沢田綱吉がんだらしい。










それを聞いた時、僕はと一緒にいた。彼女は一切、泣かなかった。

獄寺隼人が泣いても(彼は沢田綱吉に忠誠を誓っていたからきっと、とても悲しかったんだろう)

そして他の奴らもたくさん、泣いても(沢田綱吉は、たくさんの人に囲まれていた)

その中では泣かなかった。少しも涙を見せようとしなかった。彼女は呆然と沢田綱吉が入った棺を見ているだけだった。


僕はもちろん泣くわけがない。ただ、草食動物が死んでしまった。ただ、それだけのこと。








それに僕は過去から、彼らがこの未来を変えに来るということは知っている。きっと、彼女は、はそんな事しらないんだろうけど。


僕は彼女にその事は言わなかった。ただ、が呆然と沢田綱吉の棺を見ているのを、見つめる事しかしなかった














そして、そのまま沢田綱吉の
は運び出された
















獄寺隼人や、山本武が、がいないと騒ぎ出したのはいつ頃からか



沢田綱吉の棺を誰にも分からないように森の中にうつして、それほど時間は経ってないだろう。

哲が二人に落ち着いてください、と声をかける姿を見てほっておけば良いのに、と思った

どうせ、彼女はきっと沢田綱吉のところへといっているんだろう。いや、沢田綱吉のところへといっているというのは可笑しな話か

彼はもう死んでしまっているのだから、沢田綱吉の亡骸のところへ、と言った方が正しい表現かもしれない

そんな事が分かりきっているのに、何故彼らはをさがそうとしているのか。そんな分かりきっている事も分からないのか








すべての言葉を飲み込んだのは、彼らは彼らなりにが心配だからと言う事が分かっているからか







未だ外ではミルフィオーレによるボンゴレ狩りが行なわれている最中。その中では絶好の獲物というものそんな事も分かりきった事だった。

だけど、僕は探しにいこうとは思わなかった。

彼女がここまで帰って来れなければ、そこまでの人間だったと言う事だけだ。

騒ぐ獄寺隼人と山本武が、僕に「が心配じゃないのか」と聞いてくる。僕はそれに笑って応えた








彼女がここに帰ってこないわけがないじゃないか









僕は彼女がここに帰ってくることを確信していた。僕が認めた人間なんだ。そう簡単に死なれては困る

僕がそれを伝えれば目の前の二人はとても驚いた顔をしていた。君達だって、本当はその事をわかっているんだろうに






彼女がボスが死んで、後を追うような人間に見えるのか。答えは否、だ。彼女はそんな弱い人間ではない


彼女がボスが死んで、復讐を考えるような人間に思えるか。答えは否、だ。彼女はそんな馬鹿な人間ではない






そんな事も知らないのかい、君達は、と言ってやれば、目の前の彼らは少し笑った。

「あぁ、それもそうだな」「あいつはそんなやわな奴じゃないな」沢田綱吉が死んでから初めて見せた、二人の笑顔だった













そして、
僕の言ったとおり帰ってきた















哲が、「が帰ってきました」と、僕達に伝えたのはそれからまもなくしてからのことだった

外は雨が降ってきていたのだろう。全身ずぶ濡れの彼女は、さっきまでの彼女とは全然違った顔つきをしていた

ただ呆然と沢田綱吉の棺を見ていた彼女は既にいない。その表情は、何か決意に満ちた顔だった。


ほら、僕が言った通りじゃないか。彼女はちゃんと帰ってきた。







山本武は帰ってきた彼女の為に暖かい彼女の好きなココアを入れに、食堂へと走った




獄寺隼人は帰ってきた彼女の為にタオルを取りにどこかへと走った






僕は彼女の為に何かすることはなかった。ただ、彼女に「おかえり」と言葉をつむいだ。

彼女は何も言わずに「ただいまかえりました」と微笑んだ。そして、彼女は言った。









復讐なんて、私はしませんから



私は、自分の為に戦います










あぁ、君はそれで良い。きっと、沢田綱吉もその言葉を聞きたかったんだろう。

彼は復讐なんて望んではいないだろうから。もちろん、僕も誰かの為に戦うなんてことはしない

僕は僕の為に戦っているから。


過去からやってくる沢田綱吉も自分の為に復讐なんて嫌がるだろう。






、君の選択は一番良い選択だ。







そう思っていれば、山本武が戻ってきて彼女へ暖かいココアを渡す

彼女はお礼を言いながらそれを受け取った。




そして、獄寺隼人が戻ってきて、彼女へタオルを渡す

彼女はお礼を言いながらそれを受け取った。






がこちらを向いて僕にもお礼を言った。僕はその意図が分からない。僕は彼女の為に何もしていない



彼女は言った「今まで守ってくれて、ありがとうございます。これからは、私が守ってあげますから」

唐突な言葉にその場にいた人間が驚いた。だけど、僕だけは驚きはしなかった





君は沢田綱吉の棺の前でそれを決意したのか。




まぁ、せいぜい君に守られてあげようじゃないか。

君ごときに守って貰うような僕ではないが、だが、その決意に満ちた君の瞳は嫌いじゃないから。












僕は誰かの為に復讐なんて嫌いだ(僕は孤高の浮き雲、誰にもとらわれることはない)


だから、僕も僕の為にミルフィオーレと戦おう。ボンゴレ、の為などではなく












君のに映る僕は






きっと笑っていたことだろう









瞳には君と同じ決意を宿して













(2008・01・06)


さりげなくリクエスト作品で、10年後雲雀さんのなんか複雑な心を表現した感じ。複雑な心なんて私には表現できません。

って事で、10年後雲雀さん。ツナの「拝啓、」の続きっぽく。雲雀さんは雲雀さんなりにボンゴレが心配という話。