、どんなに骸さんと仲が良いからと言ってそんな人間とは思っていなかったのに酷いよ。なんて、さすがにこの三人がそんなふざけたことをするとも思えない(犬くんは多少、しそうな気はするんだけどね!)千種くんはめんどいって言うと思うし、凪ちゃんは良い子だし、私を陥れて喜ぶなんてことはしないだろう。うん、そうだ、するわけが無い。



じゃあ、私が原因で喧嘩をしているという犬くんの言葉を信じてもよいんだろうか。そう思って、私はハッとした。この状況。あの言葉を口にしなければならいのではないか、と思う。












「ねぇ、これは私の為に争わないで!って言った方が
「よくねーびょん」・・・・・だよねー










たまにはボケたいと思った一心で言った言葉は見事滑った。犬くんは少しだけ冷めた目で私を見ている。その目に私は新たな決心を胸に誓った。もう私はもうボケなんてしない。生涯ツッコミをしてやる。そう思いながら私は二人を見つめる。今日の目的さえ忘れそうだ。

あれ、そう言えば、私今日なんでここまで来たんだっけ?えっと、あれは確か昨日千種くんから久しぶりに連絡があって、うん、そうだ。そう。それで、今日は晩御飯を食べに来ないか誘われたんだ。丁度、今日は吾郎もでかけて一人だからと思って了解したんだった。そして来てみたら、この光景?


どこが夕飯を一緒にと言う雰囲気なのだろうか。これじゃあ、何処からどう見ても夕食を今から食べようという雰囲気ではない。









「それで、く、く、詳しく教えてくれないかな?!な、な、なんで私のせいであの二人はあんな黒いもやもやをかもし出しているのかな?!」





「(・・・・・動揺しすぎらびょん)なんか、髑髏がもう暗いからを迎えに行くって言いらして、」











ふむふむ、と犬くんの言葉に頷く「そしたら、柿ピーが俺が行くって言いらして。それれ、あの状態」なんとなくではあるけど犬くんのおかげで喧嘩の原因が分かったような気が、する。いや、でも、もう既に私ここに来てんですけどって感じなんだけどね。うん。私としてはどちらが迎えに来てくれても嬉しかったし、むしろ二人ともが迎えに来てくれた方がもっとうれしかったんだけどなー。なんてこんな状態になってなきゃ何でも嬉しい事には変わりがないんだけどね。


はは、もうこれは恥をしのんで、私の為に争わないで!って二人の間に割って入ろうかな・・・・・・・いやいや、それはやめておこう。きっと一生後悔する事間違いないから。










「これって、やっぱりとめたほうが、良いよね?」







ゆっくりと犬くんが頷く。しかし、どうやって止めようか。とりあえず、二人の間に
は私が迎えに行く」・・・・・ごめん、凪ちゃん。私、もうここにいるから「・・・・・俺が迎えに行く」・・・・・ごめん、千種くん。私もうここにいるんだ。なんだかでるにでれない事態に私はもう胃がキリキリと痛くなってきました。うん、ごめん正直泣きそうなんだけど、犬くん「夕飯まらかなー」お前!犬くん、君の頭の中は晩御飯だけなんですか!酷い、酷すぎるよ、犬くん!











「だけどさ、なんでたかがそんな事ぐらいで喧嘩になるの?」




「そんらの俺が聞きたいくらいらびょん。あぁ、だけど、」











柿ピーは多分しんぱいしてるんじゃない?もう外は暗いし、髑髏が危ないって・・・・・・その言葉に私は思わず鼻をすすった(千種くん、貴方って人は!)(女の子の気遣いもいつの間にかできるようになってたんですね!)このメンバーもこんなに打ち解けてきたのか、と思わず涙がでそうになった。


骸さん、凪ちゃんも犬くんも千種くんもみんな良い子ですよ。貴方と違って・・・・・って、違う違う。今はそんな事が言いたいんじゃない。骸さん、心配しなくてもこちらは大丈夫ですよ。と遠くにいるであろう骸さんに心の中で言った(なんだか、骸さんが死んだ人みたい、かも)(ちょ、何を言うんですか?!僕は生きてますよ!









「よし、じゃあ喧嘩とめてこようかな」




、らいじょうぶ?」









立ち上がり二人を見つめれば、座ったままの犬くんが上目使いで言ってくる。その顔は非常に可愛いんだけど、どうせ考えている事は夕食のことなんだろうな、と思うと少しだけ切なくなった。私はよし、と覚悟を決めて二人の方へと近寄り「ほらほら、二人とも喧嘩はやめて」と、声をかけた。さすがにあまりに近付くと彼らの周りにある黒いモヤモヤに何か吸い取られてしまいそうな気がして恐いので、少し離れた所からではあるが。









?」




「・・・・、いつからいたの?」










驚いた表情をうかべる凪ちゃんと、一瞬驚いた表情をしたものの、すぐにいつもの顔に戻して眼鏡をあげる千種くん。どうやら、二人の間にはもう黒いもやもやしたものはなくなった、らしい(とりあえず、ほっと一息)「夕食みんなで食べるんでしょう」と言えば千種くんがハァとため息を吐きながら「来てたんなら言ってくれれば良いのに、」と一言残して、台所の方へと歩き出した。多分、料理の準備を始めてくれるんだろうと、その光景を見ていれば、千種くんの後ろを待ってましたといわんばかりの犬くんがついていく。本当にあの子は食べ物のことだけだな!




私は未だ驚いた顔をしている凪ちゃんへと近寄り、凪ちゃんは「いつ来たの?」と先ほどの千種くんの質問と同じような事を聞いてきた。その質問に私は「ついさっきね」と答える。








「折角私が迎えに行こうと思ってたのに」




「ふふ、その気持ちだけで嬉しいよ」




「・・・・千種が俺が行くなんて言わなかったらちゃんと迎えにいけたのに」









眉を寄せて言う凪ちゃん。そんなに私が迎えに来たかったのか(骸さん、本当凪ちゃんって良い子ですよね!)少しだけ頬が緩む私を見てくる凪ちゃんのつぶらな瞳にハッと我に戻り、私はちらっとエプロン姿の千種くんを見て先ほどの犬くんの言葉を思い出した。



何だかんだ言いつつあの二人も凪ちゃんのことを大切にしているんだろう。凪ちゃんが骸さんじゃないなんて当たり前の話。凪ちゃんは凪ちゃんで、骸さんは骸さんなんだから。きっと、彼らは彼らで凪ちゃんは凪ちゃんとしてちゃんと認めているんだろう。そんな事を思えば自然と笑いがこみ上げそうになった。本当に仲が良いんだ、彼らは。不満そうにしている凪ちゃんに微笑みかけながら、先ほど犬くんが言った事を、凪ちゃんに伝えた。









「千種くんは、凪ちゃんのことが心配だったんだよ。こんな暗い中危ないでしょ?」



「・・・・知ってる」







視線を落として言う凪ちゃん。可愛いったらありゃしない(断じてその気はないことはも言っておく)「だけどね、と二人っきりでお話したかったの」と顔を上げて言う凪ちゃんに私は思わず驚きながらも口端があがるのを止める事はできなかった。なんて、素敵な友達が私にはたくさんいるんだろうか。凪ちゃんも、千種くんも、犬くんも、そしてもちろん今ここにはいない骸さんも私にとってはとても素敵な大切な人。あぁ、帰りはどうしよう。このさい、皆に送ってくれないかと、頼んでみることにしようか。









喧嘩するほど仲が良い!















(2008・02・23)

リクエストでクロームと千種でヒロインを取り合う。なんだか、とりあってません。