10代目が死んだ次の日。まったく眠れなかった夜は明けた。長い夜だったか、短い夜だったか、どちらにせよ俺にとって自分の不甲斐なさに後悔する夜だった。10代目を守りきれなかった俺は、右腕として失格だ。もしかしたら、俺なんかよりよっぽどのほうが右腕に相応しいのかもしれない。
あいつは、もうきっと10代目の死を乗り越えている。10代目の亡骸の入った棺の前で俺や他の奴らが泣いているときあいつは一切泣かなかった。悲しそうな顔さえも見せなかった。ただヒバリの横にたって、10代目の入った棺を見ているだけで、その瞳からは何も感じられなかった。そんなあいつの姿を見て俺はににとって10代目はそこまで大切な人じゃなかったのかと思ってしまった。そして、もしかしたらあいつは10代目が死んで、喜んでいるのかもしれないとさえ思った。今考えれば俺はそんな最低な事を思ってしまうぐらいに、10代目が亡くなられたことに動揺していた。



「(本当、右腕失格だよな。仲間を疑うなん、て)」



これじゃあ、10代目に怒られちまうぜ(彼はもう死んでしまって、怒られるなんてこと絶対にないが、)きっとは多分誰よりも10代目が死んだことを悲しんでいた。そうだ、悲しまないわけがないじゃないか。10年という長い時間を共にしてきたんだ。いや過ごした時間なんて関係ないのかもしれない。それに、俺は一度だけから聞いた事がある
「私は、ツナがボスじゃなかったら、絶対にマフィアになってない」と、言ったあいつの言葉。その時俺は、の言葉にとても同感したはずだ。





俺だってそうだ。10代目がいなかったら、ボンゴレファミリーに入っていなかったに決まっているから。今でも一人で、仲間なんて一人もつくらずに生活していたに違いない。それなのに、そんな言葉を言うやつが10代目が死んで悲しくないわけがなかったんだ。そんな事にも気がつかなかった。





本当に、俺は馬鹿だ。どうしようもない、馬鹿。





昨日、10代目の棺が運び出されたあと、俺は本当は不安だった。が何処に行ったかなんて分かっていた(10代目の棺の所にいるんだろう、と)だけど、もしかしたらあいつが10代目の後をおって、とか、ミルフィオーレに見つかったら、と考えると、また仲間を失ってしまうんじゃないかと言う不安が俺を襲った。俺が、仲間だなんてこと考えるなんて自分でも可笑しかったけど、だけど、も仲間であることは間違いなくて、だから不安だった。そして、慌てる俺と山本を他所に平常にしているヒバリがムカついた。10代目が死んでも悲しそうに無いヒバリが。に対しても心配していないヒバリが。どうして、お前はそんなに冷静にいられるんだ、と叫びたくなった。



彼女がここに帰ってこないわけがないじゃないか



と、笑って答えたヒバリの言葉が頭から離れない。あぁ、そうだ。そうに決まっている。ヒバリの言うとおりだった。が、あいつがそんな弱い人間な訳がない。俺は10代目が殺された事で自分を見失ってしまっていた。10年間共に過ごしてきたんだ。そんな事は分かりきっていたことじゃないか。ヒバリもきっと、悲しいわけじゃなかったんだ。きっとあいつは誰よりもボンゴレの雲の守護者として冷静だったのだ、と感じた。俺は、右腕としても、嵐の守護者としても失格、だと思えた。それに、俺は悔しかった。ヒバリには、分かって、俺にはのことが本当に分かっていないのかのように思われて。






思わずでそうになるため息は自分の無能さに呆れてか。







さすがにそろそろ仕事の時間。そう思い食堂へと向かう為に、着替えて廊下へとでた。この屋敷にはもう10代目はいない。俺が忠誠を誓ったあの人は、もう「獄寺?」声をかけられて、立ち止まり振り替えればそこにはがいた。目の下にはくまがある。きっと、コイツも俺同様に今日はあまり眠れなかったんだろう。そう思いながら、俺と以外には誰もいない廊下を歩く。その間、俺達の間に言葉は交わされなかった。俺は、何も言えなかった。の昨日の言葉をただただ思い出すだけ




