「毛利さん、これ美味しいですね」
「ふん。我が用意したものにまずいものなんてないわ」
いつもながら高飛車な毛利さんの言いようにもなれた頃(というか自分に良いように脳内変換ができるようになった)(そうだろう、うまいだろ、って言いたいんですよね)のんびりと私と毛利さんは縁側でお茶を楽しんでいた。
見た目、いや、見た目だったら甘味が好きな女性にも見えてしまいそうなくらいきれいな顔をしているから、言動とは裏腹に甘いものが好きらしい毛利さんの用意してくれるお茶菓子はいつだって美味しくて私は毎日のこの時間を実はひっそりと楽しみにしていた。そりゃ、必ず嫌み一つは言われてしまうがこんなに美味しいお菓子を前にしていてはそれもあまり気にはならない。 ましてや、毛利さんはツンデレなんだと自分に言い聞かせているからなおさらその嫌み一つも最近では照れてるんですよね、ですまされる。
普段は戦場で捨て駒なんて罵られながらこき使われている兵たちもこのときばかりはまるで孫を見守る祖父母のような暖かい視線でちょっと嬉しそうに団子を口に運ぶ毛利さんを見ている。
いつもあんなに罵られているのに回復が早い。ドMの集団か、と思わず思ってしまった私をどうか許してもらいたい。
「おーおー、なぁに二人ともこんなところで呑気に茶なんて飲んでんだ」
大きな音をたてて大きな声をかけながらのりこんできた大きな男。
おもいっきり毛利さんの眉がよったがこれはいつものことなのできにすることもない。まぁ、大きな男、長曾我部さんはそんな顔されても二カッとした男らしい笑みをたやすことはない。え、なにこの人もドM?ドMなの?……なんて、彼を兄貴とあがめている人たちに怒られそうなのでこれいじょう考えることはやめるが。でも、これも毎回のおとなのでそう思わずにはいられない。毛利さんにはドMを育成する能力があるのだろうか?
いやいや、まさか。
けれど間違いなく毛利さんは現代で言うところの女王様体質があることは間違いない。ここでいっておくが女王様とは言っても王様のお后さま、ということではない。ハイヒールをはいてむちを手にしているあの手の人のことだ。
(毛利さんがむち……違和感ないな)
普段采配を振りまわしているところを見ているせいか毛利さんのむち姿が容易に想像がついてしましい、隣に座ったままの毛利さんを失礼とはわかっていながらも上から下までに視線をやり、バレないように頷く。
綺麗な表情はあまりかわることなく、笑みを作ることなんて滅多にない。口を開けば嫌みばかりで(とはいえ、悪い人じゃないっていうのはすごく分かっている!)視線は常に冷たい。
考えれば考えるほど毛利さんイコール女王様公式に違和感がなくなっていく。
「ったく、つれねぇな」
つれないも何も、毛利さんにそのような反応を求めるほうが間違っていると思う。私なんかよりよっぽど長曾我部さんのほうが長い付き合いのはずなのに、そんなことにも気づいていないんだろうか?…いや、長曾我部さんのことだからそんなことにはとっくの昔に気づいているんだろう。分かって言っているのだからよけいたちが悪い。
何も考えていないように見えて色々考えている長曾我部さんはもしかしたら毛利さんよりもよっぽどわかりにくいかもしれない。
「貴様と話すくらいなら団子を食べる方を選ぶに決まっているだろう」
「おいおい……からも毛利に言ってやれ」
「あー、私も団子のほうが良いので」
正直な私の言葉に毛利さんは勝ち誇ったような目で長曾我部さんをみた。食べ終わったら長曾我部さんに構ってあげても良いのだけど、まだこの美味しいお菓子を手放したくはない(構っている間に毛利さんがすべて食べてしまいそうな気がしないこともないし!)食い意地がはっているわけではない。断 じ て そ れ は な い!
