ボンゴレの屋敷内でくつろぎながら紅茶を飲む自分。昔の自分が、今の自分を見たらどんな風に思うんでしょう。そう考えれば、そんな事容易に予測ができてしまい思わず笑いそうになってしまった。マフィアの犬になりさがってしまったのか、きっと昔の僕は今の僕を見ればそんなことを言うに違いないだろう。確かに今の僕はマフィアの犬となんら変わりはない。ボスの命令で人を殺し、マフィアを殺す。未だマフィアを憎む心がなくなったわけではない。だけど、僕はボンゴレというマフィアの中にいる。
そして、その事に今の僕は不平不満なんてない。これを柔らかくなったとでも言うんでしょうか。いや、今でもマフィアを憎む心が昔に比べて薄れたわけじゃないのですから、柔らかくなったわけじゃない。そう、きっと今僕がここにいるのはマフィアのためなんかではなく目の前にいる一人の人物の影響。昔の僕を今の僕にしてしまったのは、
「」
「なんですか、骸さん?」
きっと、ボンゴレでもなく、他の誰でもなく、が今ここにいるからなんでしょう。彼女がここにいる。そんな理由で僕はこのボンゴレにいるのかもしれない。彼女を守るためなんて、かっこ良い理由があるわけじゃない。ただ僕が彼女と一緒にいたいから。たかがそんな理由で僕はマフィアの犬になりさがってしまったのかもしれない。そうだとしたら、どうに責任をとってもらいましょうか。僕をこんな人間にした罪は重いですよ、。なんて、結局こんな風になったのは自分のせいでもあるんだから、僕はこの言葉をに言うことはないんでしょう。彼女がまさか僕が今ここにいるのが自分の影響だなんて絶対に気づいてないのだから。
任務のない静かな午後。いきなりが僕の部屋に来たときは何事かと驚いたものだけど、カレンダーで日付を確認して僕は納得した。そう言えば今日は僕の誕生日でしたか、と漏らした言葉には「近頃忙しかったから日にちの感覚がなかったんじゃないんですか」と返した。いや、そうではない。確かに忙しい毎日を送ってはいたけれど、日にちの感覚はあった。今日が6月9日だと言うことも分かってはいた。でも、それが僕の誕生日だ、という感覚はなかった。がこなければ、僕は今日が自分の誕生日だと思い出すことなく、今日をいつもと変わりなく過ごしたことでしょう。
僕が生まれた日を祝う必要がどこにある。そんな風に考えている僕にとって誕生日なんてとるにたらない、下らない一日でしたから。
「僕の誕生日なんてに祝ってもらう価値はありませんよ」
「……急に何を言い出すんですか、骸さん」
紅茶の入っているカップを置き、を見れば、が怪訝そうな顔でこちらを見ていた。自分でも忘れていた誕生日。それは僕にとって覚えておく価値もないことだから。僕が生まれてきたことでよかったことなんて、ない。マフィアを殺してきた存在。その存在が誕生したという日が記念の日なわけがない。だったら、に祝ってもらう価値なんてないに決まっていることでしょう。
「多くのマフィアを殲滅させた僕の誕生を祝う必要なんてないでしょう。憎む必要があったとしても」
「そんなふうには思いませんけど」
でも、君だって忘れたわけじゃないでしょう。10年前のあの日、僕は君の大切な友人であった沢田綱吉を殺そうとしていた。それは紛れもない事実であり、あの日、僕は君に最低な言葉をなげかけた。そんなことがあったにも関わらず君は僕の誕生を祝えるというのでしょうか。僕自身は僕なんて生まれてこなければ良かったんだ、なんて微塵も思いもしていない。そんな風に思うなんて僕らしくもありませんから。でも、他の奴らからしたら僕の誕生なんてとてもじゃないけど祝えるものじゃないとは思いますよ。多くの人を殺した僕の誕生は望まれた誕生ではなかったはず。
「そうは思いませんか、?」
君だってそう思っているんでしょう?と、さすがにその言葉は言えずに飲み込んだ。それで、そう思っているなんていわれてしまっても仕方がない。僕はそれだけのことを今までしてきて、大切だと思っている女の子にもそんなことをしてきたんですから。
「私はそうは思いません。確かに、昔骸さんがしたことを私は赦せはしないと思います」
そうでしょう。僕は君の大切な人たちをたくさん傷つけたんですから。
「でも、骸さんが私にとっては大切な仲間だと言うことはかわりはないんです。仲間の誕生日を祝うことに、理由が必要ですか?」
「君は本当に馬鹿ですね。僕が大切な仲間ですか」
「当たり前です。他の人がどんな風に思おうと私は骸さんが生まれてくれて良かったと思います」
でないと、今こうして骸さんとお茶を楽しむこともできなかったと思いますから。そう言って微笑む彼女に、僕は何も言い返せなくなった。本当にそう思ってるんですか、なんて聞かなくても彼女の瞳がこれは本音だと語っている。彼女の声が、真剣みを帯びた声をしてまるで僕に言い聞かせるかのように言う。仲間、という言葉には少しだけ納得できませんが、今はその言葉だけで我慢しておきましょう。思わず緩む頬に、僕はあがなう術を知らずにいつの間にか微笑んでいた。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか、骸さん」
「……どこに行くつもりですか?」
「もちろん、みんなのところですよ。今日のために、私チョコレートケーキ作るの頑張ったんですから」
「チョコレートケーキですか」
「はい。だから、早く行きましょう」
きっと、凪ちゃんも、犬くんも、千種くんも、それにツナだって、みんな骸さんが来るのをまってるはずですよ。それにみんな、骸さんの誕生日を祝うために準備したんですから、もうそんな哀しいことは言わないでくださいね。貴方が生まれてきてくれて私は良かったと思っているんですから。もちろん、凪ちゃんたちもそう思ってます。と言われ僕は「えぇ」と言葉を返していた。もうこの先何度誕生日を迎えたとしても僕はこんな事を思うこともないでしょう。君から貰ったその言葉に、僕は不覚にも泣きたくなるくらい嬉しいと思ってしまったんですから。
HAPPY BIRTHDAY!
(おやおや、ボンゴレも暇なんですねぇ。こんな準備までして)
(骸ぉぉぉ!折角10代目がお前のために準備したって言うのに、テメーは!)
(ちょっと、落ち着いて獄寺くん!骸もそんな風に言うなよ!)
(そうですよ。このために色々、頑張ったんですからね私達!)
(……分かってますよ。ありがとうございます)
(((骸が、お礼言った……!)))
(なんですか、その目は!そんなに僕がお礼いのは可笑しいんですか!!)
(2008・06・09)
骸さん、誕生日おめでとう!
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