今まで守ってくれて、ありがとうございます。これからは、私が守ってあげますから




こいつは一体どんな覚悟をしてこの言葉を言ったのだろう。俺は、まだ何もできない。何も出来る気がしない。俺は、確かに10代目の右腕としてやってきたつもりだった。だけど、それはすべて俺の自惚れで、俺は守護者や、ファミリーと奴らのどんな奴らよりも、10代目の右腕に遠い男だったのかもしれない。



「獄寺」
「・・・・・・なんだ?」
「京子ちゃんや、ハルちゃんにも、ツナが死んだこと言うんだよね?」
「あぁ」
「ツナが死んだこと言うの、もう少し後にしない?やっぱり、その二人も悲しむと、思うし」



の言葉に、俺は、確かに、と思った。あの二人ともやっぱり10年前からの付き合いで、それも馬鹿女の方は10代目に惚れていたし、二人とも悲しまないわけがない。だが、あの二人に言わないわけにもいかない。伝えるのが後になろうと、先になろうと、二人が泣くことは確実。どちらにせよ、10代目が死んだ、ことはいずれ皆知らなければならないことなんだ。だから、今、伝えても良いのじゃないか、とに言おうとすれば、は儚げに笑いながら、言った。



「なんて、私が、あの二人の悲しんでいるところを見たくないだけ、なんだけどね」



こいつの言葉に、俺は10代目を思い出す。こいつも、10代目もいつも他の奴らのことばかり気にかける。自分のことを一番に気にかければ良いのに、二人が一番に気にするのは、仲間とことばかりだ。だって、もしかしたら俺がただそう思っていただけでまだ10代目の死を乗り越えたわけじゃねぇのかもしれない。本当はまだつらい。でも、いつまで経ってもそれを引きずるわけにはいかないからと無理をして、今こうして俺のとなりに立ってわらっているのかもしれない。そうだとしたら、俺はなんと情けない男なんだろう。は、俺のことを気にかけてくれているのに、俺は何もできていない。やるべきことは分かっているというのに、俺は何もできていないんだ。クソッと、心の中で自分自身に悪態をつく。情けねぇ。




「獄寺。私は復讐なんてしないけど、ツナが守りたかったものを守りたい」

「・・・・・あぁ」



俺だってそうだ。10代目が守りたかったものを俺も守りたい。仲間の奴らや、もちろん目の前にいるこのだって、守りたい、と自然とそう思う。小さな背中、だといつも感じていたはずなのに、今の俺にとってはの背中は誰よりも大きく感じた。隣を歩いていたはずの俺が立ち止まったのに気づいたのか振り返る。その瞳には、もうしっかりと次のことをうつしている。決意をうつした瞳と言うのはこういう事言うんだろう。俺は、いつまでも10代目のことを考えて情けねぇままでいても良いのか?そんな事良いわけがない。俺にはやるべきことがたくさんあるんだ。だから、こんな所でうじうじと悩んでいる暇なんて俺にはない。や他の奴らに10代目の右腕をとられねぇように、俺はちゃんと自分のすべきことをしなければ。







何、とが不思議そうに見上げる。いつもは喧嘩ばかりの俺ら。でも、たまには素直になってみるのも良いのかもしれない。いや、今だからこそ、素直になるべきなのかもしれない「ありがと、よ」の頭に手をのせ、クシャリとの頭を撫ぜた。お前がいなかったら、俺はいつまでも10代目の死を、乗り越えることはできてなかった。いや、あまつミルフィオーレを倒す事も10代目の復讐としてまるでそれが右腕の俺の使命かのように勘違いして行なっていたかもしれない。10代目が復讐なんて望むわけがねぇ。そんな事、わかりきったことだったのに。俺はすぐにカッとなってしまうから。

微笑む、の顔。こんな奴を疑ってしまった自分自身に腹がたつ。仲間を疑った自分。本当に馬鹿だ。なぁ、。お前が、俺らを守りたいと言うように、俺だってお前やファミリーの奴らを守りたい。だから、無理だけはするな。それは言葉になることはなかった。静かに歩く廊下。俺は静かに、「ごめん」と声にならない声をに言っていた。疑ってごめん。ごめん、なんて一生使うことのない言葉だと思っていたのに。でも、謝らないわけにはいかない。今までの自分にケリをつけるためにも。仲間を信じられなかった自分に喝を入れるためにも。




俺が助けたい、
仲間



それにはお前も含まれていると言ったら、お前はどんな反応を示すだろうか





(2008・03・27)