今、貴方はどこにいるんでしょうか
ふと見上げた青空に問うた。先日会ったのはいつのことだろうか。あれは、確か・・・・・と思い出してやめた。あれは骸さんであって、骸さんではない。あれは、結局のところを辿れば凪ちゃんなのだ。そう思えば、銃を持つ手に力が入った。ツナのファミリーに入って10年近くたつのに、私は、誰一人として守りたい人を守れてはいないじゃないか。骸さん、骸さん。私は、骸さんのしたことをきっと許すことはできないでしょう。私自身に被害がないとしても。私が知っている骸さんは、どこか変だけど優しい骸さんだとしても。骸さんがたくさんの関係のない人を殺したのは、紛れもない事実。そして、もう10年ほど前の事ではあるけれどツナを殺そうとしたのも紛れもない事実。だけど、だけど、私はそれでも、骸さんを嫌いだと思ったことはないんですよ?今でも大事な仲間だと思ってるんです。凪ちゃんだって、千種くんだって、犬くんだって、私にとっては大事な仲間にかわりはない。それなのに、貴方一人が足りない。その事を、悲しむ人々がたくさんいることを忘れないで。いつも、悲しんでいる事を貴方も知らないわけじゃないでしょう。
「」
「な、ぎちゃん。どうしたの?」
「・・・・そろそろ、帰らないと」
そういうと、凪ちゃんは血まみれにそまり、たくさんの人が亡骸となった場所を歩き出した。倒れた亡骸や、この状況はすべて私が作り出したものだ。凪ちゃんとたまにはショッピングにと思いツナには内緒で出かけたら、いつの間にか私と凪ちゃんはたくさんの黒いスーツを着た男達に囲まれていた。囲まれた瞬間には本当に運の無い自分に泣きそうになったものだけど、今は別のことで泣きそうだ。いつから私は人を殺す事が日常となってしまったんだろう。ツナのファミリーとなったことに後悔は無い。だけど、人を殺す事に後悔がないかと聞かれればそんなわけはない。いつも、後悔の念が私を締め付ける。そして、私はいつも思うのだ。私と骸さんに、違いなんてあるのだろうか、と。骸さんは暗くて、冷たいところに閉じ込めれているのに、私を裁いてくれるものは何もない。人を殺している事に何ら変わりは無いのに。どうして、私だけボンゴレという暖かい場所にいれるのだろう。多くの亡骸に囲まれて、私はたまに骸さんを思い出して空を見上げる。そして、私はいつも聞いてしまうのだ。
今、貴方はどこにいるんでしょうか
と。ふと、凪ちゃんに視線をうつせば凪ちゃんがこちらを心配そうに見えているのが目に入った。私は凪ちゃんを安心させる為に、ゆっくりと微笑む。なんて、奇妙な光景なんだろう。血まみれにそまった、たくさんの亡骸の中を微笑む女が立っているなんて。だけど、本当は泣きたいんだ。自分が人を殺していることも、もちろんだけど、どうして私だけ、何も制裁を下しているものがないのかを。何か私に制裁を下さしてくれたのなら、まだ人を殺した事に対して償うことができるのに。何も制裁を下してくれないからこそ、私はこの罪悪感から抜け出せない。他の人を守りたい、だから人を殺している。そんな立派な理由私にはない。だって、私は結局人を殺していても誰一人守れていないのだから。なんとも、私がしている殺しというものは意味のないことなのかもしれない。そして、それが私は一番悲しい。自分のやっていることが無意味なんて、思いたくも無い。
「(あぁ、泣きそうだ)」
「」
再び凪ちゃんに呼ばれ、私は流れてきそうになった涙をとめて、凪ちゃんのほうに顔をあげた。しかし、そこにいたのは凪ちゃんではない。長い、長い髪を風になびかせている骸さんだった。久しぶりの再会。だけど、どうして今ここにでてきてしまうんですか。貴方がここに来てしまっては、私はさらにこのモヤモヤとした感情に押しつぶされてしまいそうになるじゃないですか。そう言いたい。でも、言ってはいけない。だって、この気持ちはすべて自分が弱いせいなんだから。骸さんにあたってしまうのは駄目。でも、どうして今、この血まみれにそまった、たくさんの亡骸のあるところででてきたんですか。そして、貴方はこの状況を見てどう思うんだろう。私、が可笑しい人間だと笑うんでしょうか。
