(どうしたものだろうか、)
目の前に積み上げられた書類や本の山。ここ数日、いつも以上に忙しく片付ける暇もなく次から次へと仕事をこなしていけばいつの間にか僕の部屋には、足の踏み場もないほど、これは言いすぎだが、そのぐらい本や書類がたまっていた。汚いわけではないが、どこからどう片づけてよいのか見当がつかない上に、本なんてどこから持ってきたのか分からないものも多い。
そして、こう言うときに限って哲は仕事で海外へと飛んでいる。他の部下に、自分の部屋の片づけなんて任せられるわけもなく、僕は久しぶりに頭を抱えた。
さすがに、こんな中で寝たくはない。
さて、本当にどうしたものか、と思っものの今日中にボンゴレ側に渡さなければいけない書類の存在を思い出し、本や書類の山はそのままにボンゴレの屋敷へと向かった。
書類を渡して急いで自室へと戻る。書類や本を今日中に片づけておきたい、が、あの山だ。さすがに一人では今日中なんて無理だろう。なんて、面倒臭い。
もうこの際あのままでも良いかと思ってしまいながらも、廊下の向こうからやってくる人物に視線を止めた。相手も僕の視線に気づいたのか立ち止まり、そして、一気に青ざめる。
青ざめる理由なんて到底僕には知る由もないが、この時の僕は口端をあげて笑みを作っていたようだ。
「」
名前を呼べばさらに彼女の表情はこわばる。きっと、僕でなければ彼女はこんな表情はしないんだろう。
彼女は僕を目の前にするとこのような表情になることが多い。他の奴らの前だったら笑顔でいることが多いのに、どうして僕の前では笑ってくれないんだろうか。別に笑いかけてほしいだなんて思っているわけではない。しかし、少しだけ、ムカつくのだ。
これが、僕じゃなかったら馬鹿みたいに笑うくせに。なぜ僕の前じゃ笑わない?イライラが募るのを内心感じながら、僕は口端を上げたまま立ち止まった彼女へと近づき話しかけた。
僕は彼女の笑顔は好きでもないが、嫌いでもない。でも、時折見せる怯えたような表情は僕は大嫌いだ。
***
黙々と作業をするを横目に、本棚に本をなおしていく。さすが仮にも女、というわけか、彼女はどんどんと本や書類の山を減らしていってくれた。まぁ、こうなることが分かっていたからこそ、僕も彼女に仕事を頼んだのだけど。それでも、効率よく片付けている姿は思わず、感心してしまうほどだ。
嫌だ嫌だとはいっても、しっかりと任せた仕事はちゃんとした形で終わらせてくれる。
そんな彼女を僕は多分、信頼しているんだろう。そうでなければ、この僕が10年前からこうして今まで、仕事を彼女に任せるなんてことをするわけがない。彼女が信頼できない人間だったら、僕は咬み殺していたはず。
群れるのは今でも嫌いだ。それに、認めたくはない。
だが、彼女に気を許している自分がいるのも事実で、彼女と一緒にいる時間は心地の良いものだと思える。
ある程度片付け終わり、息を一息吐く。先ほどまで、物であふれかえっていた自室はやっと落ち着ける空間へと変わっていた。もわずかに額に汗をにじませながら、本を片付けていっている。
その姿を横目に、書類へと手を伸ばせば唐突にが「雲雀さんって今何歳なんですか?」と、僕に話しかけてきた。
あまりにいきなりな話題。
それも僕の年なんて、聞いてどうするつもりなんだろうか。というか、君。10年も一緒にいるくせに僕の歳知らなかったんだ?
