いつもより学校が早く終わりいささか早い時間に並盛中学につくことが出来た私はまだ生徒で賑わう校舎の中を他校の制服という目立つ格好で歩いていた。しかし、それでも並中の先生から注意される事も並中の生徒に喧嘩を売られることもないのは、きっとこの左腕につけた風紀の真っ赤な腕章のおかげだと、思う。
はは、と乾いた笑いさえおきもしない。並中で雲雀恭弥と言う人物は絶対だと言う事を改めて思い知ったような気分だ。時々、風紀委員から挨拶され、その度に他の生徒から好奇の目にさらされる(あぁ、もうさっさと帰れよ・・・・・・!)これならもっとゆっくり来ればよかったかもしれない、と思っていれば「?」と名前を呼ばれて振り返った。









「ツナだ・・・・・!」





「何してんだよ、こんなところで?・・・・・って、あー、風紀の手伝い?






「うん。だけど、ちょっと早く来すぎたみたい」








それで並中の生徒の好奇の目にさらされてしまったんだ、と言えばツナは「あぁ」となんともいえないような返事を返してきた。ツナには分かってもらえたんだろう、今の私の気持ちが。私は目立つようなことが大嫌いなのに、こんな世界珍獣展覧会で多くの人の目に耐える動物のような状態を味わなければならないなんて!これもすべて雲雀さんのせいだ!と思っても私は結局雲雀さんに文句の一つも言う事はできない。自分の弱さに乾杯だ(とても嬉しくない乾杯だよ・・・・・・)はぁ、とため息をつきつつ、ふと視線を落とせば何故かツナの足元にいつの間にいたのかイーピンちゃんがいた。え、いつの間に?と思い驚きながら見ていれば、ツナもイーピンちゃんがいることに気付き驚いていた(ツナも気付いてなかったのか)










「イーピン?!なんでこんなところにいるんだよ!」








ツナの言葉に必死に言葉を返しているイーピンちゃんはそりゃ可愛いものがあるんだけど、ごめん、何て言ってるかわかんないや・・・・・・!ツナも分かってないみたいだし、私達二人だけではイーピンちゃんが何故ここにいるのかは一生分からないだろう。ツナと一緒に顔を合わせて、苦笑いをうかべた(分からないものは分からないし、しょうがないよね)未だ何語か分からない言葉を話しているイーピンちゃんを私は抱き上げ、辺りを見渡した。リボーンはいない。イーピンちゃんの話す言葉を理解できる人間は、いない。







「それにしてもなんでイーピンちゃんこんな所にいるんだろうね」




「さぁ・・・・・ったく、リボーンの奴肝心な時にいないよな」




「そうだよねー。とりあえず、一人じゃ危ないし、イーピンちゃんはツナと帰りなよ。ね、ツナもどうせすぐ帰るんでしょ?」




「あ、うん」









ツナの言葉を聞いて私はイーピンちゃんをツナの方へと渡した。イーピンちゃんは大人しくそれに従う。しかし、それにしてもなんでこんな所にイーピンちゃんはいたんだろうか。並中に来る用事なんて・・・・・・と思えば、ある人物が頭にうかぶ。いやいや、そんな、まさか、ね。と思いながらも、ツナに「もしかしてイーピンちゃんって雲雀さんに会いに来たのかな?」と言えば、ツナは少し間をあけて「・・・・・そうかも」と言った。
イーピンちゃん、私としては理解にとても苦しむんだけど、いや、本当まじでイーピンちゃんみたいな可愛い女の子がなんであんな顔は良いけど性格は悪の化身ですか?って聞きたくなるような雲雀さんに恋してるんだろう。本当、マジでなんで?と思うところは一杯あるけど、さすがイーピンちゃんにそんな事は言えるわけもなく、聞く事もできない。











「でもさ、雲雀さんもなんかまんざらじゃない感じしない?」






「えぇぇ、それはないだろ!」







「だってさ、確実に私と比べてイーピンちゃんには優しい気がするもん」







私なんかいっつも雲雀さんからの嫌味攻撃に耐えて、耐えて、耐えて・・・・・・クソッ、思い出すだけでも涙がでてきそうな感じがするけど、だけど、本当雲雀さんは私には全然優しくないと言っても過言ではない。だけど、どこかイーピンちゃんには優しい気がするんだよね。雲雀さんが小さい子だからとか言って手加減するとは思えないし、確実に雲雀さんはイーピンちゃんのことを気に入ってる、と思う。








「だけど、そしたら雲雀さんってロリコンになるのかな!はは、雲雀さんがロリコンって、すっごい笑えるよね!」





「ちょ、!」






「あー、だけど仮にも雲雀さんは中学生だし、10歳差ならロリコンとは言わないかな。でも、イーピンちゃんが20歳こえるまでは変態っぽいよね?」








ツナに同意を求めようとして、私はツナの方を見た。だけど、ツナは真っ青な顔をしてイーピンちゃんを抱いたまま、私の方を、いや、これには御幣がある。正しくは私の後ろ、だ。その視線があまりに恐いものを見るような視線で私は一気に何が私の後ろにいるのか一瞬にして察してしまった。それに、イーピンちゃんの目がハートになっている。ツナは私の後ろにいる人の恐怖のせいで気付いていないようだけど、額にピンズが現れてるんだよね!これってやばくない?!後ろも前も、やばい!冷や汗がダラダラとでてきて、私は咄嗟にどうして良いか分からずにここが何階かを考えた。

確か、ここは2階。なら、飛び降りれないこともないだろ、かと。下がコンクリートだったら、まぁ、その時はその時だけど、植木だったら、きっと大丈夫。イーピンちゃんの額に浮かぶピンズはまだ7つ。








よし、今なら間に合
へぇ、君も良いご身分になったものだね。僕にそんな事言うなんて





・ ・ ・ ・ ・ ・ 殺 さ れ る !








