車の中から流れていく町並み。それは、日本のものとは全然違う。人も、建物もすべて日本とは違う国。



この、イタリアと言う国は俺にとって、もう第二の祖国と言っても良いぐらいの国に違いない。そのぐらい、この国にはもう長い間いるような気がする。仲間、と共にやってきて数年。始めは何をして良いのか分からなかったけど、最近やっと自分の役割が分かってきた。ボス、としての役割。とは、言ってもまだまだボスとしては半人前だ。俺はボスとして、今、何もできてない。リボーンがいなくなってからも、俺は何もできていないんだ。俺はボンゴレファミリーの10代目として考えなければいけない、と分かっているのに、どうしても沢田綱吉としての考えくをいつも第一に持ってきてしまう。でも、それじゃあ、駄目なんだ。ボスとして俺は答えを出さなくてはいけない。






ぼんやりと自分の手を見る。その手には、今はもうボンゴレリングなんてものはない。





少しだけ宿る不安に俺は自分で自分を笑った。戦いの火種になってしまうと思ってボンゴレリングを壊したはずなのに、俺はそのリングの力にすがってしまっている。



もう、ボンゴレリングなんてものこの世にはないのに。自分で壊したはずなのに。



だけど、ボンゴレリングを壊しても結局戦いは納まらなかった。俺がしたことは本当に正しい事だったんだろうか。守護者の中には反対する人たちだっていたのに、それでも俺は自分の意思を貫き通した。ボンゴレリングを壊すと言う答えはボンゴレファミリーのボスとしての答えだったのか。それとも、沢田綱吉の答えだったのか……だけど、リボーンは俺の気持ちがボンゴレの答えだと言ってくれたじゃないか。もうずっと、遠い昔のことだけど。でもリボーンは確かに俺にそう言った。なぁ、リボーン。俺は間違ってなかったんだよな?それに応えてくれる存在はもういない。



本当に俺がボスでよかったんだろうか、と今でも不安になることがある。


特にこうやって任務先に向っている時なんて、その思いは強くなる一方だ。




でもそんな時、俺はいつの日かに言われた一言をいつも思い出す
「私はツナがボスで良かった」と言う一言。きっと彼女は何気ない気持ちで言ったんだろうけど、俺はこの一言でとても救われたような気持ちになった。俺は未だ本当に自分が10代目になって良かったのかと疑問をもつことがある。それに、俺が10代目になったことに疑問をもつ人たちだって多い事だろう。確かにリボーンやまわりの人たちから強制的にボスにさせられた、と言えないことはない(十年前のおれは歯向かうすべを知らなかった)(もちろん、今だって歯向かうすべを俺は知らない)





でも、ボスになるかならないかの最終的判断を下したのは他の誰でもない俺自身、だ。ボスになって生きていくことを決めたのは、俺の意志。だけど、たまに思う。俺がボスで良かったのか、と。神の采配と言われる9代目が俺を選んだのは紛れのない事実だけど、俺にはボスの資質なんてない。ディーノさんのように俺はなれない。だからこそ、純粋にの一言が凄く嬉しかった。は俺じゃなかったら、マフィアにならなかった、と言ってくれる。



9代目でもディーノさんでもなく、俺がボスで良かった、と言ってくれたんだ。



いつも彼女が求めてくれるのはボンゴレファミリーの10代目の意思ではなく、沢田綱吉としての意思、だ。まだまだボスとしては程遠い。ましてや、9代目、とディーノさんのようなボスになれるなんて思ってはいない。
俺は俺なりのボスとなってやる。こんな事言ったら、は、笑うだろうか。いや、彼女はきっと、
「頑張れ」と俺を応援してくれる。いつも、そうだ。10年前から、俺はにいつも助けて貰っている。リボーンの特訓でも、俺がボスになってからも、はいつも、俺を助けてくれていた。は、多分そんな事知らないんだろうけど。みんな、そうだろう。俺みたいにに助けられていると感じている人は多い。守護者達も、きっと、骸の奴も。







外に視線をやる。どうやら、まだ目的地につかないらしい。






俺が本当に守りたいものって何なんだろう。マフィアのボスになってまで守りたいもの。そう考えれば頭にうかぶのはみんなの顔。ファミリーなんて、部下なんてリボーンは言うけど、俺にとっては大切な友だ。みんなでパーティーをしたり、みんなで笑い合うために今俺はここにいるんだ。誰一人欠けたりさせない、と誓ったんだ。
リボーンはいないけど、もう他の誰一人失わない為に俺は今、あそこへと向かっている。これが終われば、またみんなでわいわい騒げるだろうか。自然と頬が緩むのはその光景を想像するのがあまりに容易なことだったから。




でも、にはまた苦労させちゃうんだろう。数日前も任務のことで獄寺くんと言い合っていたし、彼女の苦労は今でも絶えない。多分、俺の苦労の上を行くぐらい、苦労してるんじゃないだろうか。疲れたときは甘いもの、と以前が言っていた言葉を思い出す。そうだ、今日の仕事が終わったらにお土産としてケーキでも買って帰ろう。きっと、のことだから喜ぶんだろうな。



そして、に伝えよう。俺を支えてくれて、ありがとう、と。急にこんなこと言ったら、びっくりするだろうな。それに、少しだけ気恥ずかしい気もする。あらためてこんなこと言うことなんて滅多にないし。





「ボス、到着しました」






その言葉に俺は意識を戻す。どうやら今日の仕事先についたらしい。部下にあけられたドアから俺はゆっくりと車からおりた。ネクタイを締めなおして気合をいれる。そして、俺は目の前のミルフィオーレの屋敷をみすえた。、お土産かって帰るから楽しみにしててよ、と言う言葉はどんよりと曇った空に消えた。






君が仲間で良かった










(2008・03・21)