「急にどうしたんだい?」
「いやぁ、ちょっと気になって。10年も一緒にいるのに、雲雀さんの歳知らないんだなぁって思っただけですよ」
「…今更、だね」
こちらを見て、苦笑するに「君より年上なのは確かだよ」と言葉を返せば、私より雲雀さんが年下なんて思いたくもないですよ、と返された。この子、たまに自分でも気づかないうちに毒を吐いていることを気づいているんだろうか。
いや、この様子だと気づいていないんだろう。思いたくもないってどういうことだ。僕が年下だったら何か不便だったりするのか、そう彼女に問い詰めてやりたい気持ちにもなったが、実際僕は彼女より年上であることには変わりはないしそれ以上、言及することはなかった。
「じゃあ、もし僕が君よりも年下だったらどうする?」
「今さら、何も変わりませんよ」
「ふーん、」
もしも、なんてことどれだけ言っても仕方がないけれど、もしも僕が君と同い年か年下だったら、君は馬鹿みたいに笑ってくれるんだろうか。馬鹿みたいに笑いながらあいつらを呼ぶように「ひばり」と呼んでくれる?
雲雀さん、と呼ばれるのだって君から呼ばれるのなら嫌いではない。だけど、少しだけ君との距離を感じてしまうのはなぜか。
君が笑う顔は嫌いじゃないって言ってるんだ。
僕の前でも、もっと笑えば良いのに。そして、僕の名前をもっとその声で紡げば良い。
「だけど、そうですね仮に、」
雲雀さんが年上じゃなかったら、呼び捨てで呼んでたんじゃないでしょうか。そう言って、彼女は笑った。その笑みが嫌いじゃないと思ったから、だから僕は「なら呼べば良いじゃないか」と言葉を発していた。
僕の言葉に彼女は目を見開いて驚いたようだった。
「えっ、雲雀さんって年上じゃなかったんですか?!」
「(馬鹿だ、この子)さっき、年上って言ったばかりじゃないか。」
「で、ですよねー」
「仮にも、の話だよ」
仮にも僕が年上じゃなかったら、の話。そんなことありえるわけではにけれど、考えるくらいならただ、だろう?
「……呼んでも怒りませんか?」
「そんな下らないことで怒ったりしないよ」
そう言えば、はいぶかしげな表情をこちらを見上げる。本当に怒ったりしないから呼べば良いのに。いや、本音としては彼女の声で僕が聞きたいのだ。
「……実は、私雲雀さんの名前、好きなんですよ。良い、名前ですよね」ワオ、それは初耳だったよ。
「じゃあ、」
恭弥と、言って少しだけ恥ずかしげに微笑む彼女。思わず目を丸くして彼女を見れば彼女はもっと笑みを深くして「誕生日おめでとうございます」といった。
思わず鼓動がはねたのは、きっと僕の勘違いに違いない。というか、そう思わなければ、僕が僕自身でいられなくなってしまいそうだ。頬を赤らめるなんて、僕のキャラじゃないだろう?
それに、惚れたほうが負けだなんてどこかの誰かが言っていたような気がする。僕がに負けるなんて、そんなこと絶対にありえない。
だけど、君がもしも、僕と同じ気持ちを抱いてくれるというのなら、僕もこの気持ちを認めてあげようじゃないか。
「誕生日、ねぇ。僕でさえ、覚えてないような日のことをよく覚えてたね」
「そりゃ、雲雀さんとも10年以上の付き合いになりますしね」
いつの間にかいつものように戻った呼び方。名前で呼べば良いのに、と思ったけれどそれを口に出すことはなかった。ただそっけなく「まぁ、ありがとう」とだけ言葉を返す。しかし、僕がお礼を言ったのが珍しかったのか彼女は、驚いた顔をしてこちらを凝視した。
HAPPY BIRTHDAY!
(まったく失礼な子だ。でも、今日だけは許してあげよう。今の僕はとても機嫌が良いから、ね?)
(2009・05・05)
我慢できなかった……!ということで雲雀さん小説です。山本の誕生日は祝わなかったのにね。でも、遅くなっても良いから読みたいって人がいたら山本誕生日小説も書きたいです……!(いねぇよ)(……分かってる!)
いつの間にか甘くなってました。誰これ?ひばりさん?これのどこが?
平凡にしてはかなりの糖分量だったと思います。本当に雲雀さん誕生日おめでとうございます!
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