ど、ど、どうしよう、ツナ!と思いツナに助けて、と視線を送るもツナはその時になってやっとイーピンちゃんの額のピンズに気付いて慌てふためている(タイミング悪いよ・・・・・・!)あぁぁ、どうしようと思っている間に襟元を掴まれていて、「ツ、ツナ・・・・・!」とツナの名前を呼ぶも、ツナは「ごめん、!」と言ってイーピンちゃんを窓の外へと投げていた。
私はズルズルと引っぱられながら、静かに涙を流した(きっと、私を引っぱってるのは、あのお方だよね。あのお方)(これから応接室できっと殺されるんだよね!)段々と遠のいていくツナの顔が本当に申し訳なさそうな顔をして、私はツナに悪いことをしてしまったと思った。そうだ、ツナは悪くない。私があんなことを言わなければ良かったんだ、よ、ね!





ズルズルと引きずられてやってきた応接室のソファーに私は大人しく、正座していた。途中で草壁さんに助けを求めるも、草壁さんは
「すまん」と言って助けてくれることはなかった。そもそも、みんないつも以上にこのお方が通った後顔が強張っていた。きっと、このお方は、いつも以上に般若のような顔をしていたんだろう。私は引きずられて来た上にここに来た瞬間正座をして顔をあげることもできないから、今般若のような顔をしているであろう、あのお方・・・・・そう、雲雀さんの顔を見ることは出来ないんだけど。落とした視線からはソファーの前で立っている雲雀さんの長い足しか見ることが見えないのだけど、どうしても顔をあげることはできない。だ、だって、すんごく恐い顔をしてるってわかってるんだもん。なのに、顔をあげられるわけがないじゃないか・・・・!











それで、君は僕に何かいうことはないのかい?









まるで地獄の底から這い上がってきたんじゃないですか、と聞きたくなるような声に私は肩を揺らした(こ、恐い!)これは、あれだ。きっと、遺言があるなら聞いてあげないこともないよ?ってことだと、思う。私が次に話す一言が、一生の最後の言葉とはなんとも悲しいことだ。最後くらい悪口の一つや二つ言いたいものだけど、きっとそれをしたら私は確実に何も言わないよりも無様な死をとげることとなるだろう。私はさすがに死ぬ時は少しくらい綺麗に死にたい、と思い「す、すみませんでした・・・・・」と小さい声で呟いた。










「声が小さい」




すみませんでした!!








ソファーの上で土下座をする女・・・・・・とても傍から見れば奇妙な女であることは間違いないことだろう。いや、どうせ、ここには私と雲雀さんしかいないんだ。他の奴らなんて関係ないに決まっている。あぁ、どうしよう、どうしよう、と思いながら来るであろう痛みを待ち目を瞑る。しかし、その痛みはいつまでも来る事がなく、私は雲雀さんを恐る恐る見上げた。その顔は心底、私に呆れた、みたいな顔をしていた。










がここまで馬鹿だとは思わなかったよ」






「・・・・・いや、でもですね。雲雀さん、イーピンちゃんには優しく」








ないですか、と言おうとしたら目を細められて思いっきり睨まれた。もう、ね、そんな睨まれたら先が言えるわけが無いから・・・・・・!雲雀さんは私を睨んだまま「僕は女子供でも容赦するつもりはないよ」と言ってのべた。ですよねー。私、いっつも馬鹿にされたりしてるし、殴られますから。しかしよくよく考えてみれば、そういえば雲雀さんから何回か殴られた事はあるけどそれはすべて手で、私は一回もトンファーで殴られた事は無い。あれ、と思いながら雲雀さんを見上げる。









「あと、僕はロリコンでもないから」








そう言って雲雀さんはグーで私の頭を殴った。ちょ、地味に痛いんですけど!と思いながら、叩かれた頭をさする。しかし、トンファーで殴られなかっただけ良かったものだろうと思いつつ、私は本当にどうしてイーピンちゃんがこんな男を好きなのかを考えた。まぁ、優しくないことはないのかもしれない。さっき容赦はしないとは言っていたけど、私はトンファーで殴られた事はないし(・・・・・・なんだかそう思うと、紅茶淹れてくれたり、家までバイクで送ってくれたりもするんだよね)「それに、恋愛に年の差なんて関係ない、か」とボソッと呟けば、またキッと睨まれた。雲雀さん、地獄耳にもほどがありますって・・・・・・!さすがにこれ以上殴られてはたまったものじゃない、と思いながら私はツナに抱えられて校門をでていくイーピンちゃんの姿を見つめた。だけど、雲雀さんがロリコンってあながち間違いじゃないと思うんだけ
いらないこと考えると咬み殺すよ・・・・・これ以上、いらないことは考えるのはやめようと、思う。














(2008・02・18)

アニリボと小説に影響されました