(しっかし、毛利さんもこんな表情しちゃって、)
出会った当初はとっつきにくそうな人だ、とか思ったけれど、毛利さんは意外と単純な人である。詭計智将なんて言われているようだけど、私にさえ表情から手に取るように毛利さんの考えていることがわかってしまうことだってあるくらいだ。
だからたまに可愛いなぁ、なんて思ってしまうこともあって。
こんなことがバレたら毛利さんのあの世にも恐ろしい武器で体をまっぷたつにされてしまいそうなので、口にすることはもちろんしない。
「ったく、かわいげがねぇな。おまえ、毛利に似てきたんじゃねぇのか?」
「良いことだな」
(よいことではないと思うんですけど、)
はは、と乾いた笑みが私の口からこぼれる。毛利さんを敵に回すくらいなら長曾我部さんを敵にした方が何倍も精神的に楽であるので思ったことは言葉にしなかった。
一度毛利さんを相手にしたときなんてどれだけ精神的に追いつめるんだ、と聞きたくなるくらいに嫌みを言われ当分立ち直れそうになかった。
思い出すだけで胃がキリキリと痛みそうなので、極力思い出さないことにはしているけれど。まぁ、そのことで自分がドMなんかではないとはっきりと思えたのでそれはそれで良かった……ということは決してない(あれはまさしく悪夢だった)
きっとここの兵士さんの中にはその嫌みがむしろ良い!あの冷たい視線が最高だ!と感じている人が何人もいることだろう。大人って怖い。
「ま、そういうなって」
「うわぁ!ちょ、長曾我部さん?!」
長曾我部さんは常に空気を読める人ではあるが、たまに読めないときもある。あえて読んでいないのかは未だに定かではないのだけど自分が犠牲になるとあっては黙ってはいられない。まるで俵を抱えられるかのように長曾我部さんの肩に乗せられた私。
のんきに「たかーい!」なんて喜べる年でもなく、むしろいきなりそんなところに抱えあげられて戸惑わずにはいられない。
ましてやこれでも一応女の子で恥ずかしい気持ちだってある。
今はそんなことよりも、長曾我部さんうざい、という気持ちが勝っていたけれど(この時点で女の子としてどうなんだ自分)それに女の子にたいして軽々しくこんな行為ができる長曾我部さんの神経を疑う。
あ、もしかして私のこと女の子なんておもってないとか?
別に悲しくなんて、ない!!
さすがに暴れたら落ちるなんてことは考えなくても分かったので暴れることはしなかったけれど、とりあえずもてる力をすべて使い長曾我部さんの背中をおもいっきりたたいておいた。
長曾我部さんの痛がる声が聞こえたが、気にはしない。膝でおもいっきりお腹を蹴らなかっただけ偉いと思ってもたいくらいだ。
「何をしておる」
「ん?まぁ、人質ってな。」
「人質だと?」
あぁ、毛利さんの心の声が聞こえる。私からは毛利さんは見えないけれど、こんな小娘が人質だと、ハッ!と鼻で笑っている毛利さんが容易に想像が出来た。
「こんな小娘が人質だと、ハッ!」
……実際に言われちゃいましたけどね!
想像していたことだから決して悲しくはない。が、ちょっとだけ捨てられた、と思ってしまった。
それにまだお菓子を食べている途中なのに、なぜ私がこんな目にと思わないこともない。
しかし、まだ毛利さんの言葉には続きがあった。
その続きに思わず目を丸くして長曾我部さんの肩に乗せられたまま固まってしまった。
「だが、お前ごときに連れて行かれるのもしゃくだ」
だから遊びにつきあってやらんこともない、となんだかすごく上から視線の言葉が毛利さんの口から紡がれた。毛利さんの言葉で上から視線じゃない言葉なんて聞いたことはないのだけど、その言葉に豪快に長曾我部さんが笑う。 笑うたびに肩が動き、振り落とされそうな気になるのだけど長曾我部さんは私のことなんて気にしていないのか笑うのをやめてはくれない。きっと彼は私が今死にそうになっていることなんて彼は気づいていないに違いない。
この人私のことを女の子として見てくれていないまえに、人として見てくれてないんじゃないだろうか。そんなにシェイクされて、もちろん私の体ががもつわけもなく
「は、吐きそう」
ぼそっと小さくつぶやいた言葉だった。けれどその言葉でやっと自分がどれだけ私の体をシェイクしていたのかに気づいてくれた長曾我部さんは私を急いで厠へと連れていってくれた。後ろから毛利さんのいつもの「馬鹿め」という言葉が聞こえたけれど今はそんなこと気にする余裕もなかった。それにこの場合の馬鹿は間違いなく私ではなく、長曾我部さんのことだ。
「だ、大丈夫か?!」と焦ったように言いながら背中を優しくさすってくれたが、当分長曾我部さんに近づかないどこうと心に決めた瞬間だった。
(2010・04・17)
本編に出ていないのに管理人が調子乗りました。ごめんなさいすいません本当に申し訳ありません(土下座)
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