「骸さん、どうし、て?」
「特に用事はありませんよ。ただ、が泣いていると思ったから会いに来ました」
「な、いてなんかいません」
どうして貴方はそんなに優しいんだ、と聞きたくなった。骸さんがもっと嫌な奴だったら、私はきっとこんな気持ちにはならなかった。きっと、骸さんが暗くて、冷たいあの場所にいることにも何も思うことはなかった。でも、骸さんは優しい。いや、優しすぎる。ただ私が泣いているからって、ここにでてきてしまうなんて。ここにでてきてしまうのも、たくさんの力を使うのに。そして、骸さんだってきついはずなのに。それでも、私が泣いているからここまででてきてくれるなんて、なんて優しい人なんだろう。そして、そんな優しい人間があんな暗くて、冷たい場所にいるのか。その理由は分かっている。だけど、私がその暗くて冷たい場所にいないのかの、理由は分からない。多くの人を殺す私と、多くの人を殺した骸さんの違いは何もない。
「今、貴方はどこにいるんでしょうか」
今にも泣いてしまいそうな私の声。この答えは本当は分かりきっている事なんだ。骸さんは暗くて、冷たいあの場所にいる。そんな分かりきっている事聞くなんて、私はなんて馬鹿なんだろう。そして、それを骸さんの口から直接聞く事で私はどうしたいんだろう。結局、私は骸さんを救う事なんてできないのだ。誰かを守る為に人を殺しているという理由が欲しいとしても、私は誰一人守ることは出来ないのだから。誰かを守りたいといつも願っているはずなのに、その願いは今まで一度も叶ったことは無い。
骸さん、私はここにいても良いんでしょうか
本当に聞きたい質問はこれかもしれない。ボンゴレにいて、私は良いのでしょうか。山本も獄寺も、雲雀さんも、了平さんも、ボスであるツナも、みんな人を殺している事には変わりがないのに、あの人たちには殺す理由がある。私を守っていてくれている。そして、骸さん。私は貴方にも守られているんです。こんなに大勢の人に守られているにも関わらず、誰も守ることが出来ない。なのに、人を殺す。どうして、人を殺すの?それが、ツナから与えられた任務だから。仕事だから。私は、そんな理由で人を殺めたくはない。私が持つ運命と言うものが、人を殺さなければならない運命というのなら、その運命は誰かを守るものでありたいと思うから。
「・・・・すみません。いまのは、」
「君が望めば、僕はいつでも君の近くにいますよ」
「な、何を言って」
「は、誰一人守れていないことなんてありません。君に多くの人が救われている。」
もちろん、僕もその中の一人ですよ。と微笑む骸さんに、私の頬を一筋の涙が伝った。どうして、私が誰一人守れていないと思っていることを知っているんですか。どうして、私が欲しい言葉を言ってくれるんですが。聞きたいことはたくさんあるのに、私の口から出てくるものは嗚咽だけ「クフフ、きっとあの雲雀恭弥も、に守られている一人ですよそして、君はボンゴレにいるべき人間なのです」と、言って再び笑みを深くした。そうだと、どれだけ嬉しいことなんでしょう。だけど、今の骸さんの言葉も私にとってはとても嬉しい事だった。
今、貴方はどこにいるんでしょうか
私がここにいるべき人間と言うのならば、貴方もここにいるべき人間なんです。どうか、それを忘れないで早くこの場所に本当の貴方で帰ってきてください。私はいつまでも、貴方を待っている多くの人と共に貴方の帰りを待っていますから。なんて、こと貴方の事だから知っているとは思いますが。
(2007・12・24)
|